関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

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全国骨髄バンク推進連絡協議会会長
大谷貴子さん

とき
平成21年11月1日
ところ
東京有明医療大学理事長室(江東区)
インタビュアー
関弁連会報広報委員会
小口幸人委員,二川裕之委員

 今回の「わたし」は,日本初となる骨髄バンク設立運動に奔走された大谷貴子さんです。大谷さんは1961年生まれ。25歳のときに慢性骨髄性白血病と診断され,余命数ヶ月と宣告されました。当時,治療方法としてすでに骨髄移植という方法はありましたが,骨髄バンクが日本にはなく適合者が見つかりませんでした。しかし,大谷さんは自らの適合者を見つけるために厚生省(当時)に骨髄バンクの設立を訴え,同じ病に苦しむ患者やその家族らと共に署名活動等に奔走しました。そんな中,幸運にも自身は母親と型が一致することがわかり(親子で一致することは稀)骨髄移植を受けました。
 その後は日本骨髄バンクの設立に尽力し,現在は,全国骨髄バンク推進連絡協議会の会長として,骨髄バンクの普及活動に日夜取り組んでいらっしゃいます。
 著書には『霧の中の生命(いのち)』(リヨン社),『生きてるってシアワセ!』(スターツ出版)などがあります。

骨髄提供と聞くと,何となく痛そうだなと感じてしまうのですが,実際はどんな方法で行なうんですか。

大谷さん ドナーさんには,おしりの少し上の腸骨というところに太い針を刺します。そこから骨髄液を採ります。安全のために全身麻酔をしますが,メスで切るような手術ではありません。翌日には歩けるようになるのが一般的です。
 採取した骨髄液は患者さんへ点滴で注入されます。「骨髄採取術」「骨髄移植術」というと仰々しいですが(笑)。

肝心のドナー数がついに30万人を突破したということですが,それでもドナーは足りないのですか。

大谷さん 足りません。現在,患者さんが自分の白血球の型(HLA型)に合うドナー候補者を1人以上見つけられる可能性は96%ぐらいです。いまだ4%の人はドナーさんを見つけることが出来ません。さらに,ドナー候補者が見つかっても, 実際にドナーが決まって移植まで至るのはたった55%です。

55%という数字は正直驚きなんですが,それはどうしてですか。

大谷さん 骨髄バンクでは,提供に至るまでの過程でドナーさんの自身の安全を最優先とします。そのためにドナー候補者は徹底的な検査を行ないます。検査による判断基準は自ずと厳しくなり,検査結果により骨髄バンク側よりお断りせざるを得ない場合があります。
また,ドナー候補者がご家族に反対されたり,自身が妊娠中だったり,海外への出張等お仕事が忙しくて休めなかったりと,候補者側にも色々な事情があり辞退されることがあります。その結果が55%という数字です。
したがって,適合するドナー候補者は1人よりも多ければ多いほど移植に至る確率は高くなります。
でも,正直1人以上のドナーさんが見つけられる患者さんやご家族はまだ幸せだと思います。仮に結果がうまくいかなかったとしても,生きるチャンスは与えられた,やれるだけのことはやったと感じることができるんだから。
4%の患者さんは,生きるチャンスすら与えられないのです。病気を治すための骨髄移植という治療方法はある。治療さえ受けられれば治る可能性はある。それなのに,その治療を受けることすらできない。こんなに悲しいことはないでしょう。

大谷さんは実際にドナー候補者が見つからない患者さんに接する機会があるんですね。

大谷さん 例えば,ある高校生の場合がそうです。彼女は少し前まで元気でした。自分の学校でたまたま私の講演があって話を聞いたこともあったそうです。そんな彼女が白血病を発症して,いま骨髄バンクで検索していますが適合者がいません。ドナー候補者が見つかれば私も励ましようがあるのですが,見つからないと声のかけようもないのです。

もしそこに適合するドナーさんが現れたら…。

大谷さん とても嬉しいと思います。例えば,今日私は講演をしました(注:11月1日,東京有明医療大学大学祭における講演)。もしあの講演を聞いた人がドナー登録をして下さって,ひょっとしたらその人と合うかもしれないし, 明日登録する人と合うかも知れないのです。1対1ですから。あなたが骨髄バンクに登録し,適合する患者さんが見つかり提供することで,誰かの命を救えるかも知れない,骨髄バンクのドナーになるということはそういうことです。

大谷さんが白血病になったときは,骨髄バンクはなかったんですよね。発病した後たった1年の間にドナーを自分で探したり,国にバンク設立を掛け合ったり,署名活動を行ったりと,様々な活動をされたそうですが,どこからそのバイタリティーは出てくるんですか。

大谷さん 怖い物知らず,ということでしょう。もちろん,当時は色々な人から色々な事を言われましたよ。でも,あまり気になりませんでした。わがままと紙一重ですけれどね(笑)。
私の人生は誰も背負ってくれないといつも思っています。死ぬときも一人ですし。もちろん,当時も理詰めに考えてやったわけではありません。当時は,私自身生きるか死ぬかだったので,イケイケどんどんですね。気づいたら役所の人の胸元を掴んで「私を見殺しにするの!」って迫っていました。その人が悪いわけではないのに。
でも,今でも患者さん達をみているとそういう気持ちになります。バッシングする人達をみても,「そんなこと言ってる人は幸せやなぁ」と思ってしまいます。「自分が死ぬか生きるかしてないから,そんなこと言えるんやで。自分でなくてよかったねぇ」って。
毎年6000人が白血病を発症します。それこそ先生が明日なるかも判らないのです。骨髄バンクにドナー登録した人があとで発病し,骨髄バンクで適合者が見つかったと思ったら自分自身だったというケースもありました。

ところで,骨髄バンクの移植までの過程で,ドナーさんや家族の意思を確認する「最終同意面談」という場面に弁護士が立ち会うことがあると聞いたことがあるのですが,詳しくお話しいただけますか。

大谷さん 最終同意面談の際には弁護士の先生にもご協力いただいています。最終同意面談とは,ドナーさんの最終意思を確認する場のことです。
どうしてこの意思確認をするかというと,骨髄移植をする直前,患者さんは大量の放射線を浴び,全ての癌細胞をやっつけます。これを前処置といいます。しかし,大量の放射線を浴びるので,免疫力もなくなります。すぐに移植を受けなければ死んでしまうのです。
そこで,前処置に入ったあとでドナーが断るようなトラブルが起きないように,しっかりと説明をして理解してもらった上で最終的に骨髄提供の同意をいただきます。ドナーさんが安心して心から同意できるように,第三者として弁護士の先生の立会いをお願いしています。
 しかし,全国すべてで弁護士が立ち会っているわけではありません。

え,そうなんですか。

大谷さん 弁護士会単位で協力してもらえているのは,東京と広島だけです。他では「行きますよ」とおっしゃってくださる先生に個別にお願いしています。以前は協力してくださっていた弁護士会などもあったようですがその他は病院の医師や看護師,コーディネーターが立ち会う場合が多く,稀に候補者の知人にお願いすることもあるようです。私もドナー候補者に頼まれて立ち会ったことがあります。
 このような経緯もあり,骨髄バンクでは当初「最終同意面談のときに弁護士が立ち会うこと」という項目があったのですが,これを外さざるを得なかった。先生も知らなかったでしょう。

恥ずかしながら全く知りませんでした。弁護士は人権を守らなければならず,生命は究極の人権ですし,ドナーさんの権利人権も守らなければならないのですが,何というか申し訳ありません。
 そうすると,その他の県では…。

大谷さん 先ほどお話したように,個人レベルで協力していただいているのが現状です。でも,どの弁護士さんも行けないときは骨髄バンク側の人が立ち会うことになるのですが,でもこれは何かあったら危ない,綱渡り的な部分があります。ドナーさんにとっても,バンク側の人しかいないのか,中立な弁護士が立ち会ってくれるのかというのは,全然違うと思います。

これは弁護士会が取り組まなければいけない課題ですね。是非とも早急に解決しないと,恥ずかしい限りです。ちなみに,裁判員制度についてはどのようにお考えですか。

大谷さん 是非やりたいと思います。もちろん,素人が人を裁けるかと言えば不安は不安ですが,どっぷり浸かっていないからこそ見えることがあると思います。骨髄バンクの活動でも同じです。ある企業の社長さんに「どうして人間ドックのときにドナー登録できないのですか」と言われました。そういう方法もあるのかと,目からウロコでしたよ。
 裁判員制度もそうではないのかと。プロの裁判官も一緒にいるのですから,真摯に意見を言い合える環境があれば,お互いに気づけるところもたくさんあっていいのではないかと思います。

貴重な時間をありがとうございました。また,大きな課題をありがとうございました。

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