難民認定手続における審査手続の調査及びその結果の公表を求める意見書
2018(平成30)年12月21日
関東弁護士会連合会
第1 意見の趣旨
当連合会は,法務省に対し,難民認定手続における審査請求人による口頭意見陳述及び難民審査参与員(以下,「参与員」という。)による質問手続(以下,両者を合わせて「審査手続」という。)が適正に運用されているかについて徹底した調査を行い,その結果を公表するよう求める。
第2 意見の理由
- 1 我が国の難民認定手続は,出入国管理及び難民認定法(以下「法」という。)及び出入国管理及び難民認定法施行規則に規定されており,①難民調査官によるインタビューに基づき難民認定/不認定処分がおこなわれる難民認定申請手続(一次手続)と②難民不認定処分を受けた者がおこなう不服申立手続の2段階からなっている。
このうち後者については,平成26年の行政不服審査法の全面改正により,異議申立人の口頭意見陳述及び参与員による審尋を主な内容とする「異議申立て」(法旧第61条の2の9)が,審査請求人の口頭意見陳述及び参与員による質問手続を主な内容とする「審査請求」(法第61条の2の9)にとって代わられた。なお,異議申立ては平成28年3月31日までに原処分告知があった者に対し,審査請求は平成28年4月1日以降に原処分告知があった者に対し適用され,現在は異議申立てと審査請求が併存して行われている状況である(本書面では,特に断りがない場合,「審査請求」には「異議申立て」を含め,「審査手続」には,「異議申立人による口頭意見陳述及び参与員による審尋」を含めて考えるものとする)。
- 2 審査請求では,弁護士,元判検事,元外交官,学識経験者等,法律又は国際情勢に関する学識経験を有する者の中から法務大臣から任命された参与員(法務省HPによると平成30年9月23日現在,93名の参与員が任命されている)が1班3名体制で審査手続をおこない,法務大臣は参与員の意見を聴いたうえで最終的な裁決をおこなうこととされている。そして,代理人である弁護士(以下,「代理人」という。)は一次手続における難民調査官によるインタビューには立ち会うことができず,不服申立段階である審査手続においてのみ立会いが認められている。
しかし,平成29年9月に各種メディアにより報道されたとおり,異議申立てにおける審尋の際に,コンゴ民主主義共和国で政府側兵士から性的暴行を受けたなどとして難民認定を求めている女性に対し,参与員から「美人だったから狙われたのか」旨の極めて不適切な発言がなされた。また,会員からも,審尋における参与員の同様な不適切発言の例が複数報告されていた。
当連合会においても,平成28年2月18日に公表した「難民認定手続における事実聴取手続の可視化等を求める理事長声明」に引き続き,異議申立手続における審尋に関し,口頭意見陳述及び審尋の開催の有無,口頭意見陳述及び審尋における参与員又は調査官からの干渉,参与員からの質問の適切さ,参与員の準備,手続・制度に対する理解度,通訳人の資質ないし能力等の各項目について異議申立手続の申立人(以下,「申立人」という。)の代理人になった経験のある会員を対象とするアンケート調査を行っていたところであった。
当連合会が実施したアンケート調査によれば,例えば,「口頭意見陳述中に参与員の一人が携帯電話を操作していたので代理人が操作を中止するよう求めたところ,当該参与員は態度を改めるどころか「あなたの話していることは提出された書面に書いてある。私が携帯電話を操作していても,問題はない!何が悪いというのか!」と開き直って激高した」など,参与員から申立人や代理人に対し不適切な発言や質問がなされている事例が多数報告された。アンケート調査の概要,結果及び分析内容については,別紙資料を参照されたい。
- 3 法第61条の2の10第2項は難民認定参与員の資質につき,「人格が高潔かつ「審査請求について公正な判断をすることができる」と定めている。勿論すべての参与員に問題があるわけではないが,アンケート調査の結果に見られるような問題事例が事実であるとすれば,同項に反していることは明らかである。
よって,当連合会は,法務省に対し,審査手続が適正に運用されているかについて徹底した調査を行い,その結果を公表するよう求める次第である。