関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成29年度 声明

改正「出入国管理及び難民認定法」における罰則の強化等の規定の廃止を求める理事長声明

第1 声明の趣旨

 当連合会は,2016年11月18日に第192回臨時国会において成立した出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律(以下「本法律」という。)において新設された罰則の強化等の規定の廃止を求める。

第2 声明の理由

  1. 1 当連合会は,本法律が成立する前の国会審議段階である2015年6月4日及び2016年10月20日,本法律による罰則の強化及び在留資格取消事由の拡大について反対する理事長声明を発表した。日本弁護士連合会及び各弁護士会においても同趣旨の意見書ないし会長声明等が発せられている。
     本法律は「偽りその他不正の手段により,上陸の許可等を受けて本邦に上陸し,又は第4章第2節の規定による許可を受けた者」につき,「3年以下の懲役若しくは禁固若しくは300万円以下の罰金に処し,又はその懲役若しくは禁固及び罰金を併科する」罰則規定を,また,上記の行為を営利目的で「実行を容易にした者」につき,「3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し,又はこれを併科する」罰則規定を新設するとともに,入管法「別表第一」の在留資格を有する外国人が,所定の「活動を行っておらず,かつ,他の活動を行い又は行おうとして在留している」場合も新たに在留資格取消事由としたものである。
  2. 2 本法律の問題点は,以下の点にある。
    1. (1)罰則規定の新設について
       罰則規定新設の必要性について,政府は,不法滞在者及び偽装滞在者の積極的な摘発,在留資格取消などを厳格に対応していくとともに,これらを助長する集団密航,旅券等の偽変造,偽装結婚等に係る各種犯罪等について,取締りを強化するとの方針を採用していることを挙げる。
       しかし,政府統計によると,不法滞在者数は,29万8646名(1993年5月1日時点)から,5万9061名(2014年1月1日時点)まで大幅に減少してきた。その後,6万2818名(2016年1月1日時点),6万5270人(2017年1月1日時点)と増加しているが,その増加率は僅かである。法務省は,その増加理由を「不法滞在者の小口化・分散化が進み,大規模な摘発が困難になり,退去強制手続を執った外国人の数の減少傾向が続いているため」と分析しているが,刑事罰の新設で「不法滞在者の小口化・分散化」が防げるわけはなく,そこに論理的な関係はない。
       そもそも,密航に対しては旧法,旅券等の偽変造及び偽装結婚等に対しては刑法の適用によってそれぞれ対処することが十分に可能であることから,罰則規定を新設するだけの立法事実は存在しない。
       また,庇護を求めて来日した者はやっと辿り着いた日本の空港で上陸を拒否され再び危険な本国への送還を恐れて観光のための来日と述べて「短期滞在」等の在留資格で上陸することがあるが,このことは庇護希望者の置かれた切実な状況からすると無理からぬところがあるにもかかわらず,このような形で入国した後に難民申請をした者が結果的に難民として認定されなかった場合に「偽り」により上陸したとされるおそれもある。
       加えて,「実行を容易にした」という構成要件は極めて曖昧であり,その適用の濫用により,入国在留関係手続の申請代理業務を行った弁護士や行政書士に対して,不当な捜査及び訴追が及ぶおそれがあることから,入管手続を補助し支援する全ての者にとって予測可能性に欠け,著しい萎縮効果をもたらすことになり,刑罰法規の明確性の原則にも反する。
    2. (2)在留資格取消事由の拡大について
       本法律は,所定の「活動を行っておらず,かつ,他の活動を行い又は行おうとして在留している」場合も在留資格取消事由とした。
       しかし,所定の活動を行っていない場合には,外国人の責めに帰すべき理由がなく「所定の活動を行えない」場合もあるうえ,場合によっては在留資格の変更のための活動をせざるを得ない場合もある。
       それにもかかわらず,本法律では在留資格の変更を検討するだけで,直ちに在留資格の取消しの対象となるおそれがあるのである。
       なお,本法律でも「正当な理由がある場合を除く」としているが,在留資格の更新,変更の許可判断自体が入管当局の裁量判断であるから,入管当局の判断によって恣意的に正当性が否定されるおそれがある。
       そもそも在留資格が予定する活動を行わない者に対しては,旧法においても対処することが十分に可能であったのであり,在留資格取消事由の拡大の必要性もない。
  3. 3 国会における附帯決議
     これらの問題点を踏まえて,第192回臨時国会では衆議院及び参議院において,罰則強化につき,「難民その他の者の庇護の国際的重要性に鑑み、日本に庇護を求めることを躊躇させないよう、留意すること。」「入国・在留手続の適正な支援業務に不当な介入が行われることがないよう、十分に留意すること。」,また,在留資格取消事由の拡大につき,「『正当な理由』を限定的に解釈するなど、恣意的な判断に基づき改正後の出入国管理及び難民認定法第22条の4第1項第5号が不当に適用されることがないよう、十分に留意すること。」等とする附帯決議がなされた。
     しかし,国会による決議といえども,いずれも入管当局の裁量によるところが大きく,前記2で指摘した問題点を払しょくするには至っていない。
     むしろ,この附帯決議は前記2の問題点に対する懸念を表明しているものといえ,本法律には前記2の問題点が存在することを示しているものといえる。
     そうであるならば,このような問題点をクリアできていない本法律の規定は速やかに廃止すべきである。
  4. 4 以上の理由により,当連合会は,本法律において新設された罰則の強化等の規定の廃止を求める。

2017年6月23日
関東弁護士会連合会
理事長 高木 光春

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