関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

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漫画家・コラムニスト
辛酸なめ子さん

とき
平成20年11月5日
ところ
弁護士会館14階 関弁連会議室
インタビュアー
鈴木周 会報広報委員

 今回の「わたし」は,漫画家でコラムニストの辛酸なめ子さんです。辛酸さんは,東京都千代田区の出身で埼玉県育ち,女子学院中学校と高等学校を卒業され,武蔵野美術大学短期大学デザイン科グラフィックデザイン専攻を卒業されました。短大在学中より,漫画家の中ザワヒデキさんの事務所でアルバイトするかたわら創作活動に励まれ,93年ころからマッキントッシュのパソコンを使った作品を制作し,94年に渋谷パルコ主催のゴームズ漫画グランプリでゴメス賞を受賞し世の注目を集めました。また,95年からは,当時珍しかったインターネットのブログ「女・一人日記」を立ち上げ,ネットを媒体とする表現者としても認知され,その後のコラムニストとしての活動につながっています。慇懃でおっとりとした文体とは裏腹に独特な画風と皮肉の利いたコラムで人気を博していますが,文筆業だけではなくて,テレビのコメンテーターやラジオのパーソナリティーなど,メディアを問わず様々な分野で活躍されています。先日は,阿曽山大噴火さんとの共著「B級裁判傍聴記」を出され,裁判員制度についても多大な興味をお持ちのようです。

辛酸さんはじめまして。辛酸さんは,本当にいろんな活動をしておられて,漫画家やコラムニストなどのほかにメディアアクティビストなどの肩書きで呼ばれていますね。あと,アート作品なんかでは本名の池松江美さんのお名前を使っているようです。どんなご紹介をすればいいのでしょうか。

辛酸さん 漫画家でいいです。漫画が私の基本です。それに本名とは厳密に使い分けてなくて,呼ばれ方にあんまりこだわりはないです。

大学ではグラフィックデザインを勉強されて,その後漫画の世界に進むわけですが,いつ頃から漫画家を目指していたのですか。

辛酸さん 高校の頃からでしょうか。父がデザインの先生をしていた関係で,小学校の頃,家にコンピューターがあったのですね。あの頃はマイコンと言われてましたが,ミュージックテープにデータを入れて使うやつ,覚えてますか。

あー,ありました。茶色いソニーのCHF-120にデータ入れて迷路ゲームとかやってましたよね。今考えるとファミコンにも劣る性能でしたね。

辛酸さん そう,それで少し興味を持っていたのですが,私が高校のとき父が左手を怪我して補償金が入ったので,家のパソコンが急激にグレードアップしてマックになったんです。それから,学生のフリーペーパーに参加し,デザイナーの人とかと知り合って私もマックで何かを作りたくなりました。

お父さんの労災で途が決まったのですか。人生なにが機縁になるか分かりませんね。漫画家として世に出たのはいつ頃でしょう。パルコのゴメス賞でブレークしてからですか。

辛酸さん いやあれは,別にそんな大きな賞ではないんです。それに今でもブレークなんてしてません(笑)。実際には,賞を貰う前の18歳のころから雑誌なんかにイラストや短い文章を書いていました。アルバイトだったのが,いつのまにか生業になっていったという感じでしょうか。

そういえば,ブログの立ち上げも,ものすごく早いですよね。95年からですか。ほとんど草分けといっていいんじゃないですか。

辛酸さん そうですね,その頃はまだネットの会社も2社くらいしかなくて,規模的にもとても小さかったですね。94年頃は,インターネットにつなぐポイントも国内に二ヶ所くらいしかなかったです。SFCの一期生の知り合いにいろいろ教えてもらいました。
 99年にテレビ埼玉から声がかかって「インターネット天国」という番組に1年間出させて頂いてから仕事の幅が広がって,たまにテレビやラジオの依頼が来るようになりました。Web日記を始めたころは,全く意図しなかった展開でした。

その後は,テレビを始めコメンテーターなどでご活躍のようですが,メディア活動は今後も広げて行くおつもりですか。

辛酸さん いや,やはり芸能界はいろいろと怖いところですから(笑)。テレビに出すぎると体力的にも消耗するし,メディア的にも使い尽くされるので,特に広げていこうとは思っていません。雑誌の企画で潜入取材をしなければならないことも多いので,顔が出過ぎるのもよくありませんし。

近頃は法廷傍聴にも興味がおありのようで,阿曾山大噴火さんと共著まで出されてますね。以前から傍聴には行かれていたのですか。

辛酸さん いえ,それ以前は,一度見に行ったことがあるだけです。ほら有栖川宮を名乗ったニセ皇族の詐欺事件があったじゃないですか。もともと皇族の追っかけをしていたことに加え,あの奥さん役の人がすごく演技じみてて法廷で泣いたりなんかしていたので,気になってしょうがなくて見に行ったのです。

裁判所の印象はどうでしたか。

辛酸さん そのときは東京地裁でしたが,私のように慣れないものには,なにかこう裁判所全体が負のオーラに包まれていて,大変疲れました。建物全体が邪気を放っているというか。

邪気はどうか分かりませんが,確かに東京地裁はちょっと暗めですね。荘厳さとか威厳を出すためでしょう。横浜地裁なんかは建て替えたばかりで,法廷も白木だしとても明るいですよ。こっちは白州のお裁きというか清潔感を出すためでしょうかね。

辛酸さん それはとてもいいですね。私でも大丈夫そうです。あの時には本当に疲れてしまって,「もう一人では行けない」と思いました。

今回,共著を書くのにも傍聴に行かれたわけですよね。何をした被告人でしたか。

辛酸さん 確か,不法滞在と窃盗と恐喝でした。判決言い渡しも見たので,3つもあったのです。

印象に残った場面はありましたか。

辛酸さん 裁判官が女性の被告人にはとっても優しかったのでビックリしました(笑)。今後は注意して生活しなさないね,みたいなことを親切に言ってましたよ。その被告人も,なんかワンピースみたいな服を着ててちょっとかわいい格好をしてたせいでしょうか。

ははは,それはどうか分かりませんが,確かにワンピースは珍しいです。普通はジャージの上下ですからね。私なんかはよくドンキでジャージ買って差し入れしますよ。

辛酸さん ドンキのジャージじゃ,逮捕された人は本当に惨めな気持ちになりそうですね。ますます負のオーラが強まりそうです。

ところで,そろそろ裁判員候補者名簿掲載の通知がされますが,裁判員についてはご興味おありですか。

辛酸さん あります,なにしろ裁判フェスタなんかにも参加して,刑務所のご飯を食べたり,服役者が作った微妙なキャラのヌイグルミとか,逮捕状の見本とか見物してるくらいですから。どれもマニア垂涎ですよ(笑)。だけど,裁判員は最初に面接があるんですよね。常識人じゃないとダメなんじゃないですか。私みたいに発言しなそうな人は落ちそうだし。

辛酸さんなら全然大丈夫でしょう。それに,他の裁判員とずっと一緒に討議するんだから,自然と意見も出ると思いますよ。でも,日当8000円くらいで何日か拘束されるので,お忙しい方は辛いですよね。

辛酸さん でも時間が合うなら是非やってみたいです。本当は,面接で落ちて日当貰って帰るというのが一番お得なんですけど。

そんなこと考えたこともなかったですよ(笑)。我々法曹関係者は一生できないんだから,これは貴重な体験なんですよ。張り切ってやってください。

辛酸さん そうですね。事件の内容は書けませんけど,裁判員同士親交を深めて反省会や打ち上げとかしたら楽しいかもしれません。

そうそう。辛酸さんらしく,慇懃できわどいのを書いてください。
 本日はどうもありがとうございました。

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