2015年(平成27年)8月20日
関東弁護士会連合会
第1 意見の趣旨
- 1 電話勧誘販売を受けたくない者が事前に自己の電話番号の登録を行い,登録者への電話勧誘販売を禁止する制度(「Do-Not-Call制度」,以下「DNC制度」という。)を直ちに導入することを求める。
- 2 DNC制度における登録者の確認方法は,事業者が保有する電話番号等のリストを登録機関に照会し,登録機関が,登録者の情報があるかを確認するいわゆるリスト洗浄方式を採用することを求める。
- 3 訪問販売を受けたくない者が,いわゆる「訪問販売お断りステッカー」等を掲示した場合には,当該掲示者に対する訪問販売を禁止する制度(ステッカー方式によるDo-Not-Knock制度,以下「DNK制度」という。)を直ちに導入することを求める。
第2 意見の理由
- 1 現行法の問題点・不十分性
特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)は,訪問及び電話による勧誘を受けた消費者が,勧誘にかかる契約を締結しない意思表示をした場合に,当該消費者に対する再勧誘を禁止しているのみである(特商法第3条の2第2項,第17条。継続勧誘・再勧誘の禁止)。また,消費者が,「訪問販売お断り」などと書かれたステッカーを玄関ドア外側に貼るなどして,予め包括的に,事業者からの勧誘行為を拒絶する意思を表示していたとしても,そのような行為は,意思表示の対象や内容が不明瞭であるため契約を締結しない意思表示には該当しないとの解釈が公表されている(消費者庁「特定商取引に関する法律第3条の2等の運用指針-再勧誘禁止規定に関する指針-」)。
そのため,消費者は,事業者からの訪問及び電話による勧誘を望まない場合に事前に拒絶・回避する手段を有さず,事業者からの勧誘を一度は受けざるを得ない状況に置かれている。
- 2 望まない勧誘を禁止する必要性
しかし,そもそも消費者は,事業者と取引をするか,しないかの自由を有しており,取引のための勧誘を受けるか否かについても,消費者の自己決定権に委ねられる(消費者基本計画2015年3月24日閣議決定参照)。にもかかわらず,消費者は,消費者の要請なくして訪問又は電話による勧誘(不招請勧誘)を拒否する手段を有しておらず,消費者の自己決定権が侵害された状態にある。
また,不招請勧誘は,私生活の平穏を害するものでもあり,消費者にとって,それ自体が大変に迷惑なものである。現に,近時の調査によれば,消費者の96%以上が訪問販売,電話勧誘販売を全く受けたくないと回答している(消費者庁平成27年5月「消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘に関する意識調査」)。
のみならず,不招請勧誘は,不意打ち的で一方的なものになりやすく,特に電話・訪問による勧誘は,消費者が応答を余儀なくされるリアルタイム型(即時型)の勧誘であり,事業者が勧誘のプロであることから,一度事業者と接触して勧誘を受けると,消費者がこれを拒絶することは容易ではなく,消費者にとって不本意,不当・不正な契約を締結させられるおそれが高い。
全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)に登録された相談件数においても,家庭訪販や電話勧誘販売は,増加傾向にあるとされる(第4回特定商取引法専門調査会における消費者庁からの配布資料「訪問販売・電話勧誘販売等の勧誘に関する問題についての検討」)。特に,訪問販売及び電話勧誘販売については,その相談の5割以上が60歳以上の高齢者である。今後,さらに高齢化が進み,認知症等による判断能力が低下した高齢者の増加も見込まれるところ,このような高齢者においては,より一層事業者の勧誘を拒絶することが困難となり,現行の継続勧誘・再勧誘の禁止の規制だけでは,不本意,不当・不正な契約が締結され,訪問販売・電話勧誘販売による消費者トラブルが増加することが強く懸念される。
このような消費者の自己決定権,私生活上の平穏,消費者,特に高齢者のトラブルの増加に加え,事業者からの勧誘を受けている最中に,その勧誘を断ることのできる消費者の方が少ないこと,現に消費者の96%以上が訪問販売,電話勧誘販売を全く受けたくないと回答していることに照らせば,訪問及び電話による勧誘は,「原則として禁止し,消費者が招請した場合又は勧誘を受けてもよいとの意思表示をした者にのみ例外的に許容される」制度(オプト・イン方式)を導入することが本来的には望ましい。
もっとも,同制度は事業者側の営業活動の自由を過度に制限するという事業者側の反対により,オプト・イン方式を直ちに導入できないのであれば,少なくともオプト・アウト方式(原則として勧誘を許容し,消費者が拒絶の意思表示をした場合に勧誘を禁止する制度)のうち,事前に拒絶の意思を表示した者に対する勧誘を禁止する制度(以下「事前拒否制度」という。)を導入するべきである。
- 3 営業の自由との関係
事業者の中には,予め拒絶の意思を表示した消費者に対する勧誘を禁止する制度の導入は,「営業の自由」に対する「過剰な規制」であるなどとして反対する意見もある。
しかし,オプト・イン規制であっても,それは営業活動そのものの規制ではなく,営業活動に対する時・場所・方法の規制に過ぎず,訪問勧誘や電話勧誘以外の方法による勧誘行為を禁止するものでもない。また,同意のある場合等の勧誘を規制するものではない。さらに,現に96%以上の消費者が訪問販売,電話勧誘販売を全く受けたくないと回答しており,オプト・イン規制を導入する必要性は極めて高い。
現に,電子メール広告の送信,訪問購入,さらには金融商品等の勧誘においても,オプト・イン規制として認められているところであるから,決して過度に営業の自由を制限するものではない。
さらに,事前拒否制度は,勧誘拒否の意思を事前に表示した消費者に対してのみ勧誘を禁止する制度であり,拒否の意思を表示している者に対して営業をする自由などないのであるから,当該制度であれば,そもそも事業者の営業の自由の問題は生じない。
以上のとおり,訪問勧誘・電話勧誘について,事前拒否制度による規制については,事業者の営業の自由は,全く問題とならず,オプト・イン規制であっても,事業者の営業の自由を過度に侵害することにはならない。
- 4 具体的な事前拒否制度の内容について
- (1) 電話勧誘拒否登録制度(DNC制度)について
DNC制度は,電話勧誘販売を受けたくない者が事前に自己の電話番号の登録を行い,登録者への電話勧誘販売を禁止する制度である。
海外では,アメリカ合衆国,アルゼンチン,イギリス,イタリア,インド,オーストラリア,オランダ,カナダ,韓国,シンガポール,スペイン,ノルウェー,ベルギーなど数多くの国が同種の制度を既に導入している(フランスでは,2014年に法改正がなされ,現在導入に向けての準備を進めている。なお,ドイツ,オーストリアなどでは,要請・同意のない電話勧誘は禁止されている。)。
登録の確認方法としては,①登録された電話番号のリストを事業者に開示し,事業者側で登録者を確認する方式(勧誘拒絶リスト提供方式)と②事業者において保有する電話番号等のリストを登録機関に照会し,登録機関側が登録者の電話番号を確認して事業者に回答する方式(リスト洗浄方式)がある。
リストが流用・漏洩するリスクや,登録する消費者としても必要以上に電話番号が開示されることは望まないことに照らせば,リスト洗浄方式を採用すべきである。
- (2) 訪問勧誘拒否制度(DNK制度)
DNK制度は,訪問販売の勧誘を受けたくない者に対する訪問販売を禁止する制度である。
当該制度には,訪問販売の勧誘を受けたくない消費者が門戸等に「訪問販売お断りステッカー」等を掲示した場合に,当該掲示者に対する訪問販売を禁止する方式(ステッカー方式)や勧誘を受けたくない消費者が公的な登録機関に登録し,当該登録機関に登録された場所等での勧誘を禁止する方式(レジストリー方式)がある。
海外では,オーストラリア,アメリカ合衆国の多くの地方自治体等において,事前の拒絶表示を無視した勧誘を禁止し,違反した場合には行政処分,罰則の対象としている。アメリカ合衆国の地方自治体では,登録制度を採用する例もある。
我が国においては,既に多くの地方公共団体において「訪問販売お断りステッカー」を配布する取り組みが重ねられている。このような実績や登録簿の悪用,登録簿の維持コストを考慮すれば,ステッカー方式によるDNK制度の導入が望ましい。そして,「訪問販売お断りステッカー」を掲示すれば,訪問販売一般について勧誘を断るという意思を表示したものであると法律で明確に規定すれば,訪問販売一般について勧誘を断る,契約の勧誘を受けたくない意思表示として明確性を欠くことにはならない。
- 5 結語
消費者の96%以上が訪問販売,電話勧誘販売を全く受けたくないと考えており,DNC,DNK制度は,勧誘のプロである事業者から消費者が身を守るための最低限必要な手段である。勧誘を受けるか否かについて消費者の自己決定権や私生活の平穏は,事業者の営業活動の自由より軽視すべきものではないのに,これまで,消費者のこれらの権利がないがしろにされてきたものである。消費者被害は,後で回復することが極めて困難で,被害を予防することが極めて重要であるところ,DNC,DNK制度は,被害を予防するために非常に有効な制度であることは疑いがない。
以上の見地から,意見の趣旨記載の対応を強く求める。
以上