関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

平成19年度 決議

市民の身近にあって利用しやすい司法を目指して
司法基盤の整備と弁護士過疎・偏在の解消を

 関東弁護士会連合会は,1994年(平成6年)の定期大会において「弁護士過疎対策に関する決議」を行い,弁護士過疎問題の解消なくして市民に身近な司法の実現は不可能であるとの立場を打ち出し,以後さまざまな取り組みをしてきた。
 そもそも,司法が市民にとって身近でなければ,法の支配が及んでいることにはならないのであり,市民に身近で利用しやすい司法の実現は,法曹三者に要請される喫緊の課題である。
 この課題に応えるため,日本弁護士連合会は,1996年の名古屋宣言以降,ひまわり基金法律事務所の開設など弁護士過疎・偏在問題解消に向けて意欲的に取り組んできた。関弁連管内にあっても7箇所のひまわり基金法律事務所が開設された。
 しかし,弁護士の大都市集中の傾向は依然として続いており,ゼロワン地域は減少しても,弁護士の少ない地域は今なお数多く存在している。弁護士過疎・偏在問題解消に向けた運動は,なお道半ばであると言わざるを得ない。特に,被疑者国選弁護の対象事件が広がる2009年を間近に控え,各弁護士会は適切な弁護体制を敷くことが問われているところである。また,同年に始まる裁判員制度の対応体制の整備も緊急の課題である。
 弁護士過疎・偏在問題を解消するには,単に法曹人口を増加させたり,公設事務所を増設することのみで解決できるものではない。各地の裁判所支部,検察庁支部の人的・物的設備が貧弱であれば,そこに集まる弁護士の数も自ずから限界がある。弁護士過疎・偏在の問題は,単に弁護士の都市集中の問題に留まるものではなく,裁判所・検察庁を含めた司法全体のインフラ整備の問題であることを自覚しなければならない。
 そこで,関東弁護士会連合会は,日弁連が2007年の第22回司法シンポジウムにおいて弁護士過疎・偏在問題を取り上げたのを受けて,この司法シンポジウムで行われた議論をさらに深めるため,2008年度関東弁護士会連合会定期大会シンポジウムのテーマとして取り上げ,管内の具体的事情に即して調査するとともに,「市民の身近にあって利用しやすい司法」を目指すべく,弁護士過疎・偏在問題の解消に向けて具体的な解決策を検討・提言することとする。

 以上の通り決議する。

2007年(平成19年)9月21日
関東弁護士会連合会

提案理由

  1.  関東弁護士会連合会(以下関弁連)は,1994年9月の定期大会において「弁護士過疎対策に関する決議」を採択した。その後,関弁連では弁護士偏在問題対策委員会を中心に小冊子「ひまわり」の発行,過疎地の現地調査などの取り組みを行い,ここ数年間は,首都圏弁護士会支部サミットに関与するとともに小規模支部交流会を開催することで,支部の問題を検討してきた。
     日弁連は,ひまわり基金法律事務所の開設などの運動を推進してきた。これまでに全国で78箇所のひまわり基金法律事務所を開設し,かつてあったゼロワン地域のうちゼロ地域は,2007年4月には3となり,ワン地域は29となり,大きな成果を挙げてきている。関弁連管内にも震災復興をめざす中越ひまわり基金法律事務所(新潟),上越ひまわり基金法律事務所(新潟),新発田ひまわり基金法律事務所(新潟),鹿嶋ひまわり基金法律事務所(茨城),神栖ひまわり基金法律事務所(茨城),銚子ひまわり基金法律事務所(千葉),下田ひまわり基金法律事務所(静岡)が開設され,各地域における司法サービスに貢献している。
  2.  2006年には日本司法支援センターが事業を開始し,過疎地域へのスタッフ弁護士の派遣が始まった。新潟県佐渡に引き続いて本年度も関弁連管内に4号業務対応のスタッフ弁護士の配置が予定されている。
     さらに,日弁連は,同年,弁護士業務総合推進センターを発足させ,地方裁判所支部の管轄区域に事務所を置く弁護士1人あたりの人口が3万人を超えるなどの地域における弁護士定着支援等に取り組もうとしている。弁護士過疎・偏在問題解消のための運動は新しい段階に入っている。
  3.  ひまわり基金法律事務所が2箇所開設され,地元進出の弁護士とあわせて三法律事務所が揃ったことで,水戸地方裁判所麻生支部が2006年に受け付けた民事事件数が約7割増加した。
     多重債務者の債務整理事件を受任した依頼者に過払い金返還を実現させ,その額が在任中1億円以上にも達した等の報告がひまわり基金法律事務所の所長だった弁護士から寄せられている。
     このことからだけでも,市民の身近にあって利用しやすい司法を実現しなければならないことがうかがえる。
     しかし,関弁連管内の弁護士過疎がどこまで解消されているのか,弁護士が過疎地にやってきたことによって,どのような成果があったか,反対に,弁護士過疎地域に弁護士がいないまたは少ないことによってどのような弊害が生じているか,弁護士はそれなりに存在するが,少年事件,消費者事件,DV事件などの事件について見ると,それらの事件数をこなすだけの弁護士がいないという事件過疎の状況がどこまで進んでいるか,弁護士過疎・事件過疎の現在の課題は何か,などの具体的な検証はなお十分にはなされていない。
  4.  被疑者弁護の対象事件が広がる2009年を間近に控え,各弁護士会は適切な弁護体制を敷くことができるか問われているところである。被疑者弁護は,当番弁護士制度の発足以降,刑事裁判の「かなり絶望的な状況」(平野龍一教授が1985年の論文「現行刑事訴訟法の診断」で刑事裁判について指摘した評価)を打破しようと弁護士,弁護士会が取り組んできたものであるが,その過程で,弁護士過疎・偏在問題の重要性が明らかになってきた。また,同年には裁判員裁判も開始するが,2009年に向けての対応がどこまで進んでいるか否かを検証し,さらなる準備を進める必要がある。
  5.  関弁連管内の首都圏の弁護士会支部にあっては,裁判所・検察庁支部の基盤が未整備であることもあって,増加した人口にふさわしい弁護士数が確保されているとはいえないところが少なくなく,2003年から首都圏弁護士会支部サミットが開催されている。そこでは,住民の数,事件数に比して裁判所や検察庁支部の人的・物的設備が非常に貧弱であることが指摘されるとともに,裁判所・検察庁を充実させなければ弁護士過疎・偏在の問題は解決しないのではないかとの指摘がされた。また,裁判員裁判対象事件が前倒しで本庁に起訴され始めているところから,これまで合議事件を扱っていた支部に刑事重大事件が起訴されなくなり,支部の機能低下が危惧されている。また,水戸地方裁判所麻生支部では,身柄の刑事事件は起訴されていない。民事執行事件が扱われなくなっている裁判所支部も存在する。2度の小規模支部交流会によってかなりの程度小規模支部の実情が明らかになってきたが,まだまだ支部の実情は明らかになっていないし,今も流動的である。小規模支部にとらわれない管内の支部の実情を把握するために,なお交流を深め,調査を進める必要がある。
  6.  2006年には法科大学院がスタートしたが,弁護士過疎解消や事件過疎解消に向けて法科大学院はどのような役割を期待されているか,発足後3年が経過した関弁連管内の法科大学院の現状はどうか,今後の展望と関弁連が果たすべき役割は何か,も重要な課題である。関弁連管内の法科大学院が法曹養成の中核として期待された役割を果たすためには,以上のような実情を踏まえ,法科大学院側と弁護士会との深い議論と共同作業が必要である。
  7.  このように前記決議以降13年間の活動の検証をするとともに,2009年に向けた関弁連の課題を明らかにし,本格的な運動を多面的・総合的に展開する時期に来ていると思われる。
     そのためには,地域の実情を踏まえた調査,検討が必要である。関弁連は,過疎地を抱えるとともに,首都圏を抱えており,ひまわり基金法律事務所の所長やスタッフ弁護士を養成し,送り出す役割も果たしてきた。東京に都市型公設事務所が順次作られてきたが,これまでの成果と弁護士過疎解消運動との連携など今後の可能性について議論する必要がある。それらに派遣された弁護士の任期あけ後の受け入れについて具体的な体制をどう構築していくかは関弁連の課題でもある。
  8.  なお,本年度の日弁連第22回司法シンポジウムにおいても弁護士過疎・偏在問題が取り上げられた。このシンポジウムで展開された議論を関弁連においてさらに深め,具体的な行動につなげていくことは,実践段階に入った司法改革運動として重要である。すでに述べたように,大都市から過疎地域までを抱える関弁連の特性を考えれば,管内の実情を多面的に調査,検討し,提言することは全国的に見ても非常に意義のあることである。

以上

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