関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成27年度 声明

「外国につながる生徒」の権利の保障の見地からも,東京都教育委員会の夜間定時制高校4校の廃止決定に反対する理事長声明

声明の趣旨

 当連合会は,東京都教育委員会が2016(平成28)年2月12日に決定した「都立高校改革推進計画・新実施計画」に従って,都立立川高等学校(立川市),都立小山台高等学校(品川区),都立雪谷高等学校(大田区),都立江北高等学校(足立区)の4校に設置されている夜間定時制課程を廃止(閉課程)することについて,それに対する十分な代替課程が設置されることのない限り反対する。

声明の理由

  1. 1.現在までの経緯
     2015(平成27)年11月,東京都教育委員会は,上記4校に設置されている夜間定時制課程を廃止(閉課程)することを含む,都立高校改革推進計画・新実施計画案を策定し,2016(平成28)年2月12日,東京都教育委員会定例会において上記計画案を決定した(以下「本計画」という。)。今後,都議会での審議が予定されている。
  2. 2.「外国につながる生徒」の置かれた現状と問題点について
    (1)これらの学校の夜間定時制課程においては,いわゆる「外国につながる生徒」が多数在籍している。この「外国につながる生徒」には,外国籍の生徒のみならず,日本国籍ではあるが,親が外国籍であったり,幼少時に海外で生活していたなどの理由から日本語教育が必要である生徒など,特別な対応が必要である生徒も含まれている。「外国につながる生徒」については公的な信頼できる網羅的な統計が現時点ではない。「外国につながる生徒」という概念自体,これらの生徒についての特別な取組みの必要性を自覚した教育現場から生まれたものである。公的統計や,概念規定の不十分さは,それ自体,これらの生徒たちへの支援が現時点では十分になされていないことを示している。このように「外国につながる生徒」の権利保障については,そもそもその問題性自体が未だ社会で共有されているとはいえないから,本計画の当否の検討にあたって特に留意されなければならない。
    (2)このような点から検討した場合,東京都教育委員会作成の平成27年度公立学校統計調査報告書学校調査編(2015(平成27)年5月1日付)のデータによれば,都立高等学校における外国籍の生徒数は1300名であるところ,全日制課程が773名,定時制課程が521名,通信制課程が6名であり,外国籍の生徒の40%が定時制課程で学んでいる。また,都内公立中学校における外国籍の生徒数が2770名であることなどからして,東京都における外国籍生徒の高校進学率は40~50%にとどまるのではないかと推計されており,一般の高校進学率が概ね97%程度であるのと比較すると,非常に低い進学率にとどまっている。
     他方,全校生徒に対する「外国につながる生徒」の割合が,一般の全日制高校においては0.1%程度にとどまると推定されているのに対し,今回の4校の夜間定時制課程では高い割合となっている。例えば,小山台高等学校において,2012(平成24)年度で25%(15か国51人),2014(平成26)年度でも19%(16か国34人)であるほか,他の3校でも約10%程度を占めるものと思われる。4校の中には,カリキュラムの内容についても,日本語についての個別学習(日本語取り出し授業)や放課後補習,自らのアイデンティティに誇りを持たせることを可能とするための多文化理解授業など,生徒のニーズに合わせた工夫するなどの成果をあげている高校がある。
     「外国につながる生徒」の高校進学,ひいては学習権の保障の見地から4校の夜間定時制課程は重要な意義を有している。
  3. 3.都立高校改革推進計画・新実施計画
    (1)4校廃止の理由
     本計画では4校において夜間定時制課程を廃止する理由として,勤労青少年の生徒数の減少,全日制・定時制併置校の利用上の時間的制約などをあげている。
     しかし,勤労青少年の生徒数の減少をいう点については,非正規雇用の勤労青少年が増加している実態が十分に考慮されていない可能性もあり,また,併置校における時間的制約についても,在籍する生徒のためにこれまで多くの工夫・努力をして取組みがなされてきた。4校での廃止を行うには,少なくとも4校におけるこれまでの取組みの意義を失わないような十分な代替計画を用意する必要がある。
    (2)本計画における代替計画の不十分性
     本計画では,既存のチャレンジスクール・昼夜間定時制高校の夜間の規模を拡大することで夜間の時間帯における学習ニーズに対応するとしている。しかし,本計画でもチャレンジスクール及び昼夜間定時制高校は現時点においても入学者選抜の応募倍率が高いことが課題として挙げられているところ,本計画で規模を拡大するとして予定されているのはチャレンジスクール4校及び昼夜間定時制高校3校に過ぎず,その規模も不明である。
     前記のとおり,4校の中には「外国につながる生徒」のために特別の取組みをしてきた学校がある。受入予定校である,チャレンジスクールや昼夜間定時制高校において,このような取組みを,今後,どのようにして継承,実施していくかについて本計画では具体的な計画は示されていない。受入予定校には入学志願者が多く,入学試験の競争率が高倍率の学校もあることが指摘されている。日本語能力の点で特別な配慮をするなどしなければ,「外国につながる生徒」は入学自体が現状よりも難しくなってしまう事態も懸念されるが,このような点についても具体的な計画が示されているわけではない。
     何より本計画には4校における「外国につながる生徒」の占める高い割合や,そもそもの低い高校進学率などについての明示的な言及がない。本計画が,「外国につながる生徒」の存在や,これらの生徒のための特別な取組みの必要をどの程度,自覚して策定,決定されたのかは不明である。
     本計画において,4校で夜間定時制課程を廃止した場合の代替計画が十分に示されているとはいえない。
    (3)4校の夜間定時制課程に多くの「外国につながる生徒」が在籍するのは,他校において十分な受入れができていないこと,そもそも日本の学校体制がこれらの生徒の存在を想定していないことがその主たる原因と思われるが,他方で,これら4校が多くの「外国につながる生徒」を引きつけることに成功している側面もある。東京都教育委員会はなぜあえて,いま,その成功例を捨てる新たな計画を決定するのか,そして,これまでの成功例を上回る,より手厚い学習権の保障を「外国につながる生徒」が享受できるためのどのような具体的な計画を考えているのかについて,社会に対して説得的に説明しなければならない。
  4. 4.結論
     以上のとおり,当連合会は,本計画に従って4校に設置されている夜間定時制課程を廃止(閉課程)することに,それに対する十分な代替課程が設置されることのない限り反対する。

2016(平成28)年2月25日
関東弁護士会連合会
理事長 藤田 善六

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