20世紀後半急速に深刻化した地球温暖化の進行,生物多様性の喪失等の地球環境問題を解決し,持続可能な社会を構築することは21世紀における人類の最重要課題である。この課題を克服するために,私たち一人一人は,身近な環境問題を解決し,持続可能な地域社会の構築を目指す取組みを始めなければならない。当連合会は,そのような認識の下に,身近な環境問題の一つとして,里山をはじめとする身近な自然(二次的自然)の保全の必要性に着目し,1993年(平成5年)9月に群馬県で行なわれた定期大会において,二次的自然を保全すべきと決議した。そして翌1994年(平成6年)9月に栃木県で行われた定期大会において,「里山の復権を求めて-身近な自然の保全再生-」というテーマでシンポジウムを行ない,生物資源保存機能,国土保全機能,気候緩和機能,アメニティ機能等の多面的機能を有する二次的自然の生態系や景観全体を保全・管理する目的の下,環境調査の実施,環境管理計画の策定,きめ細かな地域指定と地域の特質に応じた管理を内容とする立法措置を国に求める宣言を採択した。
当連合会が提案した二次的自然の生態系や景観全体を保全・管理するための立法措置は未だ実現されていないものの,里山と言う言葉さえ定着していなかった当時から10年が経過する間に,保全の動きは大きく進展した。環境基本計画,生物多様性国家戦略の中で,里地里山をはじめとする二次的自然の保全は重要な環境政策として位置づけられ,また,都市緑地保全法の改正で創設された緑豊かな市街地の形成を目指す「緑の基本計画」が各地の地方自治体で策定されるに至り,里山を直接保全の対象とする条例も現れた。1999年(平成11年)にはそれまでの農業基本法に代わって食料・農業・農村基本法が制定され,2001年(平成13年)には,それまでの林業基本法に代わって森林・林業基本法が制定され,それぞれ農業や森林の多面的機能の発揮や農林業の持続的発展の規定が置かれた。農林水産省は,棚田のある中山間地域が農業の多面的機能の発揮に重要な位置を占めていることを積極的に評価して,「日本の棚田百選」を認定し,2000年度(平成12年度)からは,中山間地域等における耕作放棄の発生を防止し農地の多面的機能を確保する観点から直接支払制度を導入した。里山の保全に関わるNPOの活動も非常に活発になり,里地里山をフィールドに保全活動を行なう団体は全国で1000近くに及び,2002年(平成14年)には自然再生推進法も制定され,都市近郊の里地里山における自然再生事業が進められている。
このように二次的自然の保全の動きが進みながらも,この間,乱開発は止まることがなく,関東地方の平地林面積は減少が続いて保全目標の下方修正が検討されようとしている。従来里山保全の担い手であった農林業従事者は激減し,近い将来消滅の可能性がある山間集落は全国で2000にも上ると言われ,管理が放棄され荒廃していく農地や山林は増加の一途を辿っている。また,緑の基本計画を策定している市町村は全体の23.4%に留まっており,一人当たりの都市公園面積は,東京23区3.1m2,全国平均8.4m2と,ニューヨークの29.3m2,ロンドンの26.9m2と比べあまりに貧弱である。これらの現状を前にしては,この10年間の保全の取組みの実効性について重大な疑問を呈さざるを得ないと言えよう。希少化し,益々その価値が高まりつつある二次的自然を確実に保全し,将来世代に承継していくためには,この10年間に行われた様々な施策の有効性の再検討が急務である。
よって,当連合会は,再び,里山をはじめとする身近な自然の保全をテーマに取り上げ,この10年間の保全をめぐる動きについて,その到達点と課題の検証を開始する。そして,真に実効性を有する二次的自然の保全のための施策や制度を調査研究し,具体的な提言を行うことにより,自然環境を破壊し続けてきた大量生産,大量消費,大量廃棄の社会経済システムを根本的に転換させて持続可能な社会の構築を目指していくことを,ここに決意するものである。
以上のとおり決議する。
2003年(平成15年)9月26日
関東弁護士会連合会
以上