関東弁護士会連合会は,国,福島県に対し,避難指示区域以外からの避難者に対する災害救助法に基づく応急仮設住宅(借り上げ住宅)の供与について,福島県が決定した2017年3月末で打ち切るという方針を撤回すること,並びに,避難者を受け入れている自治体に対して,各地の実情を踏まえ,区域外避難者の住宅供与支援を実施していくことをそれぞれ求める。
現在,福島県は,避難指示区域以外からの避難者(以下「区域外避難者」という。)に対する災害救助法に基づく応急仮設住宅(借り上げ住宅)の供与(以下「住宅供与支援」という。)については2017年3月末で打ち切る方針としている。
正確な統計は公表されていないものの,区域外避難者数は全国で3万人を超えると報道されており,仮に2017年3月末で住宅供与支援制度が打ち切られれば,その大多数の方々が,新たな経済的負担を余儀なくされ,避難を継続することが著しく困難となる。本年7月に関東弁護士会連合会が行った全国一斉電話相談に寄せられた相談をみても,住宅供与支援打ち切りの問題に関する相談が35%,避難費用に関する相談が32%に上り,避難者の多くの方々が避難を継続するための住宅供与支援及び避難費用について不安や悩みを抱えていることが明らかとなった。すなわち,上記電話相談においては,全国各地の様々な年代の避難者から,「住宅供与支援がなくなれば戻るしかないが,引っ越し費用の捻出も難しい」,「来年3月以降の生活の目処がまったく立てられない,そもそもどこに住むかが決まらない」,「子どもたちもやっと避難先に馴染んだのに,避難の継続ができないとなると,築いた人間関係や教育環境を再度奪うことになる」,「認知症の両親を抱えているが,また居住場所を変えると混乱することが確実である」といった切実な声が寄せられた。避難者の人生は,事故後5年半経過した現在においても,翻弄され続けている。
東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律(以下「子ども・被災者支援法」という。)は,放射性物質の健康影響について,科学的に十分解明されていないことから,避難という選択が十分に尊重されるべきものとしている(子ども・被災者支援法1条,2条)。福島県内の除染作業や,放射性物質の健康影響に対する科学的な解明は,いまだ十分とはいえず,住宅供与支援制度の中止は,同法の理念に悖り,避難者の自己決定権(憲法13条)を実質的に侵害するものであり,到底看過できない。
避難者は,好んで避難生活を継続しているわけではない。家族,友人等と離れ離れになり,住み慣れた土地から離れ,経済的な負担を負い,家族の健康を守る一心で避難を継続し,そして様々な困難を強いられているのである。
以上からすれば,区域外避難者に対する住宅供与支援は,本来的には国及び福島県が今後も主体となって継続して行うべき施策である。一方,子ども・被災者支援法の「他地域への移動を選択しても適切に支援」,「支援の必要性が継続する間の確実な支援の実施」という理念(子ども・被災者支援法1条,2条,8条,9条)を具体的に実現していくためには,避難者を受け入れている自治体(以下「受け入れ自治体」という。)においても,各地での避難者の生活実態といった実情を踏まえ,公営住宅への入居確保・提供や,住居費に関する補助といった支援策を講じることが極めて重要である。この点,福島県も各都道府県に対して,平成27年10月29日付け「応急仮設住宅の供与終了に伴う住宅確保等について(依頼)」文書において,受け入れ自治体における支援策を要請しているところでもある。
よって,当連合会は,国,福島県に対し,区域外避難者に対する避難先の住宅供与について,福島県が決定した2017年3月末で打ち切るという方針を撤回すること,並びに,受け入れ自治体に対して,各地の実情を踏まえ,区域外避難者の住宅供与支援を実施していくことをそれぞれ求める。
平成28年9月26日
関東弁護士会連合会
理事長 江藤 洋一