関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

平成27年度 声明

司法予算の大幅増額を求める理事長声明

第1 声明の趣旨

 最高裁判所は,地域司法充実に向け,それに必要な司法予算の大幅増額を要求すべきであり,政府,財務省はこれを受けて司法予算を大幅に増額させた予算案を国会に提出し,国会はこれを承認すべきである。

第2 声明の理由

  1. 1 裁判所は,国の三権の一翼を担い,様々な紛争を公正かつ適正に解決することで,社会正義を実現し,少数者・弱者の権利擁護の最後の砦としての役割を担う機関である。
     司法制度改革審議会意見書(2001年。以下「意見書」という。)は,これまでのわが国の司法が過小であったことに根本的反省を加え,「『国民の期待に応える司法制度』とするため,司法制度をより利用しやすく,分かりやすく,頼りがいのあるものとする」ことを改革の柱に挙げている。そして,意見書は,かかる司法制度改革を実現するために,裁判官及び書記官等裁判所の職員の大幅増員等の人的体制の充実と裁判所の利便性を確保する見地から裁判所の配置の不断の見直しが必要であること,及び司法に対する財政面の十分な手当が不可欠であるとし,政府に対して,必要な財政上の措置について,特段の配慮を求めた。
     また,「裁判の迅速化に関する法律」(2003年法律第107号。以下「迅速化法」という。)は,裁判が迅速に行われ,司法を通じて権利利益が適切に実現されるよう,政府に財政面も含めた措置を講じる義務を課した。
     ところが,意見書公表の翌年である2002年度に81兆2300億円程度であった国家予算が,2016年度案では96兆7218億円と約19%も増えているにもかかわらず,司法予算は,2002年度は3171億円,国家予算に占める割合が0.39%であったものが,2016年度の司法予算案は3150億円に減り,国家予算に占める割合は0.32%まで落ち込んでいる。このような事態は,意見書が求めた「財政上の措置についての特段の配慮」や迅速化法が定める「措置を講じる義務」が怠られてきたものと評価せざるを得ない。
  2. 2 当連合会では,2003年以降,首都圏の弁護士会支部が始めた裁判所支部の充実を求める運動を共催し,又は後援するとともに,2005年以降,当連合会主催の支部交流会を毎年開催してきた。ところが,裁判所支部の充実を求める要求がいずれも実現しないことから,当連合会は,2011年9月の定期弁護士大会において,「東京高等裁判所管内の司法基盤の整備充実を求める決議」(以下「関弁連決議」という。)を採択し,重点課題として,東京地家裁立川支部の本庁化,千葉県京葉地域(市川市・船橋市・浦安市)の地家裁支部設置,横浜地裁相模原支部の合議事件取扱い及び裁判官非常駐支部の解消を求め,各方面に執行した。また,全国各地の弁護士会や弁護士会連合会からも各裁判所支部の充実を求める決議や宣言が出されている。しかし,未だその実現に至っていない。
  3. 3 2014年10月から9回にわたって日本弁護士連合会及び最高裁判所との間で地域司法の基盤整備に関する協議が行われ,この度,最高裁判所は,①労働審判実施支部を拡大すること,②一部の裁判所支部及び家庭裁判所出張所における裁判官のてん補回数を増加させること,③受付のみしか行っていなかった家庭裁判所出張所においても,運用により出張調停を実施できる可能性があることを確認したこと等を明らかにした。これら最高裁判所との協議(以下「最高裁協議」という。)の内容は,地域司法を充実させるものとして評価できる。もっとも,地域司法充実に関し取り組むべき課題は依然として残されている。
     労働審判については,当連合会管内の長野地裁松本支部及び静岡地裁浜松支部ほか広島地裁福山支部での実施が決まったものの,日本弁護士連合会が求めていた他の7支部での労働審判実施は見送られた。近年,民事通常訴訟において,複雑困難な事件はどの地方裁判所でも増加していて,合議体による審理を充実させる必要があるにもかかわらず,当連合会が,関弁連決議において重点課題とした横浜地裁相模原支部での合議制導入が見送られたほか,日本弁護士連合会が求めていた全国の支部での合議制導入が全て見送られた。さらに,関弁連決議が重点課題とした千葉県京葉地域(市川市・船橋市・浦安市)の地家裁支部設置も実現しなかった。
     事件数が増加している水戸地家裁麻生支部や静岡地家裁掛川支部での裁判官常駐も見送られた。
     また,家事調停事件や成年後見事件が著しく増加しており,特に,家庭裁判所における裁判官を含む裁判所の職員の絶対的不足を招くなど司法機能に看過できない課題が山積している。
     司法制度は,意見書から15年が経過しようとしている今もなお,全国各地において,そもそも裁判所がない,あるいは,裁判所があっても非常駐であったり取扱事件が限定されるなどといった事情により,国民にとって利用しやすい紛争解決手段となっていない。かかる事態は,国民の裁判を受ける権利(憲法第32条)を侵害しているものと評価せざるを得ない。そして,かかる事態は,ひいては,紛争解決手段として裁判所が利用されない一因となっている。
  4. 4 こうした事態を改善するためには,裁判所の人的物的設備の拡充,すなわち司法予算の大幅増額が不可欠である。2014年度において,当連合会管内の9の弁護士会が,司法予算又は裁判所予算の大幅増額を求める会長声明を発表した。その意義は,最高裁協議を終えた今,再度,確認すべきである。司法予算の大幅増額を実現するには,この時代のわが国のあり方として,司法の基盤を整備し,地域の裁判所を利用しやすくすることが国民の権利擁護に資するという国民的な合意を得ることが望ましい。
     国家財政が悪化している現状においては,司法予算を大幅に増額することは難しいとの意見がある。しかし,もともと,司法予算があまりにも小さかったため,司法の使い勝手が悪く,その改善を図るべく,「身近で利用しやすく,その期待と信頼に応えうる司法制度」を目指し,意見書の提言がなされたのである。それにもかかわらず,上述したような司法予算の実態は,いささか絶望的ですらある。国家財政が厳しい実情にあるとしても,わが国の司法の健全な発展のためには,司法予算の大幅な増額が急務である。
     最高裁判所は,限られた予算の範囲での運用改善にとどまるのではなく,国民の期待に応える司法制度を地域において構築できるよう,下記のような,多様な事業計画を作成し,それに必要な予算を要求すべきである。
    (1) 要望の多い労働審判を多くの地方裁判所支部で扱えるようにする。
    (2) 近時,増加している家事事件を円滑に処理できるように,家庭裁判所本庁・支部における家事専門裁判官や書記官,調査官等の職員を大幅増員する。
    (3) 受付しか行っていない家庭裁判所出張所においても家事調停や審判ができるようにし,必要な地域には家庭裁判所出張所を新設する等,家庭裁判所の機能を抜本的に強化する。
    (4) 事件数の多い裁判官非常駐支部には裁判官を常駐させ,常駐まではいかないとしても事件数や地域の特性に応じて開廷日を増やす。
    (5) 裁判所の必要な地域に必要に応じた裁判所を新設する。
  5. 5 そうした事業計画を作成するためには,最高裁判所は,各地の要望や司法アクセスの障害となっている事例を収集する必要があるし,加えて,利用者や地方自治体の意見を聞くことも不可欠である。最高裁判所は,日本弁護士連合会と協議し,各地の弁護士会連合会や地域司法計画を作成してきた各管内の弁護士会がこれまで築いてきた取り組みの成果やノウハウを活かして協力できる仕組みを作ることを希望したい。最高裁判所は,これらにより集積した情報,調査結果や提言に基づき,地域の司法を充実させるための事業計画を作成し,事業に必要な予算額を盛り込んだ予算案を作成し,政府,財務省に提出すべきである。こうした予算要求は,国民の裁判を受ける権利(憲法第32条)を実質化するためのものとなる。
     最高裁判所は,そうした予算案を,2017年度予算から要求すべきであり,政府,財務省は,これを受けて司法予算を大幅に増額させた予算案を国会に提出し,国会はこれを承認すべきである。
  6. 6 当連合会は,最高裁協議の成果をさらに進め,国民の期待に応える司法制度を実現するために,声明の趣旨のとおり声明し,大幅な司法予算の増額を求め,併せて,国民各層に訴えるものである。

2016年(平成28年)3月16日
関東弁護士会連合会
理事長 藤田 善六

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