関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・声明宣言・決議・声明

平成26年 声明

金融商品取引法改正によるクラウドファンディング規制に関する理事長声明

1 金融商品取引法の改正について

 2014年5月23日,金融商品取引法等の一部を改正する法律(平成26年法律第44号,以下「改正法」という。)が成立した。改正法においては,新規・成長企業に対するリスクマネーの供給促進策の一つとして,第一種少額電子募集取扱業務及び第二種少額電子募集取扱業務(以下併せて「投資型クラウドファンディング業務」という。)が規定された。 投資型クラウドファンディング業務は,新規・成長企業等と資金提供者をインターネット経由で結びつけ,多数の資金供給者から資金を集める仕組みである。改正法は,一般投資家から,新規・成長企業等に対する資金供給促進を図るべく,投資型クラウドファンディング業務を行う業者(以下「投資型クラウドファンディング業者」という。)について,従前の金融商品取引業者に比べ参入要件を緩和することを予定している。

2 投資型クラウドファンディング業務における懸念事項

 投資型クラウドファンディング業務は,非上場の有価証券について募集の取扱い等を行うものである。非上場の有価証券は,基本的に取引市場が存在しないため,経済的価値を把握することが困難である上,流動性が低いなど,投資リスクが極めて高いものである。にもかかわらず,これらを十分に理解しないで投資対象とすれば,一般投資家に不測の損害を生じさせかねない。
 また,近年,悪質業者・詐欺グループにより,客観的価値の乏しい未公開株式や社債を利用した詐欺行為が繰り返されてきたところ,投資型クラウドファンディング業務について,適切な規制がなされなければ,詐欺等に悪用されることが予想される。

3 具体的な規制について

 そこで,以下のような規制を設けるべきである。

  1. (1) 電子募集取扱業務を行うにあたり,電話や対面による勧誘を禁止するべきである。
  2. (2) 投資型クラウドファンディング業務の「少額」の意義については,発行総額や一人当たりの投資額に上限を設けることに加え,異なる有価証券であっても,一事業者が一人の投資家に対する勧誘件数や投資総額にも上限を設けるべきである。
  3. (3) 投資型クラウドファンディング業者の登録要件については,金融商品取引業者としての専門性の確保,ウェブサイトで提供する情報の適切な確認・調査の体制の整備,システム管理体制の整備等,業態の特性に応じた要件とすべきである。
  4. (4) 投資型クラウドファンディング業者には,非上場有価証券に投資するリスクについて注意喚起を行わせるとともに,投資家が理解していることを確認する義務を課すべきである。
  5. (5) 投資型クラウドファンディング業者には,有価証券の発行者の財務状況,事業計画の内容,資金使途等について,調査・確認義務があること,及び当該情報についてインターネット等を通じた適切な情報提供義務があることを明確にすべきである。また,資金を受け入れた後の企業等の事業状況についても,適時に情報提供をする義務を課すべきである。
  6. (6) 投資型クラウドファンディング業者には,上記第(5)項に基づき提供した情報に誤りがあった場合に損害賠償義務が課せられることを明確にすべきである。また,当該業者には,提供された情報について,その裏付けとなる合理的根拠を提出する義務を課し,合理的根拠が提出されない場合には,提供した情報に誤りがあると推定するといった規定を設けるべきである。
  7. (7) 投資型クラウドファンディング業者には,自主規制機関である金融商品取引業協会への加入を義務づけるべきである。
  8. (8) ウェブサイト上における掲示板の管理(問題情報の判断や削除等),システム障害,紛争に際しての証拠の確保のためのデータ保持等,ウェブサイトにおける特有の問題について,適切な規制を整備すべきである。

4 個々の具体的規制に関する理由等について

  1. (1) 近年の投資被害の多くが,電話・訪問による不招請勧誘によって引き起こされてきたものである。投資型クラウドファンディング業務が,前記のとおりリスクが高いことに鑑みれば,被害を助長しかねない不招請勧誘は,特に禁止する必要が高い。この点については,衆議院財務金融委員会及び参議院財政金融委員会においても同趣旨の附帯決議がなされており,尊重すべきである。
  2. (2) また,投資型クラウドファンディング業者が行うことのできる「少額」の意義について,改正法に関する金融庁の説明資料によれば,発行総額が1億円未満及び一人あたりの投資額が50万円以下とされている。しかし,これらの限定だけでは,例えば株式については,複数の種類株を発行することで,ファンドであれば,同一の発行者が複数のファンドを組成することで(例えば「第1号匿名組合」「第2号匿名組合」など),事実上無制限に投資を募ることが可能となり,規制が潜脱され妥当でない。そこで,第3項(2)のとおり,一業者が一投資家に勧誘できる件数や総額に上限を設け,実効性のある規制とする必要がある。
  3. (3) さらに,登録要件としては,悪質業者等が容易に参入することのないよう,リスクマネーの供給を仲介するにふさわしい業者としての実態を備える必要がある。特に,投資型クラウドファンディング業務は,インターネット等を利用する新しい募集形態であるから,そのシステム等の体制についても,不測の事態が生じないように対応することが求められる。
  4. (4) 加えて,非上場有価証券がリスクの高い投資対象であること等について,適切な注意喚起がなされず,また,投資家の意向確認が疎かになれば,適合性原則に反する投資被害を招く恐れがある。そこで,投資型クラウドファンディング業者において,非上場有価証券がリスクの高い投資商品であることの注意喚起を行うほか,投資家の意向を確認する義務を設けるべきである。
  5. (5) また,対象となる非上場有価証券については,投資家においてその発行者等の情報を調査・確認することは,極めて困難である。そこで,投資型クラウドファンディング業者が,発行者等について調査・確認する義務及び情報提供義務を負い,投資家との間の情報力格差・情報の非対称性による歪んだ金融市場が形成されないようにする必要がある。この点についても,衆議院財務金融委員会及び参議院財政金融委員会の附帯決議がなされており,尊重すべきである。
  6. (6) のみならず,上記調査確認義務や情報提供義務の実効性を担保するには,当該義務に違反した場合における投資型クラウドファンディング業者の損害賠償義務を明確にすることが必要である。
     但し,損害賠償義務の明記だけでは,投資家において,非上場有価証券の発行者に関する正確な情報を取得できず,結局投資型クラウドファンディング業者から提供された情報の真偽を検証できない不都合が生じる。そこで,投資型クラウドファンディング業者に対しては,提供した情報について,その合理的根拠の提出義務を課した上,当該義務を果たさない場合には,提供した情報が誤りであるとの推定規定を設けるなどの規制が必要である。
  7. (7) そして投資型クラウドファンディングが悪用される危険性は極めて高いことに鑑み,証券取引等監視委員会・金融庁や各地の財務局による規制・監督のみならず,自主規制機関である金融商品取引業協会による規制・監督の実効性を図る観点からは,仲介者に同協会への加入を義務づけるべきである。
  8. (8) さらにウェブサイトとしての特性上,掲示板などにおいて,無登録業者等により不適切な情報が提供され,当該情報により,投資家の意思決定が歪められる事態も想定される。そのほか,ウェブサイトの利用によるシステム障害やデータ保持等の問題も存在する。したがって,これらのウェブサイトを利用することに関する不都合性についても,適切な規制をすることが必要である。
  9. (9) よって,第3項記載のとおり規制を設けることを求める。

2014(平成26)年8月28日
関東弁護士会連合会
理事長 若旅 一夫

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