第1 日本国憲法における平和主義の意義
- 日本国憲法は,我が国が太平洋戦争において,極めて多数の国民の生命を失わせるなど,戦争により多大な惨禍を生じさせたことを深く反省し,前文第1段において「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し,・・・」とし,さらに,前文第2段において,「・・・平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と定め,平和的生存権を有することを確認した。そして,この決意・確認に基づいて,第9条第1項において,戦争と武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段として永久に放棄するとし,同条第2項は,戦力の不保持と交戦権の否認を規定して,徹底した恒久平和主義を採用したのである。
このように,日本国憲法は,諸国民の公正と信義を信頼し,平和的生存権を明文化して,戦争を放棄し,交戦権を否認したのであるから,武力により平和の実現を図るのではなく,専ら対話(外交)による平和の実現を憲法規範として定めているのであり,政府に対して,専ら対話(外交)による平和の実現を要請しているのである。
したがって,我が国の防衛に関する制度の制定及びその整備は,武力の行使を前提とするものではなく,専ら対話(外交)による平和の実現という日本国憲法の基本原理に則って行わなければならない。
- 政府は,2014年7月1日になされた「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する閣議決定(以下「本閣議決定」という。)において,「国際協調主義に基づく『積極的平和主義』」の下,「国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献するためには,切れ目のない対応を可能とする国内法制を整備しなければならない。」とし(前文第4段),「自衛隊が幅広い支援活動で十分に役割を果たすことができるようにすることが必要である」として(第2項(1)イ),「・・他国軍隊に対して,必要な支援活動を実施できるようにするための法整備を進める」(同(1)ウ),「国際連合平和維持活動(PKO)などの国際的な平和協力活動に十分かつ積極的に参加できることが重要」であるとして(第2項(2)イ),「駆け付け警護」に伴う武器使用,「任務遂行のための武器使用」,在外邦人の救出における警察的活動ができるよう法整備を進める(同(2)ウ)としている。
この内容を見ると,本閣議決定で述べられている「積極的平和主義」は,詰まるところ,自衛隊が海外で活動するに当たって,幅広く武器の使用を認めることを指向しており,武力ではなく,専ら対話(外交)による平和を実現するという日本国憲法の基本原理に違背するものである。
第2 武力の行使に関する従前の政府見解と本閣議決定の関係
- これまで,政府は,憲法前文及び第13条の規定があることから,日本国憲法第9条は,我が国の平和と安全を維持し,その存立を全うするために必要な自衛の措置をとることを禁じているとは解されないとしながら,平和主義をその基本原則とする憲法の下で武力行使を行うことが許されるのは,我が国に対する急迫,不正の侵害に対処する場合に限られるのであって,他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は,憲法上許されないと解釈してきた(1972(昭和47)年10月14日参議院決算委員会における内閣法制局の提出資料等)。
- しかし,本閣議決定においては,自衛のための措置として,①「我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず,我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,」これにより「我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において」,②これを排除し,「我が国の存立を全うし,国民を守るために他に適当な手段がないとき」に,③「必要最小限度の実力を行使すること」は,憲法上許容されると考えるべきであるとした(以下上記①から③までの要件を「新三要件」という。)。
- したがって,政府は,他国に加えられた武力攻撃を阻止する我が国の行為が憲法上許されないとしていた従前の憲法解釈を「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し」た場合にも,一定の要件を充足することを条件として我が国の武力行使が憲法上許容されるという解釈に変更したものであり,この点は,本閣議決定においても,「他国に対する武力攻撃が発生した場合を契機とするものが含まれる」としていることからも明らかである(第3項(4))。
- さらに,本閣議決定では,「政府の憲法解釈には論理的整合性と法的安定性が求められる。」(第3項(1))としているが,論理的整合性に関して,政府はこれまでの憲法第9条をめぐる議論と整合する合理的解釈の範囲内のものでありいわゆる解釈改憲には当たらないと答弁し(2014(平成26)年7月15日参議院予算委員会における内閣法制局長官の答弁),また,本閣議決定における新三要件については,我が国が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻,重大な被害が及ぶことが明らかな状況である場合を想定していると述べている(同予算委員会における内閣総理大臣の答弁)。
- これらの答弁の論理は,従前の憲法解釈が,あくまで外国の武力攻撃によって「国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆されるという急迫,不正の事態に対処し,国民のこれらの権利を守るため」の措置であることが憲法上許容される措置であるという基本的な論理に基づくものであると解し,本閣議決定もこの基本的な論理を踏まえた憲法解釈であるとするものである。
そして,この論理は,外国に対する武力攻撃があった場合であっても,我が国に対する武力攻撃があった場合と同様の被害が国民に及ぶ場合を想定している点で,従前の政府の憲法解釈との間に論理的整合性があると述べているのである。
第3 本閣議決定の問題点
- しかしながら,この答弁の論理は,「他国」への武力攻撃を契機として, 一定の要件の下に我が国の武力行使を日本国憲法が許容するという論理であり,「他国」への武力攻撃を契機として我が国が武力を行使することは日本 国憲法上許容されないとしてきたこれまでの政府見解を180度転換するも のであるから,従前における政府見解と論理的整合性を欠くことは明らかで あり,まさに政府の解釈により日本国憲法を改正するものである。
- また,本閣議決定が従前の政府の憲法解釈と論理的整合性があるとの立場 からみても,以下に掲げる理由により,この結論は,問題である。
- (1)我が国に対して武力攻撃があった場合には,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される急迫,不正の事態が生じ,直接,国民に深刻な被害を被ることは,社会通念上,明白である。他方,外国に対して武力攻撃がなされた場合は,直ちに国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態が発生するわけではない。その点で,我が国に対する武力攻撃と外国に対する武力攻撃は,その区別は明確であり,これまで政府は,戦後,長期にわたり,日本国憲法の解釈に当たり,この区別を維持してきた。
このように,外国に対しての武力攻撃は,国民の権利侵害に関しては間 接的なものであることから,新三要件を充足するか否かは,時の政府の実 質的判断によることになるが,それは政府の恣意的判断が介入する余地を 与えることになる。
日本国憲法前文が「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのな いやうにすることを決意し」たと述べており,武力ではなく,専ら対話(外 交)による平和の実現を図るという日本国憲法の基本原理からすれば,政 府による恣意的判断の余地をなくすのが憲法上の要請であるところ,本閣 議決定における新三要件は,政府の恣意的判断を広く許すものであり,こ の憲法の要請を没却するものである。
- (2)新三要件については,次の点において憲法解釈上,重大な問題がある。
- ア まず,「我が国と密接な関係にある他国」とはどの範囲の他国であるのかが明確でない。この点について,政府は,「一般に,外部からの武力攻撃に対し共通の危険として対処しようという共通の関心を持ち,我が国と共同して対処しようとする意思を表明する他国」であると答弁している(2014(平成26)年7月15日参議院予算委員会における内閣法制局長官の答弁)。
この答弁において,他国の範囲は,「共通の危険」「共通の関心」という抽象的な文言で説明されているところ,この文言の解釈如何によっては,「他国」の範囲は際限なく拡大し,我が国から極めて遠くに位置する中東諸国などの国もこの「他国」に該当すると解されるおそれがある。
- イ さらに,「明白な危険がある場合」が具体的にどのような場合であるかも明確ではない。政府は,攻撃国の意思や能力,どういう場所で起こったか,規模,態様,推移を考慮して我が国に戦渦が及んでくる蓋然性がどれくらいあるのかという点を考慮し,客観的かつ合理的に疑いなく認められるものであると答弁している(2014(平成26)年7月15日参議院予算委員会における内閣総理大臣の答弁)。
この内閣総理大臣の答弁で重要なことは,「客観的かつ合理的に疑いなく認められる」かどうかが「我が国に戦渦が及んでくる蓋然性」の程度によって判断されるという点である。我が国に対する武力攻撃が生じた場合には,我が国に戦渦が及ぶことには,まさに現実性がある。これに対し,外国に対する武力攻撃が生じた場合にあっては,我が国に戦渦が及ぶか否か,すなわち,国民に被害が及ぶか否かは蓋然性のレベルで判断することになるのであり,両者は質的に異なる。そして,この蓋然性のレベルを判断するのは,まさに政府である。
したがって,「明白な危険」という概念を用いることで,外国に対する武力攻撃が生じた場合に,我が国の武力行使を許容することは,政府に恣意的判断を許す余地を多分に残すことになり,専ら対話(外交)による平和の実現という日本国憲法の基本理念に違背することになる。
- (3)本閣議決定は,外国に対する武力攻撃があった場合に,我が国の他国に対する武力の行使を憲法上許容する事態を想定しているところ,これは,前掲の内閣法制局が国会に資料を提出した時点から起算しただけでも,既に42年という長期にわたり,国会等において議論の積み重ねを経て確立され,定着している憲法解釈を変更するものであり,法的安定性を害するものである。
- (1)上記のとおり,本閣議決定は,その内容自体が日本国憲法に違反するものであるところ,さらに,その決定の必要性(いわゆる立法事実)を欠くものである。すなわち,本閣議決定は,「我が国は複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面している。」
と述べ,
- ア「武力攻撃に至らない侵害への対処」として
(ア)離島の周辺地域等において外部から武力攻撃に至らない侵害が発生した場合の対処
(イ)自衛隊と米軍部隊が連携して行う平素からの各種活動に際しての自衛隊の「武器の使用」
- イ いわゆる後方支援と「武力の行使との一体化」として
他国が「現に戦闘行為を行っている現場」でない場所での,他国軍隊に対する我が国の必要な支援活動の実施
- ウ「国際的な平和協力活動に伴う武器使用」として
(ア)いわゆる「駆け付け警護」に伴う武器使用
(イ)「任務遂行のための武器使用」
(ウ)領域国の同意に基づく邦人救出などの「武力の行使」を伴わない警察的な活動
等が必要であるとしている。
- (2) そこで,上記の事例について考察する。
- ア まず,上記3(1)ア(ア)については,我が国の領海・領空内で発生した不法行為は,「我が国に対する侵害」に対する対処であり,警察,海上保安庁及び自衛隊との任務・役割を子細に調整すれば足りることである。
また,上記3(1)ア(イ)については,不法行為を行う主体が「海賊」であれば,海上保安庁,自衛隊がその対処に当たり,その際には現に武器が使用できる(海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律第5条,第6条,第7条,第8条第2項)。また,不法行為の主体が国又は国に準ずる組織である場合は,自衛隊は,治安出動ができ(自衛隊法第78条),一定の条件下で合理的な範囲で武器使用が認められている(同法第90条第1項第3号)。したがって,本閣議決定をする必要性はない。
- イ 上記3(1)イについては,「必要な支援活動」として補給,輸送以外にどのような支援活動が想定されているか,本閣議決定からは明らかではない。仮に,この支援活動が「武力の行使」に該当する活動であり,かつ,「現に戦闘行為を行っている現場」でない場所での活動であるとすれば,本閣議決定の「憲法第9条の下で許容される自衛の措置」において述べている「我が国の存立を脅かし,国民の権利を根底から覆される明白な危険がある場合」に該当する場面は,およそ想定することができないものである。したがって,この場合においても,本閣議決定で言及する必要性はない。
- ウ 上記3(1)ウ(ア)及び(イ)について,国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律(以下「PKO協力法」という。)第24条第3項及び第4項は,自己又は自己と共に現場に所在する他の自衛隊員,隊員若しくはその職務を行うに伴い自己の管理の下に入った者の生命又は身体を防衛するためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合に,武器の使用を認めている。
そして,政府は,この武器使用を「いわば自己保存のための自然権的権利というべきもの」であり,憲法第9条第1項の「武力の行使」に該当しないとしている(1998(平成10)年5月20日参議院本会議における内閣総理大臣の答弁)。
この答弁の内容自体について疑義があるところであるが,係る武器使用の範囲をさらに拡張する場合であっても,本閣議決定の「憲法第9条の下で許容される自衛の措置」において述べている「我が国の存立を脅かし,国民の権利を根底から覆される明白な危険がある場合」に該当する事態は,およそ想定することができない観念上のものであることは,前記イの場合と同様である。
- エ 上記3(1)ウ(ウ)についても,自衛隊法第94条の5は,在外邦人の輸送に際し,自己又は自己と共に輸送の職務に従事する隊員,当該邦人若しくは外国人の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合に武器の使用を認めており,また,本閣議決定では,「『武力の行使』を伴わない警察的な活動ができるよう」にするというものであるから,自衛隊法改正の問題であり,本閣議決定で敢えて言及する必要性はない。
- 以上のとおり,本閣議決定において「集団的自衛権」行使に関連して指摘されている事項については,いずれもこれを認める必要性はなく,本閣議決定の合理性を基礎づける事実も存しない。
第4 本閣議決定の違憲性
- 本閣議決定は,武力による平和の実現を指向するものであり,日本国憲法前文及び第9条における対話(外交)による平和の実現という理念・要請に背理するものであり,かつ,この理念・要請の下,長期間,国会等で議論を積み重ね,確立された専守防衛という憲法解釈を,変更する必要性がないにもかかわらず,踏み越えて変更するものであり,これは日本国憲法前文及び第9条に違反することは明らかである。
- また,本閣議決定は,日本国憲法の基本原理である立憲主義に抵触する。
立憲主義は,憲法によって国民の基本的人権を保障し,この基本的人権を確保するため,国家権力を制限することを目的としている。日本国憲法が個人の尊重を規定し(第13条),基本的人権を第三章で保障するとともに基本的人権が永久不可侵であるとし(第97条),憲法が国の最高法規であり,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しないこと(第98条第1項),公務員の憲法尊重義務(第99条)を規定していることから,日本国憲法は,立憲主義を基本理念として採用しているのである。
本閣議決定は,日本国憲法前文及び第9条に違反し,したがって,第98条第1項により効力を有しない。そして,無効な国務に関する行為である本閣議決定を第96条に基づく改正手続を経ないで行ったことは,立憲主義という日本国憲法の基本理念にも反するものである。
- なお,そもそも恒久平和主義は,日本国憲法の基礎をなし,その究極にある原理を定める根本規範であり,「憲法の憲法」として通常の憲法規範よりも上位のレベルにある規範である。このため,恒久平和主義は,憲法改正手続によっても,これを改正することは,「憲法の破壊」として,許されないという考え方も存在する。
そして,前記第1,1で述べたとおり,日本国憲法が定める恒久平和主義は,武力ではなく,専ら対話(外交)による平和の実現を求めることにその核心があるところ,本閣議決定は,武力による平和の実現を指向するものであり,日本国憲法が定立した恒久平和主義に抵触する疑いがある。したがって,集団的自衛権の行使を容認することは,そもそも憲法改正手続を経たとしても許容されるか否かについて,慎重に検討する必要がある。
第5 「日米防衛協力のための指針」改定の動向
- 2014年7月1日,防衛省は,「安全保障法制整備検討委員会」を設置し,同月15日,日米両政府は,外務・防衛当局の審議官級協議を開催するとともに,同月18日,防衛省は,「日米防衛協力のための指針」(以下「日米防衛協力ガイドライン」という。)の改定に向けて「日米防衛協力のための指針の見直しに関する検討委員会」の第1回の会合を開催して本格的な作業を開始した。
- 日米防衛協力ガイドラインの改定の具体的内容については,現在,明らかにされていないが,本閣議決定が違憲である以上,本閣議決定の内容を含む日米防衛協力ガイドラインの改定も違憲性を帯びるものであるから,係る改定を行うべきではない。
第6 「集団的自衛権」行使に関連する諸法令改正の動向
- 政府は,本閣議決定第4項「今後の国内法整備の進め方」において,憲法第9条の下で許容される自衛の措置を自衛隊が実施するに当たっては,国家安全保障会議における審議等に基づき,内閣として決定を行うとし,政府として,本閣議決定における基本方針の下,あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とする法案の作成作業を開始することとし,国会に提出するとしている。
- そこでは,法案の整備の対象となる法令名は,具体的に挙げられていないが,本閣議決定において,法整備又は態勢等の整備をすることとされているのは,前記第3,3(1)で述べたとおりであり,この整備の必要性がないことは,前記第3,3(2)で論述したとおりである。
- そして,本閣議決定の内容と「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」における2014年5月15日付け報告書(以下「報告書」という。)に掲げられた事例等と併せて考えると,自衛隊法,武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(武力攻撃事態対処法),周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(周辺事態安全確保法),周辺事態に際して実施する船舶検査活動に関する法律(周辺事態船舶検査活動法),武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律(捕虜取扱法),PKO協力法等の法律の改正等が想定される。
- そして,この改正作業にあたり,報告書は,自衛隊法については,①国連平和維持活動等へ参加するに際して新たな任務の付与,武器使用権限の見直し,②他国のROE(Rules of engagement)に相当する「部隊行動基準」の整備や任務遂行のための武器使用に係る権限の包括的な付与,③駆け付け警護の検討を指摘し,PKO協力法については,④国連平和維持活動の武器使用基準に基づく武器の使用という国連における標準に倣った所要の改正を行うべきであるとしている。また,周辺事態安全確保法についても,⑤後方地域における対米軍支援に限定することなく,米軍以外の他国軍をも対象とし,より広い地域において必要な支援を提供できるよう検討する必要があると指摘している。
- しかし,上記4①から⑤までの改正をするとすれば,それは,前記第3,3(2)ウで述べたとおり,新三要件にも該当することが想定もできない武器の使用を認めることになり,日本国憲法前文及び第9条に抵触する。そして,上記3に記載した法律の改正についても,本閣議決定の内容を含むものについては,日本国憲法前文及び第9条に違反する。したがって,関連諸法令の制定又は改正は,日本国憲法上許されないのであるから,これらを行うべきではない。
第7 結論
- 我が国は,海外において国際連合の平和維持活動等をするために自衛隊を派遣している。係る諸活動において,他国の軍隊は少なからぬ犠牲者を出しているにもかかわらず,自衛隊は,人的な被害を被ることはなく,他国民の生命身体を害することもなかった。これは,徹底した恒久平和主義を唱える日本国憲法の下,自衛隊の諸活動が我が国に対する武力攻撃があった場合を想定し,海外における活動について極めて限定的に解した結果であり,専ら「対話(外交)による平和の実現」を要請する日本国憲法の精神に適うものである。政府は,我が国の憲法の係る精神に則って,外交政策及び防衛政策を策定すべきである。
- 海外における自衛隊等の武力行使の範囲を拡大することを指向する本閣議決定は,専ら「対話(外交)による平和の実現」という日本国憲法の基本精神から益々遠ざかるものであり,かつ,日本国憲法前文,第9条に違反し,また,立憲主義にも反するものであるから,政府は,これを撤回すべきであり,また,本閣議決定に基づく日米防衛協力ガイドラインの改定や関連諸法令の制定又は改正も行うべきではない。
- 当連合会を構成しているすべての弁護士会は,本閣議決定の前後に,総会決議,会長声明でこの決定の撤回を求め,この決定に反対し,又はこの決定の撤回を求めて市民集会,街頭宣伝行動等に取り組んできた。
- このような状況を踏まえて,当連合会は,今般,標記の決議を行うものである。
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