関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成30年度 大会決議

東京高等裁判所管内の家庭裁判所の人的・物的体制の更なる充実強化を求める決議

  1. 1 最高裁判所は,
    1. (1)管内の家庭裁判所の本庁・支部・出張所の裁判官,調査官,書記官を大幅に増員すべきである。
    2. (2)東京高等裁判所管内の市町村において,司法を含む権利擁護支援の地域連携ネットワークを構築し,機能できるようにするために,必要とされる地域に家庭裁判所の支部または出張所を設置すべきである。
    3. (3)市町村が,地域に根ざした成年後見制度の利用促進に関する施策についての基本的な計画を定めるにあたり必要な情報を提供するように努めるべきである。
  2. 2 国は,成年後見制度利用促進基本計画が定める5年の工程表の終期である2021年度までに,市町村が成年後見制度利用促進の事業の成果を上げることができるよう,その事業に必要で利用しやすい財政措置を十分に講じるべきである。
  3. 3 すべての市町村は,司法を含む権利擁護支援の地域連携ネットワークを速やかに整備しその中核となる機関を構築し,成年後見制度利用促進のための基本的な計画を作成するとともに,必要な人が成年後見制度を利用できるよう成年後見制度利用支援事業や市町村長申立を活用し,併せて市民後見人の育成にも力を注ぐべきである。
  4. 4 都道府県は,市町村の区域を越えた広域的な見地から,市町村における成年後見制度利用促進の事業が国の事業を活用した形で行われるよう連携し,他方で,市町村の実情を踏まえてより利用しやすい支援・助成が制度の上でも額の上でも十分行われるよう国に要望し,家庭裁判所とも連携するなど成年後見制度の利用促進に主導的役割を果たすべきである。
  5. 5 国は,1項の諸施策のために必要な財政上の措置を速やかに講じるべきである。
  6. 6 当連合会は,成年後見制度の利用の促進に関する法律及び2017年(平成29年)3月24日に閣議決定された成年後見制度利用促進基本計画を会内に周知するとともに,家庭裁判所,関係行政機関及び地方公共団体並びに成年後見人等,成年後見等実施機関及び成年後見関連事業者の相互の緊密な連携を確保するため,成年後見制度の利用に関する指針の策定その他の必要な措置を講ずることについて,その環境整備に努めるものとする。

2018年(平成30年)9月28日
関東弁護士会連合会

提案理由

  1. 第1 高齢社会と成年後見制度の利用促進の意義
    1. 1 内閣府が公表している高齢社会白書の平成29年版によると,65歳以上の高齢者は3459万人であり,総人口1億2693万人(2016年(平成28年)10月1日現在)に占める割合(高齢化率)は27.3%である。WHOによると,高齢化率7%を超えると高齢化社会,14%を超えると高齢社会,21%を超えると超高齢社会というが,世界で最も高齢化率が高いのがわが国である。また,高齢化の速度を比較すると,わが国が高齢化率7%を超えた1970年(昭和45年)から,14%を超えた1994年(平成6年)まで24年であるが,ドイツ40年,イギリス46年,アメリカ72年,フランス115年である。わが国の高齢化率の進行は世界的に見ても異例の速さである。
    2. 2 高齢社会白書の平成28年版によると,65歳以上の高齢者の認知症患者数は,2012年(平成24年)に462万人(約15%)であったが,2025年には約700万人(約20%)に増加すると推計している。成年後見制度の利用の必要性が高まっていくことは明らかである。その意味で成年後見制度の利用促進は,わが国の喫緊の要請である。
  2. 第2 成年後見制度利用促進法の意義
    1. 1 2016年(平成28年)4月,成年後見制度の利用の促進に関する法律(以下「利用促進法」という。)が議員立法により成立した(同年5月13日施行)。この法律は,認知症,知的障がいその他の精神上の障がいがあることにより財産の管理または日常生活等に支障のある者を社会全体で支えあうことが,高齢社会における喫緊の課題であり,成年後見制度がこれらの者を支える重要な手段であるにもかかわらず十分に利用されていないことに鑑み,成年後見制度の利用の促進について,その基本理念を定め,国の責務等を明らかにし,基本方針等を定めるとともに,成年後見制度の利用促進に関する施策を総合的・計画的に推進することを目的としている(1条)。わが国が当面する喫緊の課題に理想を掲げて立ち向かおうとする法律であり,高齢社会のわが国の在り方を定め,財政措置も定めている点で基本法であると言える。
    2. 2 同法11条は,柱書きにおいて,成年後見制度の利用者が利用のメリットを実感できるような制度とするための検討を加え,必要な措置や見直しを行うとするとして成年後見制度の利用促進に関する施策の基本方針を11掲げている。例えば,市町村長による後見,保佐,補助開始の審判の請求の積極的な活用(7号),地域において成年後見人等となる人材を確保するため,成年後見人等またはその候補者に対する研修の機会の確保等,成年後見人等に対する報酬の支払いの助成等(8号),家庭裁判所・関係行政機関及び地方公共団体における必要な人的体制の整備等(10号)を定めている。
    3. 3 注目すべきは,利用促進法が,「家庭裁判所の・・・人的体制の整備」と定めている(11条10号)ことである。裁判所の体制整備を法律で明記するのは異例である上,基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上または財政上の措置その他の措置を速やかに講じなければならないと定めている(9条)ことも異例である。これまで,最高裁判所は,裁判所予算の増額に消極であったが,利用促進法は,家庭裁判所の体制整備に財政支出をすることを規定した。
  3. 第3 閣議決定された基本計画の意義
    1. 1 成年後見制度利用促進基本計画(以下「基本計画」という。)は,全国どの地域に住んでいても,成年後見制度の利用が必要な人が制度を利用できるよう地域における体制を構築することを繰り返し語っている(4頁,18頁,20頁)。資産を持った対象者だけではなく,生活保護受給者を含む低所得者等で,成年後見制度の利用が必要である高齢者・障がい者についても,支援事業の更なる活用も図りつつ,後見等開始の審判の請求が適切に行われるべきだとしている(14頁)。
       地方での人口減少が進む中で出てきた中枢拠点都市構想やコンパクトシティ構想とは違って,超高齢社会のわが国が進むべき理想を掲げるものである。
    2. 2 基本計画は,そのために各地域において,権利擁護支援の地域連携ネットワークを構築することを提起している。当面は専門職団体や関係団体が連携体制を強化するために協議会等を設立し,さらに,協議会等の事務局など,権利擁護支援の地域連携ネットワークのコーディネートを担う中核機関の設置に向けて取り組む(5頁,11頁,16頁)としている。
    3. 3 基本計画が提起する地域連携ネットワークは,従来の保健・医療・福祉の連携だけでなく,新たに司法も含めた連携の仕組み(権利擁護支援の地域連携ネットワーク)であることに眼目がある(9から10頁,12頁)。
    4. 4 基本計画は,弁護士会,司法書士会,社会福祉士会等の専門職団体に,市町村と協力し,地域連携ネットワーク(協議会等)の中心的な担い手として,設立準備段階から積極的に関与することを期待している(17頁)。
    5. 5 基本計画は,市町村が中核機関を設置することが望ましいとし,市町村が直営するか,中立性・公平性に留意しつつ,社会福祉協議会,NPO法人,公益法人等継続的に対応する能力を有する法人に委託する(17頁)としている。
    6. 6 利用促進法に基づいて設置された有識者による成年後見制度利用促進委員会(以下「利用促進委員会」という。)は,2017年(平成29年)1月13日付「基本計画に盛り込むべき事項」(意見)において,「裁判所の人的・物的体制の更なる充実強化が望まれる」と書いているが(23頁),家庭裁判所の「人的体制」とは裁判官,調査官,書記官等の増員を意味し,「物的体制」とは裁判所の庁舎の新築増築のみならず,家庭裁判所支部や出張所の新設や取り扱う事件の種類等の拡充も含むと考えられる。利用促進委員会は,成年後見制度の利用を促進するために,利用促進法の規定を進めた。ところが,利用促進委員会の意見での上記表現が,基本計画では「裁判所の必要な体制整備が望まれる」に変更された。しかし,同年3月31日の衆議院法務委員会での質疑で,内閣府の政府参考人は,「事務方としては文言の整理にとどまるものと考えてございまして」と答弁しており,基本計画は「裁判所の人的・物的体制の更なる充実強化が望まれる」と言う点についての変更はないものとして今後の取り組みをすべきである。
    7. 7 基本計画は,家庭裁判所について述べる場合,「(本庁・支部・出張所)」と括弧書きしている(22頁,23頁)。人的体制の充実強化といった場合,家庭裁判所本庁だけではなく,支部や出張所の裁判官,調査官,書記官等の職員の増員を意味するし,物的体制の充実強化といった場合,新たな家庭裁判所の本庁,支部や出張所の新設とそこでの人的体制の強化を意味する。
    8. 8 厚生労働省は,2017年度(平成29年度)の老人保健健康増進等事業として,中核機関の設置等の業務がスムースに進むよう,「地域における成年後見制度利用促進に向けた体制整備のための手引き」を作成し,2018年(平成30年)3月から自治体に配布している。
    9. 9 基本計画は5年の工程表を掲げている。2018年度(平成30年度)は2年目であり,来年は,中間年度の評価が行われる。理想を掲げて成年後見制度の利用促進を5年試みたが成果が上がらない場合,高齢社会にどう立ち向かうかについて,別の議論が出てくる可能性もある。わが国が当面する高齢社会は,人口減少時代と同時進行であり,全国どの地域に住んでいても必要な人が成年後見制度を利用できる体制を作るとの理想をどこまで掲げ続けることができるのか,という問いかけが工程表の終期が近づくにつれて大きくなる可能性もある。それだけに,2021年度までの4年間は重要である。
  4. 第4 決議第1項について
    1. 1 閣議決定された基本計画は,全国どの地域に住んでいても成年後見制度の利用が必要な人が制度を利用できるようにするという観点を強調している(4頁,18頁,20頁)。
    2. 2 基本計画9頁は,各地域において,「従来の保健・医療・福祉の連携(医療・福祉につながる仕組み)だけでなく,新たに,司法も含めた連携の仕組み(権利擁護支援の地域連携ネットワーク)を構築する必要がある」と指摘している。
    3. 3 この間,全国的に,家庭裁判所の家事調停事件,審判事件は,増加しており,すでに現在の人的体制でも繁忙を極めているが,相続関係や成年後見制度申立事件の増加が引き続き見込まれる他,成年後見制度の利用促進に向けた司法を含む権利擁護支援の地域連携ネットワークを構築するための業務が加わるのだから,家庭裁判所の裁判官,調査官,書記官を大幅に増員すべきである。2018年(平成30年)3月30日の衆議院法務委員会の質疑においては,過去9年にわたり家庭裁判所調査官の増員がされていないことが明らかになったが,きわめて遺憾なことであり,最高裁判所は,早々に家庭裁判所調査官の増員に取り組むべきである。
       また,家庭裁判所の裁判官の増員に向けて,弁護士会は,この分野に経験が豊かでかつ人望のある弁護士を家庭裁判所に任官させることの検討をすべきである。最高裁判所は,成年後見制度に関わる弁護士の任官について最高裁判所規則の制定等の検討をすべきである。
    4. 4 司法を含む権利擁護支援の地域連携ネットワークを構築するためには,現状よりも大幅な家庭裁判所本庁・支部・出張所の人的・物的体制の更なる充実強化が必要である。前記第3.7のとおり,基本計画は,家庭裁判所との「連携」や「体制整備」と言うとき「本庁・支部・出張所」と書き分けている。家庭裁判所の「体制整備」のためには,例えば,千葉家庭裁判所市川出張所は支部にすべきであるし,藤沢簡易裁判所,厚木簡易裁判所,銚子簡易裁判所,東金簡易裁判所に家庭裁判所出張所を併設すべきである。
    5. 5 家庭裁判所の物的体制の充実という場合,高齢者や障がい者の安心な利用のためにはエレベーターの設置やバリアフリー化が必要である。ところが,裁判所支部や家庭裁判所出張所の庁舎の多くにはエレベーター等が整備されていない。
    6. 6 基本計画は,市町村に対し権利擁護支援の地域連携ネットワークの構築,なかでも中核機関の設立に取り組むように促すとともに,家庭裁判所の人的・物的体制の整備を求めているが,二つの事業は直ちに,並行して同時に進めるべきである。家庭裁判所の整備は,事件数が更に増えてからすればよいという意見もあるが,家庭裁判所の繁忙はすでに顕著であり,後回しにしてよいとは言えない。そのことは,後述する2011年(平成23年)の当連合会の定期弁護士大会決議がすでに述べた通りである。
    7. 7 利用促進法23条1項は,市町村の講ずる措置として,当該市町村の区域における成年後見制度の利用促進に関する施策についての基本的な計画を定めることを促している。これを受けて市町村が成年後見制度利用促進のための基本的な計画を作成しようとするにあたり,現状でどれだけ成年後見人,保佐,補助の事件数があるか,親族後見人,専門職後見人の数がどれくらいか等,現在最高裁判所事務総局家庭局が作成している「成年後見関係事件の概況」の内容程度の情報を地域に即して知ろうとすることは当然のことである。家庭裁判所は,そのような求めが市町村からあった場合,適切な情報提供をすべきである。
  5. 第5 決議第2項について
    1. 1 基本計画は,全国どの地域に住んでいても成年後見制度の利用が必要な人が制度を利用できるようにする観点から,地域支援事業及び地域生活支援事業として各市町村で行われている成年後見制度利用支援事業を実施していない市町村に,実施を促している(20頁)。成年後見制度利用支援事業は,市町村長申立に限らず,本人申立,親族申立の場合にも対象にできるし,補助・保佐類型にも助成ができるとしている。2018年度(平成30年度)の地域支援事業交付金は1988億円の予算を組んだとのことであるが,利用促進がまだ緒に就いたばかりのこの予算規模では,全国の市町村で利用促進が進めば,到底足りない。
    2. 2 利用促進法11条7号は,「成年後見制度の利用に係る地域住民の需要に的確に対応するため,地域における成年後見制度の利用に係る需要の把握,地域住民に対する必要な情報の提供,相談の実施及び助言,市町村長による後見開始,保佐開始又は補助開始の審判の請求の積極的な活用」を促している。市区町村長申立の件数は,2014年(平成26年)5592件(全体の16.36%),2015年(平成27年)5993件(同17.31%),2016年(平成28年)6466件(同18.8%),2017年(平成29年)7037件(同19.83%)を占めており,件数,割合ともに毎年増えている。しかし,認知症高齢者の人口に照らせば,現状はあまりにも少ない。加えて市町村長申立に消極的な市町村も少なくないが,今後,市町村長申立の活用が進めば,申立や報酬への助成が必要とされ,予算の大幅な増額が必要となる。
    3. 3 利用促進法11条8号は,地域において成年後見人等となる人材(以下「市民後見人」という。)を確保するため,研修の機会の確保等を促している。すでに,多くの市町村が,市民後見人の育成に取り組んでいるが,いまだ取り組んでいない市町村や受任に至っていない市町村も少なくない。これらの事業を企画立案,実行するためには,予算の増額が必要である。
    4. 4 利用促進法9条は,同法11条による施策を実施するために必要な財政上の措置その他の措置を速やかに講じなければならないと定めている。中核機関の設置,基本計画の作成,市町村長申立費用と報酬の助成及び市民後見人育成費用の助成に必要な国の予算を大幅に増額すべきである。
    5. 5 市町村長申立については,2005年(平成17年)7月29日付都道府県,政令指定都市,中核市宛て厚生労働省通知について,「2親等以内の親族がいれば市長申立はしない」という解釈をする市町村があると言われる。利用促進法が市町村長申立の活用を促しているにもかかわらず,厚生労働省の上記通知が逆の作用をしているとしたら誤解を解くために速やかに対処すべきである。
  6. 第6 決議第3項について
    1. 1 基本計画は,成年後見制度利用支援事業を実施していない市町村に対し,その実施をするように呼びかけている(20頁)。国が,成年後見制度利用促進事業に財政措置を講じても,市町村がこれを活用しなければ 地域における成年後見制度の利用促進は進まない。市町村が動いてこそ,国に対してさらなる財政措置を促すことができる。当連合会は,管内のすべての市町村に対し,成年後見制度利用支援事業を活用し,本人申立や親族申立についても報酬の助成を行い,また一方で市町村長申立の活用をすることを求める。
    2. 2 北海道弁護士会連合会は,2018年(平成30年)3月27日,道内の市町村に対し,成年後見制度の利用を必要とする高齢者及び障がい者のために,積極的に市町村長申立を活用するよう求めるとともに,国に対し,「成年後見人等に対する報酬の助成について財源の裏付けを伴う制度を構築することを含め,町村部の経済基盤の脆弱性等に配慮した必要かつ十分な財政措置を講じる」よう求める意見書を採択している。
  7. 第7 決議第4項について
    1. 1 成年後見制度利用促進の事業において,都道府県の役割がきわめて大きい。東京高等裁判所管内の都県にある市町村の人口規模,財政規模はさまざまであり,成年後見制度の利用促進に取り組むとしても一律には論じられない。市町村の事業計画を国が直接把握する仕組みにはなっておらず,市町村の事業を拡充するための国庫補助の拡充を国と折衝するのは都道府県の役割である。
    2. 2 基本計画は,成年後見制度利用支援事業を実施していない市町村に実施を検討するように促している(20頁)。地域支援事業実施要綱において,成年後見制度利用支援事業が市町村長申立に限らず,本人申立,親族申立にも対象とできること,後見類型だけではなく保佐・補助類型も助成対象になっていることも踏まえて検討するようにと書いている(20頁)が,他方で,都道府県は,国の制度を活用しつつ,市町村と連携して どの地域に住んでいても,制度の利用が必要な人に,身近なところで適切な後見人が確保できるよう積極的な支援を行うことが期待されると書いている(22頁)。
    3. 3 都道府県は,市町村の実状に応じて,どの地域に住んでいても成年後見制度の利用が必要な人が制度を利用できるようにする観点から国に対して財政措置の充実と増額を申し入れるべきである。
    4. 4 基本計画は,都道府県に対し,家庭裁判所や法律専門職団体との連携にも留意すると書いている(22頁)が,地域の家庭裁判所の体制では,市町村との連携が不十分と感じられたとき等は,都道府県内の成年後見制度の利用促進のためには,家庭裁判所の体制整備についても意見を言うべきである。
    5. 5 工程表の期間内で,当該都道府県における成年後見制度の利用を最大限に促進するためには,都道府県は主導的役割を多面で発揮すべきである。
  8. 第8 決議第5項について
    1. 1 利用促進法9条は,「政府は,第11条に定める基本方針に基づく施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を速やかに講じなければならない」と定めている。
    2. 2 利用促進法も基本計画も家庭裁判所の人的・物的体制の充実強化を求めているのだから,家庭裁判所予算を含む裁判所予算が大幅に増えて当然である。ところが,2018年度(平成30年度)の裁判所予算は3212億円であり,国家予算に占める割合は0.328%である。裁判所予算が国家予算に占める割合は2013年度(平成25年度)以降連続して0.32%である。最高裁判所は,家庭裁判所の裁判官,調査官,書記官の大幅な増員を計画し,それに必要な予算請求をすべきである。
  9. 第9 決議第6項について
    1. 1 最高裁判所や政府,さらには地方公共団体に成年後見制度の利用促進に向けた施策の実行を求めるためには,弁護士会がまず,利用促進法や基本計画について,会内に周知するとともに,利用促進法11条11号の基本方針に基づき,基本計画が専門職団体に期待する役割を果たすことが必要である。
    2. 2 管内の市町村の中核機関構築の作業や基本計画作成等の成年後見制度利用促進の施策に,他の専門職団体とも協力して積極的に関与する。
    3. 3 成年後見制度利用促進の事業に重要な役割を担っている都道府県と連携し,国や最高裁判所に対し,管内の利用促進に必要な財政措置や情報の開示を求めていく。
  10. 第10 当連合会の歩みの中で
    1. 1 当連合会は,2011年(平成23年)9月30日の定期弁護士大会における「東京高等裁判所管内の司法基盤の整備充実を求める決議」において,「家事事件は,審判事件,調停事件とも年々増加している。中でも,成年後見申立事件は著しく増加している。家庭裁判所に対する国民の期待は確実に高まっており,家庭裁判所本庁といくつかの家裁支部だけでは対応できない状態が生まれつつある。東京家裁や横浜家裁の繁忙ぶりは顕著であり,体制を強化することが求められているが,他庁を含めて家事事件全体が,これからも増え続けることは十分予想されるところであって,体制の抜本的な強化の必要は,今や待ったなしと言っても過言ではない」と述べていた。
    2. 2 当連合会は,2016年(平成28年)3月16日付「司法予算の大幅増額を求める理事長声明」の中で,「家事調停事件や成年後見事件が著しく増加しており,特に,家庭裁判所における裁判官を含む裁判所の職員の絶対的不足を招くなど司法機能に看過できない課題が山積している」として,最高裁判所に対し,「増加している家事事件を円滑に処理できるように,家庭裁判所本庁・支部における家事専門裁判官や書記官,調査官等の職員を大幅増員する」こと及び「受付しか行っていない家庭裁判所出張所においても家事調停や審判ができるようにし,必要な地域には家庭裁判所出張所を新設する等,家庭裁判所の機能を抜本的に強化する」事業計画を作成するよう,それに必要な大幅な司法予算の増額を求めた。
    3. 3 日本弁護士連合会は,2011年(平成23年)5月27日の定期総会で採択した「民事司法改革と司法基盤整備の推進に関する決議」の中で,民事司法は市民の権利を擁護し,法の支配を社会の隅々にまで行き渡らせる公共的インフラであるとしたうえで,その整備が不十分であるとしてその整備を訴えた。家庭裁判所の整備は,公共的インフラの中でも緊急度の高いものであり,本庁だけではなく支部,出張所の整備が地域において求められている。
    4. 4 ところで,自由民主党政務調査会,司法制度調査会は,2018年(平成30年)6月5日,これまで家庭裁判所が担ってきた成年後見人に対する監督機能を,「一例として」という留保つきながら法務局に分離移転することの検討を始めるように提言した。
       しかし,利用促進法及び基本計画は,5年の工程表を設けている。基本計画の5年の工程表の2年目である2018年度(平成30年度)が始まったばかりのこの時期に,このような提言をすることはいかにも理解できない。
       成年後見人の監督業務の増加に対応するために予算を増やすのであれば,行政庁ではない家庭裁判所の人的・物的体制こそ強化をすべきである。
      民法863条が定める後見人に対する調査権限が法務局に与えられると言うことだとすると,司法が担ってきた権限を行政に移転することには慎重であるべきである。
      上記提言は,法務局は「全国一律の対応が可能な行政機関で,市町村や専門職後見人団体との連携を行うことも容易である」というが,「専門職後見人団体との連携を行うことも容易である」という言葉には警戒をすべきである。
    5. 5 当連合会は,上記決議及び理事長声明,さらには日本弁護士連合会の総会決議を踏まえ,利用促進法の成立と基本計画の閣議決定を受けて,国として,成年後見制度利用促進を進めるとともに,この間,家庭裁判所の事件が増加してきていることからも,最高裁判所及び国に対し,家庭裁判所の本庁・支部・出張所それぞれの人的・物的体制の更なる充実強化を進めることを求めて決議するものである。

以上

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