「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下「カジノ解禁推進法」という。)が,平成28年12月15日,衆議院本会議で可決,成立した。
カジノ解禁推進法は,平成25年12月に国会に上程され,実質的な議論がなされないまま廃案となったものが,ごくわずかな修正を加えて平成27年4月に再度,国会に上程されたものである。その後,1年半以上もの間全く審議がなされないままであったところ,平成28年11月30日に突如として法案が審議されることとなり,国会での十分な審議を経る間もなくわずか2週間で可決,成立に至っている。
当連合会は,平成27年10月20日に発出した意見書にて,カジノ解禁推進法案に反対する意見を表明している。同意見書にて法案に反対する理由として指摘したのは,カジノの解禁によって,既に深刻化しているギャンブル依存の問題をさらに悪化させる危険性が高いこと,多重債務問題の再燃,暴力団等の反社会的勢力の資金源となることやマネー・ロンダリングのおそれを排除できないこと,カジノ解禁がもたらす経済的効果に関しても,短絡的なプラス面のみが喧伝され,ギャンブル依存症患者が増加すること等による生産性の喪失や社会的コストの増加については何ら検討がなされていないことなどである。
しかるに,カジノ解禁推進法においては,当連合会が指摘した多くの問題点や弊害に対する具体的かつ実効的な対策は何ら打ち出されておらず,そのため,カジノ解禁に伴う懸念は何ら払拭されてはいない。付帯決議においてギャンブル依存症対策などが盛り込まれてはいるものの,同対策はカジノ解禁を待つことなく取り組まなければならない喫緊の課題であって,同付帯決議の存在がカジノ解禁推進法を許容しうる根拠となるものではない。
カジノ解禁推進法は,現行刑法上,賭博罪に該当する違法な行為として刑罰の対象としてきたカジノを合法化し,民間による賭博を解禁しようとするものであって,我が国の刑事司法政策にとっても重大な政策の転換となるものである。各種世論調査においても,カジノ解禁に反対ないしは慎重であるべきという意見が多数であって,多くのメディアからも拙速なカジノ解禁に対する疑問が呈されてもいるところである。
重大な政策転換につながるカジノ解禁推進法について,国民のカジノに対する不安,懸念の声に背を向けた上,十分な審議を行うことなく短時間のうちに成立させたことはあまりに拙速にすぎる。このような事態は,国会が言論の府としての役割を事実上放棄したにも等しいというべきであって,カジノ解禁推進法はその審議の過程にも極めて問題がある。
以上のとおり,カジノ解禁推進法は,当連合会がかねてから指摘している問題点について何らの解決策も示していないことに加え,その成立に至る過程を見ても大いに疑問が残ると言わざるをえないものである。
よって,当連合会は,カジノ解禁推進法の成立に断固抗議し,同法の廃止を求める。
2017年(平成29年)2月17日
関東弁護士会連合会
理事長 江藤 洋一