関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

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スポーツジャーナリスト
杉山 茂さん

とき
平成20年4月3日
ところ
株式会社エキスプレススポーツ
インタビュアー
鈴木周 会報広報委員会委員

 今回の「わたし」は,スポーツジャーナリストの杉山茂さんです。
 杉山さんは,1936年東京都生まれの72歳,59年に慶応大学を卒業後,NHKにディレクターとして入局されました。7年間の名古屋支局勤務を経たあとは,一貫してスポーツ番組の演出と企画を手がけ,88年から92年までは同局のスポーツ報道センター長を務められました。NHK時代はアマチュアスポーツのほぼ全域をカバーし,マラソンやボールゲーム中継に斬新な演出方法を導入されました。またオリンピックのスタッフとしての経験は12回に及び,95年から98年まで長野オリンピック放送機構のマネージングディレクターを務められました。98年にNHKを退局された後は,2002年FIFAワールドカップ日本組織委員会放送業務局長,Jリーグ理事,日本アンチドーピング機構理事等の要職に務める傍ら,スポーツ番組制作会社であるエキスプレススポーツのプロデュサーとしても活躍されています。
 2003年には,「テレビスポーツ50年」(角川書店)を著されておられるように,まさに日本のスポーツメディアの草分け,いわば生き字引のような方と言ってよいでしょう。

杉山さん,こんにちは。「テレビスポーツ50年」を読ませて頂きました。力道山から松井秀樹までですから,随分読みでがありました。数字や写真も豊富で,これはスポーツ史の資料としても貴重ですね。

杉山さん これは,もともとスポーツだけなくて,「テレビとニュース」とか「テレビとドラマ」とか,それぞれのテーマで各章が構成された「テレビ50年史」という本になるはずだったんです。私はその中のスポーツ編を書くということですね。でも,他のテーマはNHKと民放のどちらの事情にも詳しい人がいなくて,角川書店が「人選も難しいし,あんまり売れそうにもないから,この企画はボツだな。」と決めたのですが,私はとっくに書いてしまってて,「え? 杉山さん原稿できたんですか。じゃ,スポーツだけ膨らまして出そう。」ということになったんですよ(笑)。

杉山さんはテレビスポーツの歴史そのものみたいな人ですからね。お手のものですよね。杉山さんご自身は競技暦はおありなのですか。

杉山さん ハンドボールをやっていました。

そうですか,ハンドボールといえば,この間「中東の笛」疑惑で,オリンピック予選が揉めましたね。それで社会の認知度が急に進んだという側面もありますが。あれは今,スポーツ仲裁裁判所にかかっているんでしたでしょうか。

杉山さん もう裁判所の裁定が出ました。「ハンドボール国際連盟がアジア連盟の告知聴聞をせずに再度の予選開催を決めたのは手続違反である」と。でも「アジア予選のレフェリングは適切ではなかったのも事実なので,結果的に男子の場合には再度の予選結果を優先させる」という判断です。男子の場合にはちゃんとビデオが残ってましたから判断できたんですね。

なんだか玉虫色ですね。手続はまずいが,中身はよいのでOKということですか。

杉山さん そういうことですね。この問題はこれで終わりではなくて,国際連盟とアジア連盟で,今後のコンセンサスを形成するのに,まだまだ時間がかりそうです。

杉山さんがNHKに入局された59年といえば,いわゆるご成婚の年ですが,丁度爆発的にテレビが普及してきた頃でしょうか。

杉山さん そうですね。64年の東京五輪に向けて,その前のローマ五輪の中継なんかも力を入れ始めた頃です。でも,まだ,3~4年は街頭テレビも現役でしたよ。私も,スポーツばっかりというわけにもいかなくて,最初は名古屋で,議会の中継とか節分の豆まきの番組制作とかやってました(笑)。まだまだテレビ放送のコンテンツ自体が未分化でしたね。

スポーツ中継のどういう部分に魅力を感じておられたのでしょうか。

杉山さん やっぱり,生の迫力に触れるということ,やり直しが効かないということ,複数の視聴者が同時に熱中して興味を持てるということですね。歌手の方なんかは,同じ衣装で同じ歌をいつでも歌えるわけじゃないですか。でもスポーツの場合には,同じものの再生は絶対にできないわけです。今,目の前で進行している競技中継は,まさにリアルタイムで行われているわけで,そのスリルを出来るだけ忠実に伝えたいと思ったのです。

放送技術も格段に進歩してきたと思いますが,60年代からスポーツ放送のあり方というのはどのような点で変わってきましたか。

杉山さん やっぱり,スポーツコンテンツの商品化と,女子スポーツの発展ですね。特に商品化はすさまじい勢いで進みました。さっきお話した歌手の例と違ってスポーツは再生産できないので,人気の競技と試合はどうしても取り合いになってしまうのです。それで放送権料が高くなって,それによってスポーツ競技自体もどんどん変化してきました。

スポンサーや視聴者の絡みですか。

杉山さん そういうことです。放送権料が高くなると,高いお金を払ってる側が要望を出すようになるんですね。「競技時間が長いから,短くスピーディーにしてくれ。」とか「もっと見易くしてくれ。」というふうにです。例えば,ウィンブルドンでボールが黄色になったのもそういうことです。ローズウォールの頃は白だったでしょ? バレーボールのラリーポイント制だってそうですよ。それまで放送時間が読めなかったんですから。

ローズウォールなんて久しぶりに聞きました(笑)。さすがベテランです。
オリンピックで言うと,サマランチ会長の就任から商業化がどんどん進んできたと言われていますね。84年のロス五輪からでしょうか。

杉山さん いや,その前のモスクワからですね。実はソ連は放送権料を随分高く言ってきたんですよ(笑)。結果的には西側のボイコットでフイになりましたが。オリンピックでは80年代から商業化が進んできたんですが,それにつれて「採算が合わないから競技数を増やせ。」という要望が高まってきたんです。東京五輪なんて20競技ですよ。ただ,競技数増にも限界があって,その次に来たのがプロ化の波です。「共産圏のステートアマばかり勝ってつまんないからプロを参加させろ。」というふうに,どんどん商業ベースで変わっていくわけです。

純粋にアマチュアのスポーツだったのはどのあたりまでなんでしょうか。

杉山さん 72年のミュンヘンあたりまででしょうかね。なにしろ,この頃は,選手紹介に職業欄があって,「教員」とか書かれてましたからね(笑)。それが,76年のモントリオールから変わって,共産圏のステートアマを含めて,西側の代表たちもその欄に「アスリート」と書くようになりましたね。

猫田とコマネチの間には深い溝があったんですね。
今度の北京五輪は環境問題とか,チベット問題なんかも絡んで,大変そうですが,無事に行われるか心配ですよね。

杉山さん まず,開催時期が問題ですよ。だって,東京五輪もソウル五輪も,その国の一番いい時期,具体的には10月とかに開催しているんですよ。それが今では,アメリカなんかそうですが,10月がプロスポーツの掻き入れ時なもんだから,選手が行きたがらないし,チームも出したがらないんですよ。無理に10月に開催したところで視聴率も上がりませんしね。だから,今後も五輪は,欧米がバカンスに入っている8月開催ということで動かないと思いますよ。商業化ベースで考えると,温暖化の議論なんかどっかにいっちゃうわけです。選手には気の毒ですが。

8月の北京なんてゾッとしますね。マラソンなんか熱中症でバタバタ倒れるんじゃないでしょうか。大丈夫でしょうか。

杉山さん いや,大丈夫じゃないと思いますよ(笑)。大気汚染なんかは,それこそ何週間か車を規制するとかすればなんとかなると思いますが,暑さはどうにもなりませんからね。昨年8月終わりに大阪で行われた世界陸上では,各国の選手が暑くて辟易としてましたが,中国の選手は「来年のオリンピックはこんなもんじゃないよ。」と言ってました。もっとも,日本のマラソン選手は根性があるから,そういった悪条件のほうが期待持てそうですが。

チベット問題もあって聖火リレーが混乱していますね。

杉山さん そう,オリンピックは,全世界的に中継されるイベントですから,政治問題やテロなんかは格好のターゲットになるわけですよ。68年のメキシコ五輪の黒人選手の抗議とか,72年のミュンヘン五輪のテロとか,80年のモスクワ五輪のボイコット,その報復の84年ロス五輪とかね。チベットの運動も,このタイミングを狙ったと見られるわけです。とにかく今は北京五輪成功のために,いろんなものを押さえこんでいるわけで,終わったあとに政治的にも経済的にも混乱が生じないか心配ですね。

杉山さん自身は,北京五輪の中継などはされないのですか。

杉山さん エキスプレススポーツのスタッフが,NHKと一緒に体操の中継をすることになっています。でも,私は,体力的なこともあるし,現場で瞬発力を発揮するというのもなかなか大変ですから,日本で応援ですよ(笑)。

あら? スポーツ競技の中継は,中国の局が作って,そこから各国が買うんじゃないのですか。

杉山さん いや,オリンピックの中継は,各競技ごとに得意な国の局が受け持つんですよ。アテネ五輪なんか,地元の局は開会式と閉会式とサッカーの一部だけだったんじゃないですか。野球はキューバの局が担当してましたね。やっぱり,その競技が得意な国の局でないと,中継のノウハウがないから,うまく行かないんですよ。ホームラン出ても関係ないシーンを写してたり(笑)。だから,北京五輪も体操はNHKとウチの会社がやって世界中に配信するわけです。柔道はフジテレビですね。

そうなんですか,全然知りませんでした。
オリンピックもそうですが,日本のスポーツ界の今後の発展についてはどう見ていらっしゃいますか。

杉山さん いっそう競技志向と健康志向の両極端に発展していくのじゃないでしょうかね。また,スポーツが大衆化し,家庭化していく中で,女子の競技はどんどんレベルが上がっていくと思います。女子スポーツに対する社会的なコンセンサスが出来てきて,競技年齢が飛躍的に延びていますし,柔道の谷選手みたいに家庭を持っても一線で活躍するような人がどんどん出てくるんじゃないでしょうか。

男子はなかなか期待持てませんか。

杉山さん 欧米と身体のサイズがだいぶ違うからなあ…,身体接触のある競技は今後も厳しいでしょう。それに,日本では伝統的に企業アマ,いわゆるカンパニーアマとして競技が続けられてきた土壌がありますから,欧米でプロ化しているスポーツとはどうしても差が出てしまいますね。企業も株主への配慮もあって,年間5億もかかるスポーツ部を抱えておけませんから,そのカンパニーアマの維持すら難しくなるかも知れませんが。

でも,ラグビーのトップリーグなんかは,錚々たる大企業ばかりで,今年も三洋電機とサントリーで盛り上がりましたね。

杉山さん ラグビーはちょっと特別で,「One for all All for one」という精神が,日本の企業風土にあうんですよ。経営者はラグビー好きですしね(笑)。ブルーカラーとホワイトカラーが会社発展と意識発揚のために一体になれるということで,株主に説明しやすいし理解も得られやすいのです。それにしても三洋は今年優勝してよかったですよね。去年から会社の調子が落ち込んでいたところですから。今の三洋はラグビーとお嬢さん方でずいぶん助かってるんじゃないですか。

お,お嬢さん方って,もしかしてオグシオのことですか。さすが重鎮,言葉の重みが違いますね(笑)。
本日はどうもありがとうございました。これからもご活躍を期待しております。

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