関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成27年 意見書

特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する意見書

平成27年10月20日
関東弁護士会連合会

第1 意見の趣旨

 カジノ(民間賭博場)設置の推進を定める「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」に反対するとともに,同法案ないしこれと同趣旨の法案が今後の国会で再提出されることにも強く反対する。

第2 意見の理由

  1.  平成27年4月28日,超党派の国際観光産業振興議員連(通称IR議連)に所属する国会議員によって,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(以下「本法案」という。)が,第189回通常国会に提出された。本法案は,現行刑法上,賭博罪に該当する行為として違法とされるカジノを合法化し,民間賭博を解禁しようとするものであり,先の国会で廃案となった法案にわずかな修正を加え,議員立法として再提出されたものである。
     本法案の今国会での成立は見送られる見通しであるが,そもそも本法案が成立することになると,刑事罰をもって賭博を禁止してきた立法趣旨が損なわれるとともに,数多の弊害がもたらされることが必至であることからして,本法案は到底容認できるものではない。
     よって,当連合会は,本法案に反対するとともに,同法案ないし同趣旨の法案が今後の国会に再提出されることにも強く反対するものである。
  2.  すなわち,カジノの解禁は,ギャンブル依存症の問題をさらに深刻化させるものである。
     平成25年7月に実施された厚生労働省の研究班の調査によれば,国際的な指標に照らし,我が国の成人人口の4.8パーセントが病的ギャンブラー(ギャンブル依存症)に当たるとされ,米国の1.8パーセント,香港の1.8パーセント,韓国の0.8パーセントと比較しても著しく高い水準である。これは,我が国には競馬,競輪,競艇等の公営ギャンブルのほかに,他国にない遊技場としてパチンコもあるなど,身近なところにギャンブルが存在することが要因となっていると考えられる。
     本法案で解禁しようとしているスロットマシンやテーブルゲームは,ゲームの速度や遊技頻度の多さから,ギャンブル依存症に陥る危険性が高いといわれており,我が国で合法とされている競馬等の公営ギャンブルと比較しても,病的ギャンブラーの発症率が著しく高いという海外の指摘もある。身近なところにギャンブルが存在する我が国において,危険性の高いカジノを解禁することになれば,さらなるギャンブル依存症の増加を招くことは必至である。
     一方,我が国においては,ギャンブル依存症患者に対する治療施設や相談機関の設置,社会的認知への取り組みなど,ギャンブル依存症に対する予防や治療体制は不十分な状況であって,こうした現状に鑑みると,ギャンブル依存症の問題をさらに拡大させるリスクの高いカジノを合法化する正当な理由は存在しないというべきである。
  3.  また,カジノの解禁は,社会問題となっていた多重債務問題の再燃につながる恐れがある。
     総量規制や金利規制を定めた平成18年の貸金業法の改正等の一連の対策によって,多重債務者が激減し,経済的に破綻する者,経済的理由によって自殺する者も減少するなど,多重債務問題は収束に向かいつつある。
     ところが,カジノの解禁は,これらの対策に逆行して,多重債務者を再び増やす結果をもたらすことが大いに危惧される。
  4.  さらに,ギャンブル依存症の拡大,多重債務者の増加のみならず,これに伴う家庭の崩壊や青少年の健全育成への悪影響,風俗環境の悪化,暴力団の介入やマネーロンダリングにカジノが利用されるおそれ等も懸念される。本法案では,これらの「有害な影響」を排除するために必要な処置を講ずるものとするとの条項があるが,その具体的な内容は何ら定めておらず,「有害な影響」が排除できるとする根拠も明らかにはなっていない。
  5.  加えて,本法案を推進する立場からは,カジノの解禁による経済的効果に期待をよせる声が挙げられているところ,その経済的効果についても,短絡的なプラス面のみが喧伝されているという問題もある。
     前記のとおり,カジノは我が国に存在する競馬等の公営ギャンブルと比較して,ギャンブル依存症の発症率が高いとの指摘がなされている。ギャンブル依存症患者が増加することによって,労働意欲の減退からくる生産性の喪失やこれに対応するための社会保障費の増加,依存症治療等の負担の増大など,国民経済にマイナスの影響が生じることは当然想定されるところ,これらの弊害から生じるマイナス面については,全くと言ってよいほど検証がなされていないのである。
     また,カジノが立地される地域においても,カジノが存在することによる治安の悪化,その対策にかかる費用,地域のイメージダウン等のマイナスの影響が生じるおそれがあるとともに,地域経済自体がカジノ依存体質に陥った場合には,カジノに伴う弊害を抑えるために対策が必要になった場合であっても,当該対策自体が立地地域の財政を脅かす行為として忌避されてしまうという嘆かわしい事態を招来するおそれもある。
  6.  なお,本法案では,日本に居住する者の入場について,悪影響防止の観点から必要な措置を講ずるとの項目が先の国会で廃案となった法案に付け加えられているが,暴力団等の反社会勢力を助長しかねない等の問題点は何ら解決されておらず,また,そもそも外国人客相手であれば,利益のために悪影響が及んでもよいとも考えられない。現実的に,日本に居住する者のみに入場規制を行うことが可能かどうかも極めて疑問である。
     また,そもそも,仮にこのような入場規制を立法当初に行ったとしても,多数の公営ギャンブルが経営上の理由で廃止されている中,カジノの経営が困難になれば,これを存続させるために入場規制を緩和,廃止する方向での検討がなされるであろうこと,またそれに伴い,暴力団等の反社会的勢力が直接的,間接的に関与してくるであろうことは容易に想像できることである。そのため,入場規制措置を設けるか否かという検討をしたところで,上記カジノの解禁に伴うリスク軽減にはつながらないのであって,そもそも入場規制の問題を論じること自体が不毛な議論と言わざるを得ない。
  7.  これらの点からすると,刑事罰を持って禁止されている賭博であるカジノの違法性を阻却するに足りる事由は見当たらないことに加え,カジノを解禁することは,深刻な社会問題を拡大させる可能性が濃厚である以上,本法案は到底容認できるものではない。
     既にギャンブル依存症が社会問題化している現状を野放しにしたまま,短期的な経済的効果に着目し,十分な検証,検討もないままに,最も危険性の高いカジノという民間賭博を解禁することは拙速極まりなく,まずは立法ありきというのは極めて危険な発想である。
     よって,当連合会は,本法案自体に反対するとともに,同法案ないしこれと同趣旨の法案が今後の国会で再提出されることにも強く反対する。

以上

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