関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成30年度 大会決議

旧優生保護法による被害者への謝罪及び補償を求める決議

 旧優生保護法は,1948年(昭和23年),「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに,母性の生命健康を保護すること」を目的として制定された。そして,この法律は,「遺伝性精神病」,「遺伝性精神薄弱」,「遺伝性身体疾患」等を有している者や「癩疾患」(ハンセン病)に罹っている者たちを,強制的な優生手術や中絶手術の対象とした。その後にはさらに,遺伝性ではなくとも「精神病又は精神薄弱」に罹っている者に対する優生手術が可能となる改正がなされた。優生手術とは,精管や卵管を結紮,あるいは切除等することによって,生殖を不能とする手術である。
 旧優生保護法の本質は,遺伝性疾患,精神障がい,ハンセン病等を有する人たちは社会の害悪であって,存在すべきではないという価値判断を国家意思として突き付けたことにある。このことは,対象者の自己決定権(憲法13条)及び個人が子どもを産むか産まないか,いつ産むか,何人産むかを決定する,いわゆるリプロダクティブ・ヘルス/ライツを侵害するものであり,また日本国憲法14条の定める法の下の平等に反することが明らかである。またこのような悪法が公共の福祉の名の下に行われ,優生政策を国家的政策として推し進めてきたことには驚きを禁じ得ない。
 国は,優生手術の際に身体拘束などの強制手段を使うことや欺罔手段まで認めていた。このような非人道的な法律により,差別を受け,存在すべきではないと価値判断された人たちの苦痛は,想像に絶するものがある。

 被害者たちはこれまで,このような不合理な差別的扱いに対して国に謝罪と補償を求めてきたが,これに対する国の反応は,当時は適法だったとの一点張りであった。
 当連合会は,国に対し,旧優生保護法に基づいて実施された優生手術及び強制的中絶手術の被害者に対し,早急に謝罪し,被害を補償することを求めるものである。
 以上,決議する。

2018年(平成30年)9月28日
関東弁護士会連合会

提案理由

  1. 1 旧優生保護法の思想の根本にあるのは,特定の疾患や障がいを有していることを理由に,その人を不良であるとみなし,そのような者は存在するべきではないという価値判断であって,このような考え方は一般的に優生思想と言われているが,この思想は歴史的にみると,国家の人口政策や民族浄化というように様々な考え方に基づいていた。日本でも,第二次世界大戦での敗戦により,領土や資源の喪失と人口の急激な増加傾向があり,これに早急に対処する必要性があった。このような状況の中で,「優秀な富裕層は避妊などをしっかり行い人口増加が抑制されるのに対して,劣悪な貧困層は際限なく子孫を増やしていく結果,民族の資質が次第に劣化していく。」というようないわゆる「逆淘汰」の考え方が叫ばれ,この言説に押される形で議員立法により旧優生保護法が法律化されたのである。
     旧優生保護法は1996年(平成8年)に母体保護法に改正され,優生思想に基づく部分は姿を消した。しかし,1949年(昭和24年)から1996年(平成8年)までの間,「衛生年報」及び「優生保護統計報告」によれば,本人の同意によらない不妊手術は16,475件,ハンセン病によるものを含む同意による不妊手術は8,516件,合計24,991件,人工妊娠中絶も入れると83,963件に及ぶと言われている。
  2. 2 そもそも,子どもを産むか産まないかは人間としての生き方の根本にかかわる事項であって,そのことを自由な意思によって決定することは,幸福追求権の一環である自己決定権として,日本国憲法13条により保障されることは明らかである。
     また生殖能力を持ち,子どもを産むか産まないか,いつ産むか,何人産むかを決定することは,いわゆるリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康・権利)として,全ての個人とカップルに保障される自然権的な権利である。
     旧優生保護法下において行われていた優生手術,人工妊娠中絶は,対象者の自己決定権及びリプロダクティブ・ヘルス/ライツを侵害するものである。
     なお,旧優生保護法に基づく優生手術・中絶手術には,「同意」を要件とするものもあるが,例えば手術を受けることに同意することを条件として結婚を認めてもらうなど,対象者たちはほぼその自由意思を抑圧され,とても自由な意思をもって同意できるような状況ではなかったと言われている。このような抑圧された「同意」による不妊手術・中絶手術は,やはり対象者の自己決定権及びリプロダクティブ・ヘルス/ライツを侵害するものであると言わざるを得ず,到底許されるものではない。
  3. 3 加えて,言うまでもなく,人はすべて法の下に平等に扱われ,合理的理由なしに異なる扱いを受けるいわれはなく,このことは日本国憲法14条において法の下の平等として保障されている。したがって,その人に障がいがあるかないかで「不良」とのレッテルを貼られ,意に反する手術を強要されるなどと言うことは,法の下の平等からは許されるはずがない。
  4. 4 日本弁護士連合会は,2017年(平成29年)2月16日,「旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術及び人工妊娠中絶に対する補償等の適切な措置を求める意見書」を発出した。
     しかし,国は未だ被害者たちに対する謝罪も補償も行っていない。
     海外の状況を見ると,スウェーデン政府は1997年に調査委員会を設置し,1999年には,被害への謝罪として「不妊手術患者への補償に関する法律」が制定され,1人当たり約200万円の補償がされたと言われている。ドイツでも,1988年にはナチスの法律による強制不妊手術被害者への国家による責任の引き受けと補償が開始された。
     一方,国際機関と日本政府との関係では,1998年(平成10年)に開催された自由権規約委員会では,日本政府に対する被害者への補償が勧告されたが,日本政府は当時適法だったから補償の必要はないとの見解を示している。その後も日本は自由権規約委員会から度重なる勧告を受けていながら,その態度を変えなかった。
     このような中で,日本の旧優生保護法被害者たちは,国に対して謝罪と補償を求めてきたが,今般,2018年(平成30年)1月,宮城県の被害者が国を相手に損害賠償を求める訴えを提起し,同年5月,北海道,宮城県,東京都の被害者らが国を相手に一斉提訴した。
     日本政府は,2014年(平成26年),障害者権利条約を批准した。この条約では締約国に対し,障がいによる差別は固く禁じられ,障がい者固有の尊厳(インテグリティー)を尊重するべきこととされている。日本の旧優生保護法による被害は国際的潮流からも看過され得ないものであり,同条約の趣旨からすれば,たとえ批准前に旧優生保護法が母体保護法に改正されているとしても,被害者に対して謝罪及び補償をすることは,国の責務であるというべきである。
     したがって,当連合会は,日本国政府に対し,日本国憲法に反しかつ国際的に問題となっている旧優生保護法による優生手術及び中絶手術の被害者に対し,早急に謝罪し,補償すべきことを求めるものである。

以上

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