大規模な熱帯林の破壊,野生動植物の種の減少,酸性雨,オゾン層の破壊,地球温暖化など,環境問題は,今や1地域を越えた地球全体の生態系の問題として論議され,世界各国は,国際的枠組みの中で地球環境の保全を図り「持続可能な開発」を目指さなければならない段階を迎えている。
しかしながら,我々の生活する地域社会においても,地球的規模の問題と比べ勝るとも劣らない重要な環境問題が存在している。
原生的な自然とは違って,平地林や農地など身近にある人手が加わった自然・緑地は,あまりに当たり前な存在であったために,従来,我々は,それらが持つ保水機能,大気浄化機能,気候緩和機能などの環境保全機能の重要性を認識することもなく,専ら開発の対象として扱い,その保全をおろそかにしてきた。
その結果,この数十年の間に,以前は空気のごとく存在していた身近な自然や緑地の多くが宅地や道路,工場団地などに取って代わられ,自然や緑地が極端に少なくなった都市部では,ヒートアイランド現象が生じ,小規模な集中豪雨によっても都市河川が氾濫し,しばしば光化学スモッグに襲われている。
地域社会において身近な自然や緑地が急速に失われていることを放置し,これ以上地域社会における生態系の破壊を容認することは,我々の生存自体を脅かすことに他ならないのであって,地域社会に残されている身近な自然や緑地を保全・復元していくことは,重要かつ緊急な課題である。
現行法制度は,基本的に,土地所有権を偏重して,土地の利用規制を最低限にとどめ,無限で無償な自然を積極的に開発・利用しようとする思想に貫かれており,自然の有限性の認識が欠如している。
地域社会におけるこれ以上の自然破壊,環境悪化を防止し,身近な自然や緑地を保全・復元していくためには,「自然享有権」が前提としている理念,即ち,自然環境を現在及び将来の国民の共有の財産として,土地所有者及び自然の利用者が共同で保全しなければならないという基本理念が不可欠であって,この理念に基づいた法制の整備を急がねばならない。
我々は,地域住民,国及び地方公共団体などの関係諸機関が,地域社会の自然・緑地を保全・復元していくことの重大性を認識し,緊急かつ最優先の課題として取り組むよう強く求めると共に,その一助となるべく,法制度をはじめとする具体的な施策の検討・提言を行っていくものである。
右決議する。
1993年9月29日
関東弁護士会連合会