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宣言・決議・意見書・声明等
平成27年度 声明
災害対策を理由とする国家緊急権の創設に反対する理事長声明
- 1 現在、憲法改正をめぐり、国家緊急権(戦争・内乱・大規模自然災害などの緊急事態の際、政府が平時の統治機構では対処できないと判断した場合に、憲法秩序を一時停止して非常措置を行う権限)を具体化した緊急事態条項の創設が議論の対象とされている状況にある。緊急事態条項が必要な理由として、東日本大震災後の対応に不十分な点があった、あるいは国会議員の任期満了時に災害が生じた際、立法府が機能しないなどの点が指摘されているところである。
当連合会は、新潟県中越大震災、新潟県中越沖地震、そして東日本大震災と、継続的に被災者支援活動に取り組み、また、平時からの災害対策にも取り組んできたところである。そのような経験からすれば、災害対策を理由とする国家緊急権の創設は有害無益である。そして、それだけでなく、立憲主義を破壊し、基本的人権の憲法上の保障を危うくするものであることは明らかであるので、ここに強く反対を表明する。
- 2 まず、そもそも諸外国に見られる程度の「国家緊急権」の内容は、災害大国ともいうべき、我が国の現行憲法下にある災害関連法制によって、十分に整備されている。すなわち、国家緊急権は一時的にせよ憲法秩序を停止し、行政府への強度の権限集中と人権制約を伴うものであることから、行政府による濫用の危険性が極めて高い。これまでの歴史を振り返ってみても、非常事態の宣言が正当化されないような場合であっても 非常事態が宣言されたり、戦争その他の非常事態が去った後も速やかに憲法秩序を回復させることなく人権侵害がなされたりしてきた例は枚挙にいとまがない。現行憲法は、制定時の議論において歴史に学び、憲法に緊急事態条項を敢えて設けず、非常事態に対しては、現行憲法秩序を維持したまま、厳格な要件を課した上で法律により対処することにしているのである。
また、災害対策ないしは災害復興の場面において最も重要なことは、「事前に準備していないことはできない」ということである。そして、事前の準備としては、災害対策基本法に基づく防災基本計画があり、これに基づき、大規模災害時には現行憲法下における災害対策基本法、自衛隊法、警察法などの各種法規を活用することで十分に対処できる。東日本大震災の際に、国において対応が不十分であったとすれば、その原因はもっぱら事前の準備不足か、既にある法律の活用を十分できなかった点にあり、自治体において対応が不十分であったとすれば、それは必要な対策に関する国からの権限委譲が不十分だったからに他ならず、憲法に緊急事態条項がなかったからなどという理由によるものではない。特に、自然災害と原発事故が併発する等、複合災害時における指揮命令系統については、現在でも法制度が未整備の部分があり、災害時に混乱の生じないよう、地方への適切な権限移譲、適切な役割分担が急務である。
他方、憲法に緊急事態条項ができることで事後対応が可能であることが強調され、その結果として災害対策上の事前準備が軽視されてしまうことが容易に想定されるが、それは必要な災害対策を後退させるものであり有害そのものである。
さらに、国会議員の任期満了時の問題点が指摘されているが、そもそも衆議院議員において任期満了となったことは現行憲法下の70年間において1度しかなく、任期満了時に大災害があった場合に選挙ができないなどという立法事実は全く存在しない。また、衆議院が解散、かつ参議院の任期満了が重なった場合であっても、現行憲法は、参議院の過半数は改選されずにいることから、緊急集会による対応が可能であって、立法府が不存在になるとの事態は生じ得ない。
- 3 このように、緊急事態条項の憲法上の創設には立法事実が到底認められない。一方、これまでの歴史に鑑みれば、緊急事態条項の創設は立憲主義を破壊し、憲法が国民に保障する基本的人権を蹂躙する可能性を帯びているものというほかない。これまで、当連合会管内の10の弁護士会が緊急事態条項の憲法上の創設に反対する会長声明等を発出しているところ、東日本大震災から5年が経過し、また昨今の憲法改正を巡る議論状況に触れ、当連合会としても、ここであらためて、災害対策を理由とする国家緊急権の創設に強く反対するものである。
2016(平成28)年3月23日
関東弁護士会連合会 |
理事長 |
藤田 |
善六 |
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