我が国が,個人を尊重する自由で公正な民主主義社会として健全に発展するためには,国民一人ひとりが,立憲民主制の意義及び法が果たすべき役割を理解し,自律的主体的に行動しなければならない。
ところで,我が国の現状を見ると,政治参加については,若年層の投票率の低下に象徴的にみられるように民主主義の形骸化が叫ばれ,また,刑事事件については,重大事件が起こるたび,弁護人に対し,なぜ悪人の味方をするのかなどの非難が繰り返しなされ,民事事件においては,法の無知による泣き寝入りや法に反しない限り何をしてもかまわないという利己主義的な権利行使の態度がしばしば見受けられる。このような現状は,国民が,自由で公正な民主主義社会の意義及び法の役割を理解していないことの現れであるように思われる。
このような現状を変革し,我が国が理想的な社会として発展していくためには,国民一人ひとりが,自由で公正な民主主義社会の構成員として,自分たちの身の回りに起きる様々な問題や社会の問題について自律的主体的に考え,判断し,行動する能力を身につけなければならない。そのために,「法律専門家」ではない人々を対象に,法とは何か,法がどのように作られるか,法がどのように用いられるのかについて,その知識の習得に止まらず,それらの基礎にある原理や価値例えば,自由,責任,人権,権威,権力,平等,公正,正義などを教えるとともに,その知識等を応用し適用して使いこなす具体的な技能と,さらにそれを踏まえて主体的に行動しようとする意欲と態度について併せ学習し身につける機会,すなわち「法教育」を提供する必要がある。
法教育は,国民全体に対し提供されなければならないが,とりわけ,我が国の未来を担う子ども,具体的には,小学生段階から高等学校段階において,その成長過程に応じた内容の法教育を実施することが重要であり,これを速やかに実践する必要がある。
そのためには,多くの教員による積極的な取り組みが必要不可欠である。しかし現在のところ,我々が目指す法教育は教育関係者にあまり知られていない状況にある。そこで我々は,まず法教育の必要性と重要性について,教員,教育学者,文部科学省などの教育関係者に対し,その理解を得ることを求めるとともに,その普及・実践への取り組みを要望するものである。
また我々弁護士も,現実の社会において法を担う専門家として法の理念を社会に広めるべき責務を負っているのであるから,何よりも,我々が法教育の普及及び実践に尽力しなければならない。法教育の必要性と重要性は,我々弁護士の間でも十分に認識されていないことから,我々は,全国の弁護士会及び弁護士に対しても,我々の目指す法教育の重要性について訴え,理解を得なければならない。
そして,子どもへの法教育を効果的に普及させ実践させるためには,法の専門家である弁護士及び教育の専門家が緊密な連携のもとに研究を行い,実践的なカリキュラムを開発し,実際の授業を担当する教師・講師を育成するための教育の手法を含めた研修等が必要となる。
また,弁護士会は,法的な教育を実践している司法書士会・消費者生活センター・裁判所・民間団体などとも積極的に情報交換をする必要がある。
我々関東弁護士会連合会は,このような法教育の研究,カリキュラムの開発,情報交換等を,継続的かつ専門的に行う全国的な組織が必要と考え,日本弁護士連合会に対し,法教育のための専門委員会等を早急に設置することを要望する。そして,我々関東弁護士会連合会は,全国の各単位弁護士会,弁護士,教育者及び関係諸機関,マスコミ,国民などに対して,21世紀の我が国が自由で公正な民主主義社会として発展していくために,子どもに対する法教育の必要性と重要性を訴え,これら諸機関や広く国民と連携しつつ,子どものための法教育を我が国に普及させるために尽力することを固く誓うものである。
2002(平成14)年9月27日
関東弁護士会連合会
よって我々関東弁護士会連合会は,個を尊重する自由で公正な民主主義社会を実現するために,全国の各単位弁護士会,弁護士,教育者及び関係諸機関,さらにはマスコミ,国民など広く各方面に対し,子どもに対する法教育の必要性と重要性を訴えるとともに,互いに協力しあいながら,法教育の普及と実践に尽力することを誓うものである。
以上