関東弁護士会連合会は,1989年度定期大会において,「外国人の就労と人権」をテーマとするシンポジウムを開催した。そしてこの定期大会において,日本で就労する外国人,とりわけ適法な就労資格を持たずに稼働している外国人の多くが,劣悪な生活環境,労働条件の下で,重大かつ深刻な人権侵害を受けながら,有効な救済が得られずに放置され,あるいは,被害が回復されないまま国外に退去強制させられるなどの憂慮すべき実情下におかれ,これら外国人労働者の人権を擁護するため,人権救済制度の確立とそのための法制度の検討等の諸活動を展開することを決意する宣言を採択した。
かかる宣言に基づき,当連合会では,外国人の人権救済委員会を中心として,法務省入国管理局との協議,東日本入国管理センター出張相談制度の運営,国際交流協会等との懇談会の開催など,外国人の人権救済に向けて積極的な取り組みを行ってきた。
ところで1989年には,出入国管理及び難民認定法に「研修」や「定住者」の在留資格が創設されるなど重要な改正がなされ,翌1990年6月に同改正法が施行されて日系人を含む外国人が多数来日することとなった。1990年の全国の登録外国人数は約98万人,うち約68万人が「韓国・朝鮮」籍であったところ,その後は中国・台湾や南米からの来日が増加の一途を辿り,2008年末には全国の登録外国人数は約222万人,国籍別でも「中国・台湾」が約66万人を,ブラジルが約31万人を,それぞれ占めるに至った。いわゆるリーマンショックを経た2010年末時点でも,全国の登録外国人数はなお約213万人と,依然高水準を維持している。
この20年余の在日外国人数の急増や多国籍化は,次のとおり,当初は想定されていなかった新たな問題を次々と生じさせてきた。
第1に労働分野では,中国や東南アジア諸国からの研修・技能実習生に対する,常軌を逸した長時間労働や労働災害が日本全国で発生している。研修・技能実習生は,人材育成を通じた開発途上国への技術移転という制度の名目に反して,安価な労働力(チープ・レイバー)利用の手段として使われており,最低賃金法に違反した事例,時給300円といった違法な時間外労働で長時間労働をさせる事案が多く見受けられる。危険かつ劣悪な労働環境で働かされる中で,多くの死亡事故,脳・心臓疾患死が発生しており,過労死として認定された事例まである。研修・技能実習生は送り出し機関に保証金を支払わされ,違約金の担保を取られているため,不満を述べることもできず,受け入れ機関や送り出し機関に反抗すれば,強制的に帰国させられることもある。これら研修・技能実習生に対する処遇は,看過し難い重篤な人権侵害状況にあるというべきである。また,南米日系人の就労も,その多くが偽装請負や派遣の形態をとり,労災事故の多発や社会保険への未加入,長時間残業や有給休暇の取得が認められないなど,劣悪な就労条件を余儀なくされている。のみならず,リーマンショック後や震災後には,多数の日系人が休職や雇い止めによる失業を余儀なくされ,その家族の生活は困窮している。
第2に家事分野では,国際結婚が急増し,新たに誕生したカップルの6%程度に達している一方(全国平均),離婚に至る例も目立つようになった。日本人男性とフィリピンやタイの女性との間に出生した子の,認知養育や教育,国籍取得等も社会問題化している。また,ブラジル人同士が日本で結婚した後,離婚するケースなどで両国の法制度の違いや戸籍実務上の問題から,離婚手続自体に困難を生じるケースもある。
第3に入管分野では,2004年より国策として行われた不法滞在者の半減計画に基づき,入国管理局への長期収容や複数回の収容が行われ,収容中の処遇の問題がクローズアップされることとなった。難民庇護数も,2010年より第三国定住制度を開始したとはいえ,諸外国と比較して依然著しく少ない。
第4に外国人差別問題の分野では,昨今,排外主義的主張を標榜する団体による外国人に対する差別・迫害事件が発生しており,2010年8月には,京都朝鮮第一初級学校に対して民族差別的街宣行動を行った団体のメンバーが威力業務妨害等で逮捕され,その後,起訴され,有罪判決を受けるに至るという,目に余る事件も起こっている。
2010年末時点での全国登録外国人数約213万人中,当連合会管内の11都県在住者は約111万人と,実に過半数に達している。上記の各種紛争は管内で日常的に発生しており,各種弁護団が結成されてきた他,各単位会内には外国人の権利擁護のための委員会や部会が次々と組織されている。
当連合会は,1989年以降23年間の在日外国人をめぐる状況の急激な変化と,その間の支援活動を検証するとともに,在日外国人が今日直面している具体的問題を解決するため弁護士及び弁護士会として外国人の法的アクセスを確保し権利を擁護するために更に何をなしうるのか,ひいては在日外国人と共生するために地域社会において取り組むべき課題等について,検討・提言することを決議する。
2011年(平成23年)9月30日
関東弁護士会連合会
以上の各問題意識に基づき,大会決議を提案する。