平成8年度 宣言
高齢者の財産管理
- 我が国における65歳以上の高齢者人口の全人口に占める割合は,1995年(平成7年)には14.8%に達し,2000年(平成12年)には17.0%,2020年(平成32年)には25.5%に達するものと予測され,世界に類を見ない急激な速さで高齢化が進行しつつある。痴呆化率・要介護率が著しく増加する75歳以上の後期高齢者の全人口に占める割合も,1995年の時点で5.7%,2020年には12.5%に達するものと予測されている。
このような状況と,核家族化や少子化,女性の社会進出などの社会構造の変化とが相俟って,高齢者世帯や独居高齢者の急増をもたらし,また障害者の高齢化も進んでいる。その結果,痴呆症状により意思能力が衰え,また心身機能に障害をもちあるいは低下した要介護高齢者に対する介護や財産管理などが重大な社会問題となるに至った。
- 当連合会が本年6月,管内一都十県で実施した高齢者及び高齢福祉関係者に対するアンケート調査結果によっても,高齢者の財産管理に深刻な問題があるにもかかわらず現行の諸制度は十分に対処できていなこと,高齢者に対する悪徳商法を始め財産侵害が跡を絶たないこと,近親者なども高齢者のもつ財産を目当てにしている場合が見受けられることなどの実態とともに,高齢者本人の意思を尊重し真に本人の権利を擁護するための制度改革が求められていることが明らかとなっている。
- 高齢者をめぐるさまざまな問題に対処するための現行法上の制度としては,民法の禁治産者・準禁治産者制度があるが,これらは1896年(明治29年)に制定された法律に基づく制度で,ノーマライゼーションの理念や本人の自己決定権などについてはほとんど顧慮されていないのみならず,硬直的で利用しにくいなと多くの問題点がある。また,委任や信託,事務管理などの制度も,十分なものとは言い得ない。
こうした中で,いくつかの地方自治体では,高齢者らの権利擁護,財産保護に向けた独自の施策として,権利擁護機関や福祉オンブズマンの制度・財産保全サービスなどを実施している。しかし,これらの諸施策は,貴重な成果を上げている反面,権利擁護機関に調査・勧告権限がなかったり,財産保全サービメについてはいまだ十分に利用されていないなど,多くの問題を抱えている。
- いまや高齢者,とりわけ痴呆性嵩齢者らの財産管理,権利擁護のために新たな権利擁護システムを作り上げることは急務である。そこで当連合会は,次のとおり提言する。
第一に,民法の禁治産者・準禁治産者制度を改革し,痴呆性高齢者や,知的障害者など意志能力の十分でない人々の自己決定権を尊重し,その残された能力を十分に活かす新たな成年後見制度を創設しなければならない。この制度改革にあたっては,
(1) 高齢者や知的障害者,精神障害者,福祉や医療の関係者などの意見も十分に徴し,制度改革に反映させる必要がある。
(2) 本人の能力によって禁治産・準禁治産に区分する二元的構成ではなく,本人の個別具体的な要望にきめ細かく対応しうる一元的構成とし,後見人の権限も部分後見とする制度を検討すべきである。そして,後見事務は,一身専属権を除くほか,身上監護,医療行為の同意などにも及ぶものとし,また後見人侯補者には必ずしも親族を想定しない制度とし,後見人供給のための社会資源を作る
必要がある。
(3) 法定後見制度のみならず,任意後見制度としてのいわゆる持続的代理権の制度についても十分に研究を重ね,その制度化を図るべきである。
(4) 後見人監督の機能をもつ家庭裁判所の監督権限を強化するとともに,裁判官・調査官の大幅増員を含め,その充実・強化を図る必要がある。
第二に,全国各都遣府県の県庁所在地などに高齢者や知的障害者,精神障害者などを対象とし,調査・勧告権限をも有する権利擁護機関や福祉オンブズマンの制度などを設置する必要がある。また,成年後見制度改革が実現するまでの問は,各地の実情に応じて,全国の地方自治体で高齢者の財産保全サービスの制度などを設ける必要がある。
第三に,われわれ,弁護士・弁護士会は,高齢者らの財産や権利を擁護するために,
(1) 高齢者問題を専門的に扱う委員会を各弁護士会に設置し,高齢者に特有の問題を広く視野に入れた「高齢者基本法」や後見人供給機関などについて研究・提言をするとともに,
(2) 高齢者をめぐるさまざまな問題についての研修を強化して,高齢者らを対象にした相談活動を充実,強化し,
(3) かつ高齢者らからの財産管理や身上監護についての委託に応えられる態勢を整備し,
(4) あわせて,各地の権利擁護機関などの整備・創設と活動に積極的に関与していくことを誓うものである。
以上のとおり宣言する。
1996年(平成8年)9月27日
関東弁護士会連合会