ダイオキシン…今何が問題か
史上最強の毒性を有し,世代間にわたって影響を与え続けると言われているダイオキシンによる汚染が,今我が国で深刻な社会問題となっている。
関東弁護士会連合会は,この問題につき,我が国の現状を分析して,対策のあり方を検証し,次の通り宣言する。
第1 ダイオキシン対策の理念と方法について
ダイオキシン対策は,広く廃棄物対策の一環として位置づけられるべきであり,その基本は,大量生産・大量消費・大量廃棄の経済杜会構造それ自体を変革することにある。
すなわち,生産者責任を明確化し,経済的手法を導入して,あらゆる有害物質管理を可能にするシステムを構築するとともに,廃棄物の発生自体の抑制・焼却量自体の削減を実現することである。
第2 国に対する意見
- 国による対策は,ダイオキシン類だけに着目した排煙中の濃度規制などの排出規制に偏っているが,発生抑制対策と比べて,このような規制的手法は補助的手段に過ぎないことを認識すべきである。
- 国が耐容一日摂取量(TDI)を基準として設定した排出基準は,ダイオキシン類に関する知見が必ずしも科学的に十分得られていない現状においては,その値が安全性を保障するものではなく,当面の暫定目標に過ぎないことを明確にすべきである。
- 国による焼却施設の大型化・連続化及び処理の広域化の政策は,中央集権的行政手法により,各地の廃棄物処理の実態を無視し,地方公共団体に財政面を含め多大な負担を与えることが明らかであるから,速やかに政策転換すべきである。また,高温溶融炉については,更に,技術的に未熟であることも明白であるから,その導入には慎重であるべきである。
- 各地方公共団体が,市民の声に裏付けられ,各地の実状に応じた独自の廃棄物対策を十分立案,実施できるように,国は,生産者責任を明確化し,調整的・サービス機能を行い,地方公共団体の政策立案実施並びに市民及び市民団体の主体的活動に関して,支障となる様々な立法・行政上の問題を早急に解消すべきである。
第3 地方公共団体に対する意見
- 地方公共団体なかんずく市町村は,ダイオキシン対策を廃棄物問題の一環として位置づけ,廃棄物自体の発生抑制を理念として,国に対する関係で,地方公共団体の権限拡大及び条例制定権の拡大を目指しつつ,主体的,積極的に当該地方の実状に応じた対策の立案実施を行うべきである。
- 地方公共団体は,市民と対立する存在ではなく,市民とともにあることを自覚して,対策を立案実施すべきである。
地方公共団体は,ダイオキシン問題及び廃棄物問題に関する政策立案実施及びその監視の過程において,実質的に市民の意見・提言が反映する参画制度を,法的な裏づけのもとに積極的に導入すべきである。
また,地方公共団体は,廃棄物対策の一環としてのダイオキシン対策において,市民及ぴ市民団体を,地方公共団体とともに政策立案実施に参画する主体として尊重し,その活動の発展に財政面を含めて協力すべきである。
- 地方公共団体は,ダイオキシン及び廃棄物処理,特に発生抑制に関する行政及び生産者の惰報を積極的に公開すべきである。
第4 市民及び市民団体への期待
発生抑制を理念とするダイオキシン対策及び廃棄物対策は,それが市町村を主体として行われるにしても,各地の実状に適合したものとなるためには,地域に密着した市民及ぴ市民団体の積極的な参画が不可欠である。
われわれは,今後とも,市民及び市民団体が,当該地域の環境問題について,自らの地域の実状を知り,対策を考え,行動する意識のもとに,地方公共団体の政策立案実施及び監視に積極的に参画し,活動することを大いに期待するものである。
第5 弁護士の使命
われわれ弁護士は,ダイオキシン問題及び廃棄物問題に'積極的な関心を持ち,地方公共団体並びに市民及ぴ市民団体の活動を視野に置きつつ,各地の紛争への関与,市民相談への対応などを通じて,市民の声を真しに受け止め,廃棄物問題に関し.て提言し,あるいは地方公共団体等の政策立案実施過程に関与するなどして,廃棄物の発生抑制及びダイオキシン発生防止の実現に向け,法律家の立場から,市民とともに積極的に活動することを誓うものである。
1999年(平成11年)9月17日
関東弁護士会連合会