関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成28年度 声明

被収容者・外国人の裁判を受ける権利を奪い,人道上の問題がある強制送還の実施に改めて反対する意見書

2017年(平成29年)1月30日
関東弁護士会連合会

1 意見の趣旨

 関東弁護士会連合会は,被収容者・外国人の裁判を受ける権利を奪い,人道上の問題がある法務省入国管理局による強制送還の実施に改めて反対する。

2 意見の理由

  1. (1)チャーター機による強制送還の実施
     法務省入国管理局は,平成25年7月6日にフィリピン国籍者75名を,12月8日にタイ国籍者46名をチャーター機によって一斉強制送還した(平成25年7月9日及び同年12月10日の法務大臣閣議後記者会見の概要より)。当連合会は,平成26年1月16日付けで,チャーター機を利用した送還に反対する意見を表明した。
     しかし,法務省入国管理局は,平成26年12月18日にスリランカ国籍者26名とベトナム国籍者6名をチャーター機によって強制送還し(平成26年12月24日法務大臣閣議後記者会見の概要より),平成27年11月25日にバングラデシュ国籍者22名をチャーター機によって強制送還した(平成27年11月27日法務大臣閣議後記者会見の概要より)。
     これらのチャーター機を利用した強制送還につき,当連合会は,平成27年12月18日付けで,「被送還者の人権と尊厳を無視した強制送還実施に反対する意見書」を発し,チャーター機を利用した強制送還に反対する立場を明確に示した。
     このようななか,平成28年9月22日,法務省入国管理局は,スリランカ国籍者30名をチャーター機によって強制送還した。そのなかには日本での滞在が27年9か月にも及ぶ被送還者も含まれていた(平成28年9月27日法務大臣閣議後記者会見の概要及び各報道)。
     法務省入国管理局は,来年度の概算要求にチャーター機による送還費用を改めて計上しているうえ,法務大臣も平成28年9月27日閣議後記者会見において,今後も実施を継続するかのような発言をしている。
     したがって,今後も同様のチャーター機を利用した一斉強制送還が継続的に実施されるおそれがある。
     当連合会は,このような被送還者の個別事情を考慮しないまま一斉に強制送還を実施することは人権上多くの問題が含まれているとして反対してきたものであるが,今後の同様の方法による強制送還の実施の可能性を強く危惧し,改めて反対の意見を表明するものである。
  2. (2)裁判を受ける権利を実質的に奪う
     新聞報道やNGO団体による各声明等によれば,今回の送還にあたっても法務省入国管理局が送還した者のなかには難民申請中の者はいないとのことである。
     しかし,法務省によると,今回送還された30名のうち,22名が難民不認定処分後の異議申立て棄却又は却下処分の告知を受けてから,24時間以内に送還されたとのことである。
     難民申請をしている者は,送還後に生命等に危険が存在することを理由としているのであり,その判断が誤りであった場合には取り返しのつかない結果を招来することになる。だからこそ,難民の地位に関する条約33条1項及び拷問等禁止条約3条1項において,生命または自由が脅威にさらされるおそれのある領域の国境へ追放し又は送還してはならないというノン・ルフールマン原則が定められているのである。それゆえ,その判断は慎重のうえにも慎重を期すべきである。
     そして,難民不認定処分を受けた者は異議申立ができるが,異議棄却決定から6か月の間は,難民不認定処分が正しいものかを裁判所で判断してもらう難民不認定処分取消訴訟を提起できる権利(憲法32条)がある。裁判を受ける権利は国籍に関係なく認められる権利であり,在留資格を有しない者や難民不認定処分を受けた者も当然に有する権利である。その結果,裁判所において入国管理局の判断が覆されることもあるのである。
     さらに,難民であるためには「国籍国の外にいる者」(難民条約1条,出入国管理及び難民認定法2条)である必要があり,国籍国にいる者は「難民」に該当せず,難民不認定処分に対する裁判を提起しても取消を求める訴えの利益がないとされている(最高裁平成8年7月12日判決)。したがって,自らが難民であることを主張する者を強制送還することは,難民不認定処分に対する裁判を受ける権利という重要な権利を奪うことになる。
     この重要な権利を行使するためには,多くの場合弁護士と打合せをする必要があるが,不認定処分を受けて24時間以内に送還されてしまったのではそのような機会すらない。難民申請ないし異議申立(審査請求)手続の際に弁護士を代理人として選任していた場合には,不認定処分に対してどのような法的手段をとるのかということについて,自らの代理人と打合せをする必要性が非常に高く,弁護士を代理人としていなかった場合でも,裁判を提起するにあたって弁護士と相談する機会を与えることは裁判を受ける権利の重要性に鑑みるとその必要性は高いといえるし,不認定処分を契機として代理人弁護士に依頼することも想定されるのである。
     加えて,各報道によると,平成28年9月の時点で,平成26年にスリランカへチャーター機によって強制送還された被送還者が日本弁護士連合会に対して人権救済申立を行っていたうえ,同様にスリランカへチャーター機によって強制送還された被送還者が名古屋地方裁判所に国家賠償請求訴訟を提起しており,法務省入国管理局によるチャーター機による強制送還という方法の是非が問われている最中であったとのことである。
  3. (3)人道上の配慮を欠く
     先に述べたとおり,今回の強制送還時には,27年以上もの期間日本に滞在していた者が含まれていたとのことであるが,長期間日本に滞在していた者の生活基盤は日本にあり,母国に生活基盤はないのであるから,母国での生活は困難を極めることは明白である。このような者を強制送還することは,人道上の見地からも認めるべきではない。
  4. (4)なお,これらの問題点はチャーター機を使用した一斉強制送還に限られる問題ではなく,個別送還の際にも生じる問題であることから,法務省入国管理局には送還の際にはそれぞれの個別事情に十分な配慮を求める。
  5. (5)結論
    よって,当連合会は,このような被収容者・外国人の裁判を受ける権利を奪い,また,人道上の見地等からも問題がある強制送還の実施に強く反対する。

以上

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