難民認定手続における事実聴取手続の可視化等を求める理事長声明
第1 声明の趣旨
当連合会は,法務省に対し,難民認定申請手続が適正に運用されているかについて徹底した調査を行い,その結果を公表するよう求めるとともに,難民認定申請手続における事実聴取につき,その全過程を録画する制度を導入するよう求める。
第2 声明の理由
- 1 我が国の難民認定申請者(以下「申請者」という。)をめぐる手続は,出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)及び出入国管理及び難民認定法施行規則に規定されており,これを受けて法務省は,内部規則として「難民認定事務取扱要領」及び「難民異議申立事務取扱要領」を作成して事務の取扱いを具体的に定め,適正な運用を図っている。難民認定手続が,難民認定事務要領及び難民異議申立事務取扱要領に従って適正に運用されるべきことはいうまでもない。
とりわけ,法第61条の2に定める難民認定申請手続(以下「第一次手続」という。)についてみると,代理人名義での難民認定申請が認められておらず,その後の難民調査官による事情聴取(インタビュー)についても,代理人の立会いは一切認められず,いわば密室において事実の調査がなされている。
- 2 そこで,当連合会において,手続の過程が開示されない第一次手続に関し,申請書類の交付と受理,提出証拠の受付,インタビューにおける難民調査官の対応,通訳人の資質ないし能力,異議申立の教示の各項目について申請者ないし難民認定申請を行ったことがある者を対象とするアンケート調査を行った。
その結果,申請者の手続上の権利を不当に制限するような事例が多数報告された。アンケート調査の概要,結果及び分析内容については,別紙資料を参照されたい。
- 3 アンケート調査の結果に見られるような問題事例が事実であるとすれば,「難民認定事務取扱要領」に違反することは明らかである。
よって,当連合会は,法務省に対し,難民認定申請手続が適正に運用されているかについて徹底した調査を行い,その結果を公表するよう求める次第である。
- 4 ところで,難民認定申請手続における難民該当性の判断は,以下のとおり,特殊な事実認定手続である。
すなわち,申請者において,難民性を基礎付ける客観的証拠を確保したり証人に接近したりすることは困難なため,難民該当性判断は,自ずと申請者の供述の信憑性判断が要となることが多い。
しかるに,申請者の供述は,心理的要因(迫害経験などによる心的要因,官憲側に対する警戒心,本国の家族等に危険が及ぶのを避けようとする心理,迫害の待つ本国への送還を避けるために難民該当性を実際より大きく見せようとする心理等)によって,真実と異なる内容が含まれるものが生じるおそれがある。また,難民該当性判断は,自ずと文化,宗教,政治的意見等に関する検討を伴うところ,通訳人と申請者との文化・宗教・政治的意見が異なれば,同じ言語であっても,文化的・言語的要因(文化圏,宗教によってある言葉の定義が異なることもあり得る)によって,誤訳・不適切な訳,聴取の取違いが生じるおそれがある。
このように,難民該当性の判断にあたり,しばしば申請者の供述の信憑性が問題となるところ,その判断は複雑かつ多面的な検討を要することから,インタビューの結果を書面(供述調書)によって記録化するだけでは不十分である。
この点,インタビューを録画する制度を導入すれば,録画によって,申請者の供述に係る最も客観的かつ直接的な記録が得られることになり,難民該当性に関する適切な事実認定に資することになる。
加えて,行政手続の公正さを担保し,制度に対する信頼性を築くためには,そのプロセスを開示することが最重要であるところ,上述したとおり我が国の第一次手続の運用はこの点で深刻な問題を抱えている。この点,録画によって,事実の調査の過程を開示することとなれば,手続の公正を諮ることが期待できる。また,事実の聴取手続を可視化することによって,違法ないし不当な運用を抑制することも期待される。
他方において,録画は,記録装置を操作すればよく,書面による記録化と比較して,極めて簡便・容易な作業で行うことができる。現在,難民認定申請者数は増加の一途をたどっているが,事実聴取の手続につき録画の制度を導入すれば,手続における入管職員の作業を格段に効率化させることができる。
以上のとおり,当連合会は,難民認定申請手続における事実聴取につき,その全過程を録画する制度を導入するよう求める次第である。
2016(平成28)年2月18日
関東弁護士会連合会
理事長 藤田 善六