関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

平成23年度 決議2

外国人の人権に関する決議-外国人の直面する困難の解決をめざして-

 関東弁護士会連合会は,1989年度定期大会において,「外国人の就労と人権」をテーマとするシンポジウムを開催した。そしてこの定期大会において,日本で就労する外国人,とりわけ適法な就労資格を持たずに稼働している外国人の多くが,劣悪な生活環境,労働条件の下で,重大かつ深刻な人権侵害を受けながら,有効な救済が得られずに放置され,あるいは,被害が回復されないまま国外に退去強制させられるなどの憂慮すべき実情下におかれ,これら外国人労働者の人権を擁護するため,人権救済制度の確立とそのための法制度の検討等の諸活動を展開することを決意する宣言を採択した。
 かかる宣言に基づき,当連合会では,外国人の人権救済委員会を中心として,法務省入国管理局との協議,東日本入国管理センター出張相談制度の運営,国際交流協会等との懇談会の開催など,外国人の人権救済に向けて積極的な取り組みを行ってきた。
 ところで1989年には,出入国管理及び難民認定法に「研修」や「定住者」の在留資格が創設されるなど重要な改正がなされ,翌1990年6月に同改正法が施行されて日系人を含む外国人が多数来日することとなった。1990年の全国の登録外国人数は約98万人,うち約68万人が「韓国・朝鮮」籍であったところ,その後は中国・台湾や南米からの来日が増加の一途を辿り,2008年末には全国の登録外国人数は約222万人,国籍別でも「中国・台湾」が約66万人を,ブラジルが約31万人を,それぞれ占めるに至った。いわゆるリーマンショックを経た2010年末時点でも,全国の登録外国人数はなお約213万人と,依然高水準を維持している。

 この20年余の在日外国人数の急増や多国籍化は,次のとおり,当初は想定されていなかった新たな問題を次々と生じさせてきた。

 第1に労働分野では,中国や東南アジア諸国からの研修・技能実習生に対する,常軌を逸した長時間労働や労働災害が日本全国で発生している。研修・技能実習生は,人材育成を通じた開発途上国への技術移転という制度の名目に反して,安価な労働力(チープ・レイバー)利用の手段として使われており,最低賃金法に違反した事例,時給300円といった違法な時間外労働で長時間労働をさせる事案が多く見受けられる。危険かつ劣悪な労働環境で働かされる中で,多くの死亡事故,脳・心臓疾患死が発生しており,過労死として認定された事例まである。研修・技能実習生は送り出し機関に保証金を支払わされ,違約金の担保を取られているため,不満を述べることもできず,受け入れ機関や送り出し機関に反抗すれば,強制的に帰国させられることもある。これら研修・技能実習生に対する処遇は,看過し難い重篤な人権侵害状況にあるというべきである。また,南米日系人の就労も,その多くが偽装請負や派遣の形態をとり,労災事故の多発や社会保険への未加入,長時間残業や有給休暇の取得が認められないなど,劣悪な就労条件を余儀なくされている。のみならず,リーマンショック後や震災後には,多数の日系人が休職や雇い止めによる失業を余儀なくされ,その家族の生活は困窮している。

 第2に家事分野では,国際結婚が急増し,新たに誕生したカップルの6%程度に達している一方(全国平均),離婚に至る例も目立つようになった。日本人男性とフィリピンやタイの女性との間に出生した子の,認知養育や教育,国籍取得等も社会問題化している。また,ブラジル人同士が日本で結婚した後,離婚するケースなどで両国の法制度の違いや戸籍実務上の問題から,離婚手続自体に困難を生じるケースもある。

 第3に入管分野では,2004年より国策として行われた不法滞在者の半減計画に基づき,入国管理局への長期収容や複数回の収容が行われ,収容中の処遇の問題がクローズアップされることとなった。難民庇護数も,2010年より第三国定住制度を開始したとはいえ,諸外国と比較して依然著しく少ない。

 第4に外国人差別問題の分野では,昨今,排外主義的主張を標榜する団体による外国人に対する差別・迫害事件が発生しており,2010年8月には,京都朝鮮第一初級学校に対して民族差別的街宣行動を行った団体のメンバーが威力業務妨害等で逮捕され,その後,起訴され,有罪判決を受けるに至るという,目に余る事件も起こっている。
 2010年末時点での全国登録外国人数約213万人中,当連合会管内の11都県在住者は約111万人と,実に過半数に達している。上記の各種紛争は管内で日常的に発生しており,各種弁護団が結成されてきた他,各単位会内には外国人の権利擁護のための委員会や部会が次々と組織されている。

 当連合会は,1989年以降23年間の在日外国人をめぐる状況の急激な変化と,その間の支援活動を検証するとともに,在日外国人が今日直面している具体的問題を解決するため弁護士及び弁護士会として外国人の法的アクセスを確保し権利を擁護するために更に何をなしうるのか,ひいては在日外国人と共生するために地域社会において取り組むべき課題等について,検討・提言することを決議する。

2011年(平成23年)9月30日
関東弁護士会連合会

提案理由

  1. 我が国に於いては戦後長らく,在日外国人の約9割を「韓国・朝鮮」籍の市民が占め,社会保障・公務就任権・指紋押捺等をめぐり,その権利擁護活動は今なお続けられている。当連合会が「外国人の就労と人権」をテーマとするシンポジウムを開催した1989年も,在日外国人のなお約7割が「韓国・朝鮮」籍であった時期である。
     しかし,昭和末期からの我が国のバブルと1989年の出入国管理及び難民認定法改正等により,中国・フィリピン・南米等からの「ニューカマー」が急増し,約20年を経て登録外国人数は200万人以上へと倍増,国籍も実に多様化した。
  2. このような急激な変化が生じる一方,来日する外国人の権利への配慮が十分になされていなかったため,次のとおり,外国人に関わる新たな問題が次々と発生してきた。
    (1)  研修・技能実習生は,人材育成を通じた開発途上国への技術移転という制度の名目に反して,安価な労働力(チープ・レイバー)利用の手段として使われており,最低賃金法に違反した事例,時給300円といった違法な時間外労働で長時間労働をさせる事案が多く見受けられる。研修生は労働に従事することはなく,制度上労働諸法令が適用されないにも関わらず,実務研修の名目で労働に従事していたという問題については,2010年に制度改正がなされ,実務(労働)に従事する場合は,入国当初から技能実習生として労働法が適用され,研修生は純粋な研修(公的研修及び非実務研修)に従事する者のみとされたが,制度を安価な労働力利用の手段として使うという基本構造は変わっておらず,労働諸法令違反も後を絶たない。危険かつ劣悪な労働環境で働かされる中で,多くの死亡事故,脳・心臓疾患死が発生しており,2008年に急性心機能不全で死亡した茨城県潮来市の中国人技能実習生について,2010年に過労死の認定がされている。研修・技能実習生は送り出し機関に数年分の年収に相当する多額の保証金を支払わされ,それ以上の金額の違約金の人的・物的担保を取られているため,不満を述べることもできず,受け入れ機関や送り出し機関に反抗すれば,強制的に帰国させられることもある。更に,旅券,外国人登録証の取り上げ,強制貯金,セクシュアル・ハラスメント,性的虐待,劣悪な居住環境など,許し難い人権侵害の事例が多く報告されている。
     日系人の就労も,その多くが偽装請負や派遣の形態をとり,派遣先と派遣元の責任関係が曖昧なまま十分な安全教育もなく危険な労働環境におかれて労災事故に遭う者が後を絶たない。また,社会保険料の会社負担を避けるため,労働者が望んでも社会保険への加入を認めないケース,ブローカーにより手数料や渡航費などの費用を給与からピンハネされるケース,有給休暇の取得など労働者としての当然の権利行使を理由に雇い止めに遭うケース,更には暴力やセクハラの被害に遭うケースなど,深刻な人権侵害が生じている。のみならず,3か月に満たないような短期の契約期間を繰り返し更新することで,実質的にいつでも解雇できる労働者として雇用の調整弁とされている者が多く,リーマンショック後や震災後には,多数の日系人が休職あるいは雇い止めによる失業を余儀なくされ,その家族の生活は困窮している。帰国支援制度により多数が帰国して,コミュニティが崩壊の危機に瀕するなどの事態も生じている。これらの事態に対し,速やかに法的救済措置を講じるべきである。
    (2)  また多数の日系人が来日し,滞在も長期化する中で,日本で結婚や離婚などの身分関係の変化を生じる事例も増えている。財産分与や遺産分割において,外国人配偶者が不公平な取扱を受けることのないよう,法的サービスを続ける必要がある。また日本で出生した子に対しては充実した教育を行うべきであるほか,時間的制約のある現行法下での認知や国籍取得に対しても,弁護士会が積極的な役割を担いたい。
     ブラジル人同士が日本で結婚した後,離婚したケースなどで在日本領事館への届出を怠っていたため離婚届が日本の市区町村で受理されず不安定な身分関係になるケースや,別居後に相手方だけが帰国して離婚手続に困難を生じるケースなども生じている。こうした問題についても,直ちに救済措置を検討すべきである。
    (3)  来日する外国人が増加したのに伴い,後日に在留資格を失ってもなお滞在を続ける不法滞在者も大幅に増加した。1990年7月時点で10万6000人であったところ,約3年後の1993年5月時点には29万8000人にものぼり,その後は漸減するも2004年1月1日時点でなお21万9000人であった。政府は,「平成16年からの5年間で,不法滞在者を半減させる」旨の目標を設定して摘発・送還を進め,不況とも相まって,2011年1月時点で7万8000人へと激減している。
     ところで,摘発を受けたにもかかわらず任意の帰国を拒否した者は,入国管理局に収容されているが,長期収容や複数回の収容が見られるようになった。その結果,心身を損ねたり,場合によっては自死を余儀なくされたりする例も後を絶たなくなった。2009年末頃から2010年上半期にかけて,全国の収容施設内で被収容者によるハンガーストライキが起きるに及び,同年9月,日弁連と法務省とは,長期収容解消のための協定を締結し,法務省の協力により,東日本入国管理センターの収容施設内での弁護士による法律相談会も既に3回行われているが,収容施設内での医療体制の不備や,未成年者・妊婦・病者等の収容問題など,未だに解決すべき課題は多い。
     難民庇護数も,なお低水準にとどまっている。我が国は,1891年に難民条約(難民の地位に関する条約)を批准したが,1989年以降は認定数が長く一桁にとどまり,その後も2008年に57名を認定したのが最高である。同年以降は,人道配慮に基づく在留特別許可を受けた者まで併せれば400人以上の庇護申請者が正規滞在を認められているが,年間通じての難民認定自体の件数が,我が国では,難民条約を批准した先進国の中にあって,ずば抜けて少ない事実には,些かの変化もない。しかも,難民としての庇護若しくは人道配慮に基づいて在留資格を受けた者の約9割がビルマ人(ミャンマー人)であり,他の国からの難民申請者は,未だに殆ど庇護を受けられていないのが実情である。かかる現状は,①難民認定手続に携わる入管職員にあって,国際難民法の専門的な修練(諸国の判断事例から導かれる難民認定基準に関する国際スタンダードの周知徹底を含む)・各国情勢の詳細な情報収集とその分析手法の取得が未だに不十分であり,②難民審査参与員制度は存在しているものの,難民認定手続の決定権が,一次的判断・二次的判断共に,原則として法務省・入管の組織内に集中していることなどに起因している。そこで,我が国にあっては,入管職員の専門性の向上と共に,法務大臣・入管の一次的判断の妥当性・適法性を外部の第三者機関が中立的に審査し,その審査結果に一定の拘束力を持たせる体制作りが強く望まれる。
     また,入管法が2009年7月に改正され,新しい在留管理制度がその端緒についているところ,新制度の運用が,弱い立場に追い込まれた外国人を不当に危険に曝すことのないよう,今後,継続的に注視していく必要がある。特に日本人配偶者の暴力に曝され,時に別居を余儀なくされる場面にあって,外国籍配偶者の権利が,新制度の運用によって不当に侵害されることは決してあってはならない。また,離婚調停・離婚訴訟の係属中にある外国籍配偶者が,離婚手続の中途にあって在留資格の更新若しくは変更申請を不許可とされるケースが最近目立って認められるが,特にこの点につき,入管は早急に対応を改めるべきと考える。即ち,国際人権・国際友好を標榜する日本は今後,外国人が安心して日本で結婚し,不幸にして離婚する際にも,その権利を十分に保障される社会を,責任をもって用意していかなければならない。
    (4)  外国人差別問題の分野では,昨今,排外主義的主張を標榜する団体による外国人に対する差別・迫害事件が発生している。2010年8月には,京都朝鮮第一初級学校に対して,「スパイの子どもたち」「日本からたたき出せ」などという民族差別的街宣行動を行った団体のメンバーが威力業務妨害等で逮捕され,その後,起訴され,有罪判決を受けるにいたるという事件が起こっている。これらの団体は,2009年4月,不法滞在を理由に入国管理局から強制送還を迫られていたフィリピン人家族の「追放デモ」を同家族の居住地である埼玉県において行い,同年8月には「三鷹・慰安婦パネル展妨害行動」,2010年10月には「秋葉原・中国人排斥デモ」を行うなど,関東においても排外主義的主張を繰り返しており,デモや集会に1千人以上の動員力を示すこともある。これは一部の団体の行動というだけの問題ではなく,社会全体の中で外国人に対する排外主義的雰囲気が強くなり,インターネット上などで外国人に対する差別言論が横行していることを背景にしており,弁護士会としても,外国人の人権擁護の観点から看過し得ない問題となっている。

 以上の各問題意識に基づき,大会決議を提案する。

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