平成12年度 宣言
犯罪被害者支援の充実をめざす宣言
- 犯罪被害者は、これまで刑事手続において「忘れ去られた人」と評される地位におかれていた。また、それ以外の被害回復・救済という点でも十分に遇されてきたとは言えない。
意に反して生命・身体・財産などへの被害を受けた犯罪被害者は、精神的にも大きな負担を抱えることがほとんどであり、特に被害発生直後に受ける衝撃は大きく、その立ち直りのため各種の支援が必要であることは、多くの例が示している。
さらに、犯罪被害者は、捜査機関による取調やマスコミによる取材と報道、公判廷における証言、ときに被疑者・被告人の弁護人との折衝などにより、二次被害を受けることも稀ではなく、その深刻さも放置することができない。
昨今の重大犯罪による被害の多発とその大きさを考えるとき、犯罪被害者支援の必要性に異論の余地はなく、一日も早い支援体制の強化と充実が求められている。
- このような中、最近「犯罪被害者の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律」、「刑事訴訟法及び検察審査会法の一部を改正する法律」が制定されるなど一定の制度的な前進も見られ、他方、民間の犯罪被害者支援団体や自助組織の活動も活発化してきている。
日弁連も昨年10月「犯罪被害者に対する総合的支援に関する提言」を公表したが、各地の単位会においても、相次いで相談窓口が設けられるなど、犯罪被害者支援の活動が開始されている。
しかし、これらの動きも、諸外国のそれと比べてみると、不十分な点が少なくない。
上記立法措置は、刑事手続それも捜査・公判段階におけるものがほとんどであるが、被害者支援は、刑事司法の枠内だけでは到底実現できないものであり、犯罪発生直後からの総合的かつ多様な施策が講じられなければならない。
また民間の支援団体の果たす役割を考えるとき、その充実が強く求められるが、乏しい財源のもと活動を続けている各種支援団体の現状をみると、より活発な活動を期するためには、相当程度の財政的な援助が不可欠である。
また、被害者の遺族や受傷した被害者に対する補償制度として、現在、犯罪被害者等給付金支給法による給付制度が運用されているが、給付要件や対象、給付額などに関し、問題点が指摘されている。
- 以上のような状況を踏まえ、我々は、次のような提案をする。
(1) 国や地方公共団体は、次の施策を実施すべきである。
- A 犯罪被害者の権利を保障することは国の責務であるとの基本理念を示し、犯罪被害者の法的な地位を明確にするとともに、国や地方公共団体が行うべき犯罪被害者支援の諸施策の基本を定める犯罪被害者基本法を制定する。
- B そして、当面次のような諸施策を実施すべきである。
- 犯罪被害発生直後における被害者支援の重要性を理解し、物心両面からこれに対応できる緊急犯罪被害者支援制度を設置し運営する。
- 犯罪被害補償法を新たに制定し犯罪被害補償制度を創設する。
- 経済的な理由で弁護士を依頼することが困難な犯罪被害者のため、公的な弁護士費用援助制度を実施する。
- C 行刑段階の情報提供も含め刑事司法における犯罪被害者の地位の確立について、さらに検討すべきである。
- D 民間の各種犯罪被害者支援団体に対する財政援助を行い、同団体に対する民間からの寄付について免税措置をとるべきである。
(2) そして、我々弁護士・弁護士会は、次のことを実行し努力する。
- A 犯罪被害者の弁護士へのアクセス障害を除くために犯罪被害者相談窓口の充実発展を図り、迅速な支援活動の実現のため、犯罪被害者当番弁護士制度 の実現を構想する。
- B 犯罪被害者に対する支援は、精神科医その他の専門家との協力が不可欠であることを認識し、効果的な支援のため、これら専門家団体や民間支援団体 などとの連携を強化する。
- C 弁護士による二次被害発生の可能性を理解し、犯罪被害者に対するより適切な対応を期するため、研修を充実させる。
- D 刑事手続あるいは調停手続などにおいて、犯罪被害者と加害者が面談などの接触を持つことによって関係の修復をはかり、被害の回復と加害者の更生を期す修復的司法の手法についても、実現のための調査・検討をする。
以上のとおり宣言する。
2000(平成12)年9月22日
関東弁護士会連合会