関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成26年 意見書

景品表示法上の課徴金制度の導入の在り方に関する意見書

2014(平成26)年6月26日
関東弁護士会連合会

はじめに

 国民生活センターに寄せられる相談内容のうち「表示・広告」とする相談は,2012年度で49,492件とされており,依然として不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)上の被害が後を絶たない。加えて,近年利用者が増加しているインターネット通販等のように,消費者が広告表示のみによって商品・サービスに関する判断を行って取引に入る取引形態も多くあり,不当表示を直接の原因としない消費者被害事案の中にも不当な表示・広告による誤認を端緒とする事案が数多くあるものと考えられる。
 また,2013年には,全国的に有名なホテル,百貨店等の経営する飲食店において食品の虚偽・誤認表示が大規模に発覚し,食品業界における偽装表示が長年にわたり潜在・放置されてきた実態が明らかとなった。
 そのため,かかる実態を受けて景表法上の不当表示に対する課徴金制度導入の必要性が広く一般に認識されるに至り,内閣府消費者委員会において専門調査会が設置され,景表法に対する課徴金導入のための制度設計に関する検討が開始され,2014年4月1日には同委員会で中間整理が行われた。
 そこで,当連合会においては「不当景品類及び不当表示防止法の課徴金制度の導入等の違反行為に対する措置の在り方」に関する最重要事項について,下記のとおり意見を述べる。

意見の趣旨

  1. 1 対象行為について,優良誤認・有利誤認のみではなく,不実証広告規制に係る表示行為も課徴金賦課の対象とすべきである。
  2. 2 課徴金を賦課する場合の主観的要件については,故意又は過失(軽過失)の存在を必要とするが,不当表示の存在が客観的に認められる場合(商品・役務の内容が客観的真実に合致しない有利誤認表示又は優良誤認表示である場合)には,過失の存在が推定されるとして挙証責任を転換し,不当表示の主体である事業者において,無過失であることの本証を行った場合には,課徴金を課さないこととすべきである。

意見の理由

  1. 1 対象行為について
     優良誤認及び有利誤認は,景表法上の代表的な対象行為であり,課徴金賦課の対象とすることに異論の余地はない。他方,不実証広告規制については,対象行為とすべきか否かの意見が分かれるところである。
     不実証広告規制とは,消費者庁長官が商品・サービスの内容について実際のものよりも著しく優良であると示す表示等に該当するか否かを判断するために必要があると認めるときは,当該表示をした事業者に対し,期間を定めて表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求め,当該資料が提出されない場合に,当該表示を不当表示とみなすというものである。
     痩身や空気清浄機能等のような効果は,原材料,成分,容量等とは異なり,契約書等の取引書類や商品そのものの情報を確認するだけでは,表示されたとおりの効果・性能があるかを客観的に判断することが困難であることから,不実証広告規制を定めて合理的根拠資料の提出を求めているのである。
     不実証広告に係る表示を課徴金の対象とすることについては,一定期間に合理的根拠資料を提出しなかったということは,一種の手続違反に対して課徴金を課すことになり,優良誤認そのものと比べて適用範囲が広範であるとの指摘がある。
     しかし,合理的根拠資料を有することなく一定の優良誤認表示による取引を行う事業者の悪質性は高く,当該取引によって獲得された事業者の「やり得」を剥奪する必要性は極めて大きい。また,合理的根拠資料を提出しないことにより,措置命令だけ甘受すれば課徴金の賦課は免れられるという事態を誘発すべきではなく,事業者の行為規範として,自ら提供する商品・サービスの内容に係る表示をしているのであるから,一定の合理的根拠資料をもって説明すべきことを要求することは当然である。
     なお,不実証広告規制に対して課徴金を賦課したのに対して,不服のある事業者が,不服申立てをして,さらに取消訴訟となった段階で合理的根拠資料を提出した場合においては,取消訴訟において課徴金賦課の結論が覆らないと考える必然性はない。この点,「一定期間内に合理的根拠資料を提出しないこと」自体を課徴金賦課の要件としてしまうと,後に合理的根拠資料が提出できたとしても取消訴訟の対象にならず,手続保障が不十分なのではないかとの意見もありうるが,もしそうであれば,不実証広告に係る表示を暫定的に優良誤認表示として課徴金納付命令の対象とした上で,取消訴訟の段階で合理的根拠資料が提出された場合には結論が覆るという規定を設ければ足りるのであり,事業者に対して十分な手続保障をした上で立法化することは可能である。
  2. 2 課徴金を賦課する場合の主観的要件について
     不当表示の中には,軽過失又は無過失と評価される可能性のある事例も考えられ,例えば,製品の仕入れ元事業者や海外の輸出事業者から虚偽事実を説明されて当該事業者も欺かれ,結果的に不当表示となってしまったような事例又は末端の従業員が知識不足あるいはコンプライアンス意識の希薄さから本来の指揮命令から逸脱して商品・役務の品質を偽るような事例等が想定される。課徴金により不正な利得を剥奪するという威嚇により反対動機を形成させて違法な不当表示を事前抑止するという考え方からすると,こうした事例については,反対動機を形成させる役には立たないので課徴金による威嚇が機能しないとも考えられる。しかし,更に突き詰めると,相手方の事業者からの商品購入時の確認の不十分,あるいは組織全体に対するコンプライアンス体制構築が不十分な事例とも考えられる。そうすると,過失が認められるケースが少なくないと考えられ,その損失を消費者に転嫁することは不当であり,より注意深い対応を求める趣旨から課徴金を賦課すべきである,との価値判断も成り立つ。
     これらを総合して考えると,完全に無過失であれば課徴金賦課まで行うことは不適切であるが,過失が存在する場合には,課徴金を賦課するとの対応が適切であると考えられる。
     ただし,行政機関である消費者庁の側で,措置命令・課徴金納付命令を下すまでの調査の中で,事業者の過失・無過失の分別まで求めることは手続を重くして不当表示を早期に摘発することが困難となり,執行力を低下させる懸念がある。そこで,客観的に不当表示が存在する場合には,挙証責任を転換して原則として過失が存在するものとして扱い,事業者側で自らの無過失を基礎付ける事実を主張・立証して争うこととすべきである。

以上

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