関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成30年度 大会宣言

地方公共団体に対して公文書管理法制の実効的な体制確立を求める宣言

 公文書は,「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として,主権者である国民が主体的に利用し得るもの」である(公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)1条)。のみならず,公文書の適正な管理は,行政が適正かつ効率的に運営されるために不可欠である。つまり,公文書の適正な管理は,民主主義の根幹にとって,また,その担い手である公務員にとってきわめて重要である。
 このような公文書の意義に照らし,2011年4月に施行された公文書管理法は,国の公文書管理のみならず地方公共団体における公文書管理の適正化を企図して,「地方公共団体は,この法律の趣旨にのっとり,その保有する文書の適正な管理に関して必要な施策を策定し,及びこれを実施するよう努めなければならない。」(34条)と定めた。ところが,現在でも,ほとんどの地方公共団体が内規で公文書の管理を定めるにとどまり,条例を制定している地方公共団体は全国で20程度しかない。
 公文書管理を内規ではなく条例化することの意義は,第1に,行政内部における公文書管理に関する恣意を排除し,行政事務の適正化効率化を客観的に担保することにある。第2に,そうすることにより,議会制民主主義がより効率的に機能することにある。第3に,これと並行して,住民の知る権利に適切に応えることができるようになることである。第4に,地方公共団体にとって歴史的に価値のある公文書を確実に後世に残すことができるようになることである。そして,第5に,文書保存のための複製や住民への提供などが著作権侵害にならないようにすることにある。
 このような公文書管理法制の条例化の意義の重要性を踏まえ,関東弁護士会連合会(以下「当連合会」という。)は,地方公共団体の公文書管理について以下のとおり宣言する。

  1. 1 公文書の適切な管理は,情報公開条例に基づく実効性のある公文書開示請求権を確保するために必要不可欠であるから,公文書管理条例が未制定の地方公共団体にあっては,すみやかに条例を制定すべきである。そして,条例化にあたっては,これまでに蓄積されてきた公文書の不適切な取り扱い事例の経験を踏まえ,不適切な取り扱いを防止する仕組みを取り入れるのが妥当である。
  2. 2 公文書管理条例を既に制定している地方公共団体においても,既存の公文書管理条例が,民主主義・知る権利を実現するために必要十分な制度になっているか,公文書の不適切な取り扱いを防止する内容になっているかを不断に検証し,必要に応じて条例改正を行うべきである。
  3. 3 情報技術の発達した現代情報社会においては,公文書の電子化を促進する必要があり,各地方公共団体は電子公文書化を促進する措置を実施し,デジタル・アーカイブの拡充を図るべきである。
  4. 4 公文書管理法制を実務的に支える物的・人的・組織的な基盤として,①公文書館等の機能を有する施設の設置・運用,②アーキビスト等の専門人材の配置・養成,③独立した専門家によって構成される公文書管理委員会等の第三者機関の設置がいずれも重要である。そのための充実した組織体制・物的体制の整備を行うとともに,公文書館法附則2条を廃止のうえ,未来への記録を引き継ぐ専門職の人材育成を行なっていくべきである。

 当連合会は,以上の宣言を実現するために,公文書管理や情報公開法制の研究・検討をテーマとする委員会が存在しない弁護士会において,その規模や実情に応じて,新たな委員会の設置若しくは既存委員会内における部会設置など,同テーマを継続的に取り扱うための措置を積極的に検討するよう求めていく所存である。

2018年(平成30年)9月28日
関東弁護士会連合会

提案理由

  1. 1 はじめに
     昨年来,自衛隊の南スーダン日報問題,森友学園問題,加計学園問題など,公文書の不適切な取り扱いを巡るニュースが相次いで生じている。これらはいずれも国レベルでの問題であり,国レベルでの公文書管理法制や運用の改善は,国の諸活動を現在及び将来の国民に対する説明責務を全うさせるために喫緊の課題である。しかしながら,国レベルでは,まがりなりにも公文書管理法という法律上のルールが2011年から施行されているのに対し,地方公共団体では,公文書管理法34条が,「地方公共団体は,この法律の趣旨にのっとり,その保有する文書の適正な管理に関して必要な施策を策定し,及びこれを実施するよう努めなければならない。」と定めているにもかかわらず,全国で20程度の地方公共団体(以下「自治体」という。)でしか条例は制定されていない(条例制定済みの自治体:北海道札幌市,北海道ニセコ町,秋田県秋田市,栃木県高根沢町,埼玉県志木市,東京都,東京都武蔵野市,神奈川県相模原市,神奈川県藤沢市,長野県小布施町,滋賀県草津市,大阪府大阪市,鳥取県,島根県,広島県安芸高田市,香川県,香川県高松市,香川県三豊市,熊本県,熊本県宇土市)。宣言本文冒頭に記載したとおり,公文書の適正な管理は,民主主義の根幹及び担い手である公務員自身にとってきわめて重要な意味を持つが,その理は,国家と国民のみならず,住民の生活にとって身近な自治体と住民との関係にも当然当てはまるから,自治体における公文書管理の適正化の確保は重要である。また,加計学園の問題に関連して愛媛県から公表された文書によって事実の一端が明らかになったように,自治体における公文書のありようは国レベルでの問題にも影響を及ぼすことがあるという観点からも,自治体の公文書管理の適正化は重要な意味を持つ。
     このことから,当連合会は,自治体の公文書管理の問題に着目したうえで,条例の制定が進まない原因を調査した。
     具体的には,複数の自治体で現地調査を行い,自治体担当者に対するヒアリング調査を実施したほか,公文書管理条例を制定している自治体と未制定の自治体を対象としてアンケート調査を実施し,公文書管理に関する課題について調査・研究を行った。こうした調査結果に基づき,当連合会は,本宣言をすべきとの結論に至った。
     各宣言の提案理由は,以下のとおりである。
  2. 2 宣言第1項
    1. (1) 条例化の必要性
       公文書管理法は,「国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が,健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として,主権者である国民が主体的に利用し得るものであること」を指摘したうえで,国民主権の理念にのっとり,「国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的」としている(同法1条)。この理は,人々にとってより身近な自治体に当然該当することであり,前述のとおり,同法は,自治体に対し,同法の趣旨にのっとった必要な施策の策定と実施を求めている。条文上は条例と明記されていないが,同法が歴史公文書等に対する利用請求権を付与している趣旨を反映して住民に利用請求権を付与するのが妥当であるし,その場合,その制限は,地方自治法14条2項により条例という法形式による必要がある。
       また,公文書の長期保存や住民に対する公文書の写しの提供のためには,文書の複製や交付が必要であり,対象公文書の中には著作権が存続している著作物が含まれている可能性がある。そのため,著作権法では,これらの行為が著作権侵害あるいは著作者人格権侵害にならないよう権利制限規定を設けているが,自治体については「条例」のみが権利制限の対象になるから(著作権法18条4項7,8号,42条の3ほか),内規である公文書管理規則では不十分である。
       このような法律上の必要性という観点に加えて,次のとおり,自治体と住民の相互理解,相互協力という観点からも条例化が適切である。
       現在,公文書管理条例を制定している自治体はごくわずかしかないが,今回,公文書管理条例制定自治体に対して行ったアンケート調査によれば,条例化をしたすべての自治体が,条例化には職員の意識付けの向上等のメリットがあったと回答している。また,公文書管理についての関心事として,「文書管理を効率化したい」,「後任の職員への引き継ぎを円滑にしたい」に次いで,「自治体の業務を住民その他の人々に関心を持ってもらい理解してもらうこと」という回答が多数であった。これは,自治体において,公文書管理の客観的合理性の重要性を主軸にしつつ,行政事務について住民からの理解を得る重要性を認識していることをうかがわせる。このことは,住民が自治体の行政事務を理解したうえで自治体行政に有意義な意見を提案し,自治体行政を活性化させる役割を果たす上で,自治体が保有する公文書の内容を知ることが不可欠であることと結び付いている。行政事務を巡る自治体と住民の相互理解,相互協力の重要性からすれば,住民が公文書にアクセスする機会を保障するために,情報公開条例の運用や情報提供を充実させるべく,その基盤となる公文書管理を条例化し,住民の公文書に対する利用請求権を明確化することが必要である。
    2. (2) 不適切な取り扱い事例を防止する制度にする必要
       公文書は,行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに,国及び独立行政法人の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責任が全うされるよう(公文書管理法1条),管理されなければならない。そして,このことは情報公開制度が適正に運用される上で不可欠な条件である。
       しかし,これまで国及び地方公共団体の情報公開に関する審査会が不服申立てを審査する中で,多くの事例で公文書管理上の問題が明らかになり,答申において付言としてその改善が指摘されてきた。
       答申の指摘として,例えば,次のようなものがある。
      • 議事録や意思決定過程に関する文書,公共財産の管理に関する文書等を,その重要性にかかわらず,「軽易なことがら」であるなどとして作成しない。
      • 行政文書として管理すべきものを,個人メモとして扱うことで開示に応じず,さらには適宜廃棄してしまう。
      • 保存期間の設定が不適切あるいは職員に徹底されていないために保存すべき文書が早期に廃棄される。
      • 公開の是非について係争中であるために保存が義務付けられているにもかかわらず廃棄されてしまい,公開が不可能になる。
       このように,国でも多くの自治体でも文書の不適切な取り扱いが繰り返されている。このような状況を改めるためには,適切な内容の公文書管理条例を制定し,それを適正に運用することが必要である。制度の適正な運用のためには,職員への制度の徹底,行政文書に対する職員の意識変革が必要である。
  3. 3 宣言第2項--条例制定済の自治体でも必要に応じて条例改正を行うべきこと
     公文書管理条例を制定済の自治体の数は少ないものの,それらの自治体では,条例が公文書管理の適正化に対して大きな効果を発揮してきた。
     各地の条例の内容は多岐にわたる。各自治体における情報公開条例の内容,合併などによる大量の行政文書の存否,自治体の規模の違いなどを反映して,条例の内容が異なるのは当然のことである。
     しかしながら,可及的に住民にとって重要な公文書が作成・保存・利用される仕組みとして,どのような仕組みがより妥当かを指摘することは可能である。
     例えば,知る権利を明記している条例も明記していない条例もあるが,住民が公文書にアクセスする機会を広く保障する観点からは,知る権利を明記することが必要である。
     対象となる文書の範囲については,自治体外の法人の文書まで含むかどうか,意思形成過程情報について作成義務を課しているか,作成がなされるべき範囲を具体的に定めているかなどの違いがある。住民にとって行政過程をより見えやすくする観点からは,公文書作成の範囲を広げ,意思形成過程が具体的に記録されるように明記することが必要である。
     現用文書の廃棄については,首長部局が廃棄判断に関与する条例とそうではない条例,公文書館・教育委員会・第三者機関・住民などが廃棄判断に関与する条例とそうではない条例がある。歴史公文書については,選別基準を具体的に定めている自治体とそうではない自治体がある。恣意的な廃棄判断を防ぎ,貴重な文書をできるだけ後世に残すようにする観点からは,公文書廃棄の選別基準を具体的に定めるとともに,その運用に専門性を持った組織を関与させることが必要である。
     利用請求を拒否できる理由についても条例によって違いがあるが,住民の知る権利を実質的に保障するためには,拒否できる範囲を限定的に定めることが必要である。
     条例を既に制定している自治体においても,公文書管理の不適切事例の経験を踏まえ,それを防止する仕組みを取り入れることが求められる。住民の知る権利を実質的に保障する公文書管理条例となるよう,条例や運用改正の不断の改正の努力を行うことが望まれる。
  4. 4 宣言第3項
    1. (1) 行政文書の電子化のメリット
       日本では,従来,文書といえば,紙に筆やペンで文字や図表などを書き記したものをもっぱら意味したが,近年の急速な情報通信技術の発達により,文書は電子的に作成されること(ボーンデジタル)が一般的になった。そして,電子的に作成された文書を紙に印刷して利用・保管するだけでなく,直接電子的に利用したり,電子的記録媒体に電子的に保存したりすることも可能になった。逆に,紙媒体でしか存在しない文書を,電子的に画像化し,記録媒体に保存することも可能になっている。
       今回行ったアンケート調査などにより,行政機関の事務処理という側面に着目した場合,行政機関で現に利用されている行政文書を電子化して管理することは,紙媒体での利用・保存と比較して,主に以下のようなメリットがあることが明らかとなった。
       第1に,保存スペースが削減でき,保管・保存に要するコストを低廉化できる。紙の文書に比べ,倉庫スペース等の保管量の制限から廃棄する必要は少なくなるため,歴史的に価値ある文書として本来後世に引き継がれるべき文書の廃棄を減らすことができる。
       第2に,過去の決裁文書の検索や複製が容易となり,迅速な情報共有文書の再利用が容易になるなどして,行政事務のコストを削減できる。
       第3に,電子文書は,適切な文書管理システムの導入と運用により,他者の目にも触れる形でシステムに保存され,廃棄までの操作を記録するなどして確実に管理できるようになるため,文書の改ざんを抑止することになるとともに,文書の散逸を防止することが可能となり,システム上で文書の変更や削除を制限し,記録することによりルールに沿った管理が推進されるようになる。
    2. (2) 電子化促進の必要性
       一方で,行政実務において,公文書の原本性の問題,セキュリティの確保,誤消去や誤書き換えによる復元の困難性,長期保存媒体と対応する読取装置の確保の問題,一覧性の悪さなど,公文書を電子化することによる懸念ないしデメリットも指摘されている。また,自治体によっては,人的資源の問題,費用の問題など,公文書の電子化のために超えなければならない壁も存在するであろう。
       しかし,上述した行政機関の事務処理面から見た行政文書の電子化のメリットは,住民の行政に対する信頼を確保するという意味でも大きなメリットをもたらす。行政文書が,適切な決裁手順を踏まず,保存の過程で滅失・散逸したり,不都合な文書が不適切に廃棄されるということでは,公文書管理の目的である現在及び将来の住民に対する説明責任(公文書管理法1条参照)を全うすることはできない。こうした事態が万一生じた場合には,住民の行政に対する信頼が大きく損なわれる。翻って,紙媒体よりも検索が容易な電子媒体を利用することは,行政文書の検索・共有・蓄積が容易となり,住民への情報提供や情報公開請求へのより適切な対応を可能とし,住民の行政に対する信頼の増大につながるのである。
       このように,電子化には懸念ないしデメリットもあるものの,技術的な対応や運用の工夫によって克服できるものもあることに加え,行政機関における事務処理上の観点のみならず,住民の行政に対する信頼確保の観点からもメリットは大きいから,行政文書を電子的に作成・利用・保管し,さらには歴史的公文書として電子的に後世に引き継ぐことが技術的に可能となった現在,公文書の電子化がさらに促進される必要がある。
       自治体においては,電子媒体の管理・保存のために優先的に人的物的資源を投資し,早期に行政文書の電子化を促進する措置を講じるとともに,デジタル・アーカイブの拡充をも図るべきである。
  5. 5 宣言第4項
    1. (1) 各種基盤整備の必要性
       自治体で現に使用する行政文書が適正に作成・利用・保存され,現用を終えた時点で,歴史的に価値ある文書はさらに適正に保存され続けることが,公文書管理のあるべき姿である。今回のアンケート調査でも,自治体の行政事務の中には後世に残すべき歴史的文書が存在するほか,行政文書以外にも後世に残すべき歴史的文書が存在することが窺われた。これらが確実に後世に引き継がれるならば,現在の住民の自治体に対する信頼を確保できるだけでなく,将来の住民やそれ以外の人々が,その自治体の過去を振り返って多くのことを学ぶことが可能となり,かけがえのない遺産になるはずである。
       しかし,いうまでもなく,公文書を作成・管理・保存するのは,権限を持って,これを担当する人である。どれだけ素晴らしい内容の公文書管理法制が構築されたとしても,ひとたび誤った取り扱いが行われてしまえば,公文書管理法制は,絵に描いた餅となってしまう。したがって,適切な公文書管理を担保する物的・人的・組織的な基盤が必須である。そして,こうした担保措置は,種々考えられるが,特に重要なものとして当連合会が着目したのが,①公文書館(文書館)等の機能を有する施設の設置・運用,②アーキビストやレコードマネージャーといった専門人材の配置・養成,③独立した専門家によって構成される公文書管理委員会等の第三者機関の設置である。しかしながら,今回のアンケート調査においては,こうした基盤の整備が,ほとんどの自治体で進んでいない実情が明確になった。
    2. (2) 基盤整備の具体的方針
       第1に,歴史的に価値ある公文書を適正に保管し,住民の利用に供するための施設として,公文書館またはこれと同様の機能を有する施設を設置し,その機能を拡充すべきである。図書館等の施設とは異なり,現在でも,公文書館を有する自治体はごくわずかにとどまる。また,民間所在文書を含めた歴史史料に関する収集・保存・公開や,自治体における年史編纂により収集された資料の保存・公開等においては,一定の活用がなされているものの,自治体内において日々発生する膨大な量の文書の移管・選別・保存,そしてそれらを住民に対して公開する,との点においては,公文書館等を設置済みの自治体にあっても,その取り組みは不十分な点が多いように思われる。公文書館の機能は,必ずしも単一の施設で担わなければならないことはなく,実際に保管や選別のスペースと文書の公開を行うスペースとを別に設けている自治体も一定数存在している。また,都道府県が主導して複数の自治体で共通の施設を利用している例もある。施設未設置,あるいは機能が不十分な自治体にあっては,先進的な取り組みを行う自治体等を参考に,公文書館機能を拡充していくことが求められる。
       第2に,現用文書管理の専門家であるレコードマネージャーや,現用を終えた公文書の収集,保存,利用に関する専門家であるアーキビストを,自治体内にて配置・養成すべきである。これらの専門家は,日々膨大な量の文書が作成・収受され,他方で文書の保管スペースには限りがあるといった自治体の実態を踏まえつつ,高度な専門性と倫理観をもって恣意を廃し,迅速かつ適正に文書を選別,保管し,これを住民に公開することが可能となる。先進的な自治体にあっても,独立にこのような専門家を採用している例は少ないが,複数の自治体で協力して共通の専門家に業務を依頼することも考えられるし,近年では,国内においてもアーカイブス学の専攻課程が設置された大学機関も存在しており,専門家を積極的に採用していくことが,公文書管理をより実りあるものとする一助となると考えられる。また,外部からの人材登用が難しい自治体では,職員に対し,関係する各種の研修等への参加を促したり,当該部署への長期配属を認める等の措置を講じたりすることで,長期的には専門性を高めることを検討すべきである。なお,当分の間,公文書館に専門職員を置かないことができると定めた公文書館法附則2条を廃止し,未来への記録を引き継ぐアーキビストの配置を推進すべきである。
       第3に,国の行政機関においては,公文書管理委員会を設置し,外部有識者や専門家の知見を活用した公文書管理体制を確立している。自治体においても,首長等の専断による公文書等の管理がなされることを避けるために,外部機関によるチェックを受けて,適正な公文書管理の実効性を確保することが必須である。したがって,専門的な知見を有する有識者により構成される,国の公文書管理委員会に類する第三者的機関を設置したうえ,公文書管理の各場面において積極的関与を求めるべきである。今回のアンケート調査においても,そのような取り組みを実施する先進的な自治体の存在が明らかとなっている。取り組みの程度は様々であるが,第三者機関に各種規則・基準等の策定・改廃,文書の選別や廃棄の決定等の少なくとも一部に関与させることを選択している自治体が存在しており,公文書管理の適正及び実効性確保の観点からは,それぞれ有効と考えられる。そもそも,何を歴史的文書として後世に残すべきかという最も基本的な問題を判断する部署が,自治体によって教育委員会であったり総務課(部)であったりと区々であるが,専門性の高い第三者によって構成される機関が関与することで,このような問題についても一定の是正が図れると考えられる。
       なお,現実的な取り組みとしては,例えば,情報公開制度におけるチェック機関である審査会の権限を見直し,公文書管理についてより積極的に意見を述べられるようにする,審査会の意見に対する実施機関の応答を義務付ける,あるいは審査会が公文書管理委員会等へ問題事例を報告するなど連携が出来る仕組みを作ることなども考えられる。
  6. 6 おわりに―
     提案理由の冒頭に記載したとおり,昨年来,自衛隊の南スーダン日報問題,森友学園問題,加計学園問題など,公文書の不適切な取り扱いを巡るニュースが相次ぎ,社会の注目を集めている。公文書の適正な管理の確保は,民主主義の根幹にかかわる重大な問題であり,この問題は,一時的に注目を浴びるだけでは不十分であって,長期的・継続的な取り組みや検討が重要である。また,適切な制度設計や運用を確保するためには,各地の情報公開及び公文書管理に関する審議会や審査会の権限を拡大し,委員の専門性を高めることも重要である。
     この点,弁護士会がこの問題に継続的に取り組み,審議会や審査会委員との連携にも努めることが重要な意義を有すると考えられる。現在,当連合会管内で公文書管理や情報公開をテーマとする委員会を有するのは,第二東京弁護士会及び神奈川県弁護士会に限られている。当連合会としては,他の弁護士会に対しても委員会設置など同テーマを継続的に取り扱うための措置を積極的に検討するよう求めていく所存である。

以上

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