医療における子どもの権利の保障の確立を求める宣言
医療を受ける子どもは,子どもであり,かつ,患者である。
子どもの権利条約は,最善の利益原則のもと,権利主体性及び成長発達権を中心とした子どもの権利を保障している。患者には,インフォームド・コンセント原則に代表される自己決定権が保障されるべきことは,当然のこととして受け入れられている。
ところが,医療を受ける子どもは,治療などを受けていることに伴い,年齢に応じた遊びを行うことができなかったり,教育を受ける機会が量的及び質的に不十分となったり,特に入院中の場合に家族や友人等との交流をはじめとする通常の社会生活を営むことが困難となったりするなど,主に成長発達権を中心とした子どもの権利保障が不十分となりがちである。また,子どもは理解力や判断力がないものとみなされて,自己の病気や医療について説明を受けられなかったり,自己の受ける医療の決定に関与できなかったりしがちである。
このように,医療を受ける子どもは,子どもの権利については患者という特性が,患者の権利については子どもという特性がそれぞれ負の要因として働き,そのどちらについても保障が不十分になりやすいという特徴がある。
我々は,医療を受ける子どもの特性に応じた「医療における子どもの権利」という視点を持つべきことを訴え,医療における子どもの権利〜成長発達権と自己決定権〜の保障の確立を求めて,以下のとおり提言し,国や地方公共団体,患者および家族,医療従事者などの関係者とともに,そのあり方を検討し,具体的な制度の整備に向けた活動に取り組む意志を表明し,ここに宣言する。
- 1 国及び地方公共団体は,医療を受ける子どもの特性,発達段階その他の状況に応じてその健やかな成長を図るために,成長発達に合わせた遊びやレクリエーションへの参加,家族や友人との交流,保育士や心理社会的な支援を行う専門家の配置など良好な療養環境を整備し,その他必要な配慮を行う責務を負い,そのために必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じること。
- 2 国及び地方公共団体は,医療を受ける子どもの教育を受ける権利を確実に保障するために,地域とのつながりの中でその能力を発展させるための一貫性と連続性のある教育を提供することを旨として,次の施策を実施すること。
(1) 学校内や通学における人的・物的支援を拡充すること。
(2) 病院に併設される病弱児特別支援学校又は病院内に設置され
る病弱児特別支援学級を整備するとともに,教員が病院を訪問して行う学習指導の質及び量を大幅に拡充し,医療を受ける子どもが病気等の状態により身体的又は精神的負担に堪えられない場合を除き,通常の教育課程と同程度の日数・時間数及び質が確保された教育を提供すること。
(3) 病院で教育を受けるにために学籍の異動を不要とする制度に改める等,教育機会を切れ目なく提供するために支障となる制度的な制約を解消すること。
(4) 上記(1)ないし(3)に加え,とりわけ入院している子どもが高等学校の課程に就学できる体制を直ちに整備すること。
- 3 入院している子どもに保育を受ける機会を保障するため,その責務として,国は病院内での保育を実施する制度を構築し,国及び地方公共団体はこれを実施すること。
- 4 医療を受ける子どもの人格と尊厳を守り,個人として尊重し,その意見表明権ないし自己決定権を保障するために,次のことを確認し又は施策を実施すること。
(1) 医療を受ける子どもは,自己の受ける医療行為について,年齢及び理解力,病気や医療行為の内容に従って,十分に分かりやすい,工夫された方法により説明を受け,自由な意思に基づき当該医療行為につき意見を表明することができ,その意見は相応に考慮されるべきこと。
(2) 医療を受ける子どもに説明を理解する能力と医療行為に同意するための判断能力が備わっているときは,子ども本人が医療行為に同意することを認め,インフォームド・コンセントは子ども本人を対象として行われる必要があること。
(3) 国及び地方公共団体は,医療を受ける子どもの主体的参加を保障するための措置を現実的に可能にする医療提供体制を確保する責務を負い,その責務を果たすための施策を実施すべきであること。
(4) 国は,医療行為に対する同意は,一定の年齢に達している未成年者によるものであれば,その者が成年に達している場合と同様の効力を有するものとする旨を法定するなど,医療行為に同意する能力のある子どもの自己決定権保障を担保するための方策を検討し,実施すること。
2016年(平成28年)9月9日
関東弁護士会連合会