従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
棋士
稲葉禄子(いなばよしこ)さん
今回の「わたし」は,囲碁の世界から,美人で有名な稲葉禄子さんにご出演いただきました。
稲葉さんは,2つの囲碁サロンを運営される傍ら,NHKやスカパー,囲碁将棋チャンネルなどで「ザ・パッション!!」「囲碁講座」「ドコモ杯女流棋聖戦」のレギュラー番組をお持ちで,日々,囲碁の普及や指導に尽力されています。囲碁の実力者である植田会員にもご協力いただき,お話をうかがいました。
―まず,囲碁を始めたきっかけについておうかがいしたいのですが,やはりご両親に教えてもらったのですか。
稲葉さん 私の両親は特に囲碁の世界の人ではないんです。私は,もともと負けず嫌いで,自分が勝つまでゲームをやめないタイプの子供だったのですが,オセロが結構強かったようで,5歳の時に,池袋のデパートでやっていたオセロ大会に出場しました。そうしたら,決勝まで進んで中学生のお兄さんと対戦することができました。でも,結局は,優勝者がもらえる大きなトロフィーに目を奪われて,めちゃめちゃに負けてしまいましたけど(笑)。その勝負に燃える私の姿を見た父が囲碁の入門教室に通わせるようになり,6歳で囲碁を一通り覚えました。
―なるほど,そうだったのですか。自分の6歳の頃を思うと,考えられませんけどね。
稲葉さん プロ棋士を目指すのでしたら,6歳というのは決して早くはないのですよ。3歳から石を触らせて,4,5歳で簡単なルールを覚えさせるのが一般です。プロになるには年齢制限があって,それが21歳なんです。プロ養成所では14歳くらいで肩たたきが始まります。
―うーん,厳しい世界ですね。それでは,稲葉さんは幼いころから囲碁一色だったのですか。
稲葉さん 3歳からピアノもやっていました。ただ,ピアノとオセロと囲碁で,全部が白・黒ですので,モノトーンな子供人生でしたね(笑)。「どれかに絞りなさい」ということで,結局,囲碁に絞ることになって,11歳から16歳まで日本棋院の院生としてプロ修行をしました。プロになるには1日8時間くらいの勉強が必要なんです。
―そんなに囲碁をやったら,目が白黒しちゃいますね(笑)。プロ棋士は男女いらっしゃいますが,男女の違いってあるのですか。
稲葉さん 将棋は男女別々なのですが,囲碁は男女が一緒に戦い,同格なんです。ですから,囲碁の女流はかなり強いし,歴史もありますよ。違いというと,総じて女性の方が石を取ることが好きで,碁が激しいですね。他方,男性の方が全体を見るバランス感覚がいいです。
―稲葉さんはプロにはならなかったようですが,日本棋院の後はどうされたのですか。
稲葉さん アマの幾つかの大会で優勝したりしましたが,短大を卒業してから,3年間は好きなことをやろうと,イギリスとフランスに語学留学しました。帰国して就職をどうしようかと思っていたところ,割とすぐに,ご縁のある方からテレビの囲碁番組の聞き手をやりませんかと誘われて,また囲碁の世界に戻ってきました。
―それでテレビに出演されるようになって,NHK囲碁講座やNHK杯囲碁トーナメントの司会などを歴任されたわけですね。出演した番組数はどのくらいの数ですか。
稲葉さん 500本以上かな?
―こ,これは恐れ入りました。何か賞を受賞されたことがおありとか。
稲葉さん 平成14年にテレビ囲碁番組制作者会賞をいただきました。それまでは囲碁番組の司会はほとんどプロに限られていたので,受賞者もプロばかりでした。アマで司会をしたのは私がほぼ初めてだったんですが,アマだとプロがしにくい質問も平気でできるし,おちゃらけもできるんですね。それで異色と思われたのかな。この賞を受賞できたことは,大会優勝よりもうれしかったですね。
―テレビ出演のほかにも,「ダイヤモンド囲碁サロン」と「囲碁サロンRanca」という2つの囲碁サロンを運営されているのですよね。
稲葉さん はい。夫と一緒に運営しているのですが,麹町でやっている前者が9年目,溜池でやっている後者が8年目になります。
―「Ranca」って,どういう意味なんですか。
稲葉さん よくぞ聞いてくれました(笑)。「爛柯」っていう中国の浦島太郎みたいなお話があるんです。時の流れを忘れるほどに囲碁は面白いという意味のお話なので,この名前を付ける囲碁サロンは結構あります。私は女性らしさを出すために,英語に直して,蘭の花のイメージも付け加えるようにしました。
―今,私達がお邪魔している「ダイヤモンド囲碁サロン」も,従来の碁会所のイメージとは異なる,明るい雰囲気の所ですね。
稲葉さん ここは,もともと半蔵門のダイヤモンドホテルの中にあったのですが,ホテル側の事情で立ち退かざるを得なくなり,今のビルに移りました。結果的に,麹町駅に直結しているビルなので,便利になりましたけどね。ここの自慢は,大きいカウンターと生ビールサーバーです。
―おおっ,生ビールをいただきたいのですが,仕事中ですので…。ところで,弁護士にも囲碁が好きな人が多いので,こちらのサロンにも通われている方はいるんじゃないですか。
稲葉さん ええ,実はすごくいっぱいいますよ。弁護士さんは,職業柄か,対局中も結構にぎやかだったり(笑)、それからバランスがいい人が多いという印象です。
―ズバリ,囲碁の面白さは。
稲葉さん 囲碁の面白い所は,奥の深さですかね。強くなればなるほど難しさが分かります。そして,一局打つと旧知の仲になれます。サロンにいる人達とは,一緒に飲食をしたりしなくても,みんな友達のようになりますよ。あとは,自分が投影できるというか,気づかされることも多く,結構性格が表れたりします。例えば政治家の方でいうと,与謝野馨さんは定石通で,スジにこだわります。小沢一郎さんはバランスを見て全体の主導権を握る感じで,部分的なことにはこだわりませんね。山崎拓さんは後半の読みがめっぽう強いです。
―どんなタイプの人が強くなりますか。
稲葉さん 定石にこだわってキッチリ打つタイプよりも,ちょっといい加減なタイプの方が強くなりますね。
―へえ,そういうものなんですか。そう言えば,オセロやチェスはコンピューターの方が人間よりも強いですが,囲碁はまだまだ弱いですよね。
稲葉さん それはおそらく,石の価値が同じで,ルールが少ないことによると思います。19×19の碁盤で,初手は重複を除くと36通りしかないのですが,7手で兆を超えるのだそうです。一局平均で220~240手といいますから,可能性は天文学的数字なのでしょうね。どう計算したのか分かりませんが,10の360乗の可能性があるという説と、そんなに少ないわけがないという説もあるくらい。コンピューターは感覚で打てないので大局的な判断が苦手なんですね。
―今年5月から裁判員制度が始まりますが,裁判員をやりたいと思いますか。
稲葉さん 積極的にやりたいというわけではないですが,呼ばれれば行きます。だって,義務だもん(笑)。ただ,不安はありますね。もう少し子供の時から学校で教えるなど,訓練期間があればいいなと思います。根付くまでに時間がかかるのじゃないかな。あと,自分勝手な感情が入りそうで…。生理的に嫌いな人の場合,自分がフェアに考えられるかなとか,反対に一目ぼれしちゃったら,「無実です!」みたいな(笑)。
―最後に,読者の皆さんにメッセージをお願いします。
稲葉さん 囲碁は頭のスポーツです。囲碁をやると人生がさらに楽しく充実し,友人もたくさんできますので,是非囲碁をやってみてください。そして,うちのサロンに来れば強くなりますし,おいしい生ビールが飲めますよ(笑)。
―長時間,本当に楽しいお話をありがとうございました。
追記;インタビュー後,稲葉さんのブログ(http://yoshiko3.exblog.jp/の2月4日14時29分)にも緊急出演させていただきました。