入国管理局による外国人収容問題に関する意見書
2019年(平成31年)1月15日
関東弁護士会連合会
2018年4月13日、入国者収容所東日本入国管理センターにおいて被収容者の死亡事件が発生した。同事件に関連して、当連合会は入国管理局による外国人の収容について、以下のとおり意見を述べる。
第1 意見の趣旨
- 1 入国管理局における退去強制令書による長期収容を停止し、送還が具体的に予定されていない被収容者については速やかな解放を求める。
- 2 退去強制令書による収容の上限期間を明示し、収容に対する司法審査を及ぼすため、出入国管理及び難民認定法を改正するべきである。
- 3 出入国管理行政に対する公正及び透明性確保のため、行政手続法及び行政不服審査法の適用除外を改める法改正をすべきである。
- 4 被収容者に対し、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らして適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるとともに、医療上の措置等の水準を明確にするために被収容者処遇規則を改正すべきである。
- 5 入国者収容所等視察委員会による本件事件の調査・公表、もしくは第三者機関の設置・調査・公表をすべきである。
- 6 入国者収容所等視察委員会の独立性確保をするため、出入国管理及び難民認定法を改正すべきである。
第2 意見の理由
- 1 入管施設における自殺事件の発生
2018年4月13日、東日本入国管理センターに収容中のインド人男性が死亡するという事件が発生した。入国管理局によると、シャワー室でビニールタオルを首に巻きつけて意識がない状態で発見され、救急搬送されたものの、発見から約1時間後に死亡が確認され、茨城県警による実況見分等を経て自殺として処理されたとのことである。自殺の動機は仮放免許可申請の結果が不許可となったことが原因と指摘する報道がなされている。
本件死亡事件後、同センターでは被収容者による官給食の不摂取事案(いわゆるハンガーストライキ)が多数発生したうえ、報道によれば、数年にわたる長期収容及び理由を示されない仮放免不許可によって更なる収容の長期化に将来を悲観した被収容者による自殺未遂事件が数件発生しており、しかも同一人物が2回の自殺を試みたとされている。
- 2 長期収容の停止
- (1)長期収容の現状と原因
- ア 仮放免制度の現状
被収容者は、入国管理局主任審査官によって発せられる収容令書(出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」という。)39条2項)もしくは退去強制令書(入管法47条5項等)により収容されているが、収容はいうまでもなく身体の自由に対する制約である。入管法上退去強制令書による収容は送還可能のときまで収容することができるとされており(入管法52条5項)、その目的は送還の実施にあることは明白であるが、法律上収容期間は示されておらず、無期限収容が可能といえる建てつけとなっている。
そして、収容から解放する主な手段は入国者収容所長等による仮放免許可であり(入管法54条)、その仮放免の審査にあたっては2か月以上を要している現実がある。加えて、仮放免不許可の判断には具体的な理由は示されないことから被収容者は自らの申請がいかなる理由によって不許可となったのかわからないまま無期限収容の可能性に怯え、その不安感をより増大させるばかりとなっている。
- イ 不十分な司法審査
身体の自由に対する制約である収容について現行法上司法による事前審査はなく、かつ収容を解く仮放免の許否の判断にも司法審査は介在しない。仮放免申請不許可処分に対する取消訴訟等は事後的な手続きであるうえ、その審理にも相当期間を要する。収容令書発付処分取消請求訴訟や退去強制令書発付処分取消訴訟を本案とする収容部分の執行停止申立もあるが、近時、収容部分の執行停止を認める決定例は皆無に等しく、救済手段としての実効性を欠く。
- ウ このような制度的な不備によって、上限のない長期間の収容により、日々、被収容者が苦しめられているのである。
- (2)長期収容に対する国際機関の見解
- ア 国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)「入管拘禁モニタリング実務マニュアル」2016年日本版(以下、「UNHCRモニタリングマニュアル」という。)における拘禁に関する記述の要旨は以下のとおりである。
- ① 国際法上、拘禁が認められるためには、必要性、合理性、および達成しようとしている正当な目的との関係で均衡性を有し、かつ、より強制性が弱い代替措置を用いることが適当ではないという個別案件ごとの判断が行われることを要し、比例性の原則から行政拘禁は最後の手段でなければならず、目的の点でも効果の点でも懲罰的な意味を持つものではなく、対象者は犯罪者ではないということを尊重した処遇及び条件を確保することにより、自由の喪失を可能な限り緩和することが国家には求められる。
- ② 拘禁の政策上の正当化根拠として、主権、国境管理、国家安全保障、公共の安全、退去強制・追放についての主張が挙げられるが、これらの考慮要素は難民申請者・移住者を一括してまたは一律に拘禁することの正当化根拠とはなりえない。その他、拘禁は家族の再統合を妨害する手段として移住を防止・抑制する手段として利用されたりすることがあり、拘禁を広く政策として正当化することは国際法上の枠組みと両立しない。
- ③ 長期または無期限の拘禁の対象とされた被拘禁者は精神的・身体的健康に有害な影響を受けることから、入管拘禁の期間の上限は法律で定められていなければならない。
- イ UNHCR国際保護局「基本に立ち返って:難民、難民認定申請者、無国籍者その他の移住者の人身の自由と安全への権利と『拘禁の代替措置』について」(2011年4月)における記述の要旨は以下のとおりである。
- ① 移民の文脈において許容される拘禁の使用に対する制限は、様々な国際裁判所、地域裁判所、そして国内裁判所でも検証されてきたが、多くの事案において、国家は難民認定申請者またはその他の移民を拘禁から放免するよう命じられてきた。ある主要判例は「ますます頻繁に行われる移民制限を回避しようとする試みを挫こうとする国家の正当な懸念は、難民認定申請者(またはその他の者)から(人権法によって)付与される保護を剥奪するものであってはならない」と判示しているが、この立場は他の多くの決定においても反映されている。例えば、難民認定申請者の義務的で再考不能な拘禁は、無期限または長期に渡る拘禁と同様、国際法上違法と判断されている。また、領域内に留まる権利を持たないが、妥当な期間内に帰国させることができない元難民認定申請者やその他の移民の長期に渡る拘禁も拘禁を恣意的なものとすると判断されている。
- ② 帰還の文脈においては、例えば、退去について「現実的で具体的な」または「合理的に予見可能な」見込みがない場合に誰かを拘禁し続けることは不均衡であると判断されている。個人を帰還させられないことは、無国籍、拷問のおそれ、あるいは個人又は出身国が帰還への協力を拒否しているなどの理由で起こり得る。同様に、安全な帰還ルートが存在しない場合、または帰還のために必要な文書を所持しない場合にその者を拘禁し続けることは不均衡である。
- ③ 最長期間について、EUは6か月が退去を待つ間拘禁される人々の最長期間であると示している(「欧州連合の不法に滞在する第三国国民の送還に関する共通基準及び加盟国内手続きに関する理事会の指令(2008/115/EC)」。同指令は、2018年に改正されたが、収容は最長期間の定めを要し、3か月から6か月を原則とし、例外的な最長期間は18か月としている(2018/0329(COD))。以下「EU指令」という。)。更に12か月の延長が可能な2つの例外的根拠が存在)。この期限は広く批判されているが、それは特にEU加盟国の大多数ははるかに短い期限を課しており、概して国家実行を反映したものではないためである。最長期限を規定していないEU加盟国もあるが、期限を規定している17か国中、それぞれの期限は60日から6か月、6か月から18か月と様々である。帰還指令によって定められた最長期間はEU加盟国の大半によって課されている期間よりも長く、いくつかの国が既存の期限を延長することを促したことが懸念されている。米国連邦最高裁判所は、政府は最終的な退去命令により外国人を拘禁し得るが「合理的に予見可能な将来における退去に大きな可能性がない」場合は、6か月後には放免しなくてはならないと判示した。また、英米法諸国では制定法が拘禁の期間に対して明示の最長期間を課していなくても、拘禁の期間は制限の対象となり合理的なものでなくてはならないというのが一般的に許容された法原則となっている。
なお、2018年8月、フランスでは退去強制に向けた外国人の拘束期限を45日から原則最大90日までに延長する法案が可決されたが、フランス国内の支援団体からは強制送還に必要な日数は平均12.9日であり、長期収容は無用に外国人の自由を奪うとする反対声明が出された。
- ウ その他の国際機関による長期収容に対する評価
- ① 市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下、「自由権規約」という。)委員会(CCPR)
身体の自由と逮捕抑留の要件を規定した自由権規約第9条に関する規約人権委員会の一般的意見35は、当該抑留が合理性、必要性及び相当性があるとして正当性が認められなければならず、庇護希望者の主張に疑いがある場合には「身元を特定するために、初期の短期間、抑留され得る。彼らの主張の審理中もさらに抑留することは、逃亡の個別的蓋然性、他者に対する犯罪の危険又は国家安全保障に反する行為の危険といった個人特有の特別な理由がない場合、恣意的になるだろう。」「逃亡を防止するための報告義務、身元引受人又はその他の条件など、同じ目的を達成する上でより権利侵害の小さい手段を考慮に入れなければならない。」「無国籍又はその他の障壁のために締約国が個人を追放できないことは、無期限の抑留を正当化するものではない。」としている。
また、自由権規約委員会に個人通報制度により通報されたケースでは、「いかなる場合でも、抑留は、国家が適切な正当化事由を提供できる期間を超えて継続されるべきではない。(略)たとえ入国が非合法であっても、抑留は恣意的なものとなりうる。」(A vs Australia CCPR/C/59/D/560/1993))と判断している。
- ② 拷問及び非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の防止に関する欧州委員会(CPT)
「外国人法に基づき、期間制限なしに、かつ放免の見込みが不明確なままに行われる長期の拘禁は非人道的な取扱いに該当すると容易に判断され得るとの見解に立つ」(ブルガリア政府に対するCPT報告書、2008年の訪問、CPT/LNF(2010)29、第29項)。
- ③ 国連・恣意的拘禁に関する作業部会(WGAD)
入管被拘禁者が罪を犯していないのに刑務所のような条件下に長期間置かれる可能性があることを考えると「比例性の原則に関する懸念が生ずる」と指摘したことがある(WGAD、ハンガリー訪問(2013年9月23日―10月2日)終了時の声明)。
- エ 日本の入国管理局における長期収容に対する国際機関の意見
日本における、期限の定めがなく、司法審査もされない長期収容に対しては国際的な批判がなされている。
- ① 拷問禁止委員会(CAT)
拷問禁止委員会は、2013年の総括所見(CAT/C/JPN/2)において、無期限収容及び制限的な収容以外の措置等に対して懸念を表明しており、特に収容は最後の手段としてのみ使われ、収容が必要な場合でも収容期間を可能な限り短くするようにし、収容期間に上限を導入することを求めている。
- ② 自由権規約委員会(CCPR)
自由権規約委員会は、2014年の総括所見(CCPR/C/JPN/6)において、収容は最も短い適切な期間内に行われ、かつ収容以外の既存の代替措置が適正に考慮された場合においてのみ行われることを確保すること等を求めている。
- ③ 人種差別撤廃委員会(CERD)
人種差別撤廃委員会は、2014年の総括所見(CERD/C/JPN/CO/7-9)において、長期にわたる庇護希望者の収容及び収容施設における不適切な状況並びに在留許可のない無国籍者が、無期限の退去強制前の収容に直面しており、さらに人権侵害の危険にさらされている人々がいることに懸念を表明し、収容が最後の手段としてのみ、かつ可能な限り最短の期間で用いられることを保証すること、収容の代替措置を優先すべきであることを勧告している。2018年の総括所見(CERD/JPN/CO/10-11)でも再度同様の勧告がなされている。
- (3)2014年9月18日付け日本弁護士連合会「出入国管理における身体拘束制度の改善のための意見書」
同意見書では、「収容を退去強制の確保に必要な最小限の場合に行うこととし、収容の必要のない場合や相当でない場合には収容をしてはならないことを明文化すること。」や「退去強制令書に基づく収容期間について、比例原則の見地から制限を設けること。」等を求めており、合計6か月以上の拘禁を正当化することはできないと指摘している。
また、同意見書における諸外国の立法例は以下の通りである。
スウェーデン外国人法では収容期間は原則2か月までであり、延長は「特別の事情」がある場合にのみ認められ(最大12か月)、統計上の平均収容期間は47日である。なお、GLOBAL DETENTION PROJECT(以下、「GDP」という。https://www.globaldetentionproject.org/)によれば2017年の平均収容期間は31.5日とのことである。
オーストリア外国人管理法では強制送還前の拘留期間ができるだけ短くなるよう努力すべきことを義務付けたうえ、退去強制に先立つ身体拘束は2年間のうちで6か月以上に及ぶことはできないものとしている。GDPによれば、拘禁は原則4か月以内であり、2015年の平均収容期間は11日とのことである。
アイルランドでは庇護申請者の収容は収容日から21日を超えない範囲で可能である。
上記2(2)イ③のとおり、EU指令では収容の上限は6か月である。ただし、例外的に最大18か月の拘禁を認めているところ、国連人権理事会から18か月は過剰であり、拘禁は最短期間にすべきであるとの指摘を受けている。
ドイツ居住法では送還準備のための収容は6週間を超えてはならないとされ、司法審査を経て収容されるが、本人の責に帰すべからざる事情で3か月以内に送還を実施できないことが明らかである場合は送還までの収容をすることはできず、送還準備のための収容を含む送還までの収容は6か月までである。GDPによれば、現在は最大18か月まで拘禁することができるとされている。
フランス入国滞在庇護申請法は強制送還前の拘留期間ができるだけ短くなるよう努力すべきことを義務付け、退去強制の対象者には原則として30日以上の退去期間を与え、かかる退去期間内に退去しなかった者については5日間の収容が認められ、5日経過後の収容の延長には裁判官の許可を要し、延長後20日経過後に更なる延長の必要がある場合、状況により裁判官は更に20日間の延長を許可でき(上記2(2)イ③のとおり、現在はこの収容期限は90日に延長されている)、テロと関係ある行為のために刑事手続上の認定を受けたものについては6か月を最長として1か月の収容命令を更新することができる。
- (4)長期収容に対する当連合会の意見
逮捕勾留と入管収容は、刑事手続と行政手続という違いはあるが、身体の自由を制約するという重大な局面において共通する以上、入国管理局による収容については、刑事手続同様に考えるべきであり、司法審査の欠如及び仮放免許否判断の審理期間が長期に及んでいることは重大な人権問題である。
また、退去強制令書による収容の目的は送還のためであるが、難民申請中の者は法律上送還することができず(入管法61条の2の6)、被収容者の心身の状況によっては送還に耐えられない者もおり、実質的に送還をできない場合もある。このような場合は収容の目的たる送還を実施することはできない状況にある以上、その収容を継続することは目的外の拘禁といえ、自由権規約9条1項にいう恣意的拘禁に該当する。このような場合は比例性の原則からも速やかに収容を解くべきである。
入国管理局は全件収容主義を採用しているといわれているところ、UNHCR等国際的な機関は収容(拘禁)を最後の手段と捉えており、入国管理局の収容に対する姿勢は国際的な基準からかけ離れているものといえ、入国管理局はまず収容ありきという姿勢を速やかに改めるべきである。
加えて、収容期間の上限が定められていない現状は、被収容者の精神的・身体的健康に与える悪影響が甚大であること及び国際的な基準からは到底容認することができない状況にあることに鑑み、退去強制令書に基づく収容期間の上限を明示する法改正をすべきである。その上限については、退去強制令書に基づく収容はあくまで退去強制のためであることから、退去強制の可否の判断及び実施のために必要かつ最短の期間とすべきである。
本件死亡事件において、インド人男性が将来を悲観した原因はこのような過酷な収容の実態が背景にあり、そのような収容が現在も継続していることから、各制度を改めるとともに速やかかつ法改正がなされるまでの間適切な仮放免の運用をすべきである。
- 3 入国管理行政に対する行政手続法及び行政不服審査法の適用除外の廃止
- (1)行政手続法及び行政手続法の適用除外
行政手続法3条1項10号は「外国人の出入国、難民の認定又は帰化に関する処分及び行政指導」に対しては行政手続法を適用しないとしている。
その結果、入国管理局における手続きは原則として入国管理局内で完結し、その権利救済を図る手段は取消訴訟等しかなく(ただし、平成28年改正の行政不服審査法施行後の難民認定申請に対する判断に対しては審査請求をすることができる)、迅速な権利救済手続きが欠如しており、収容が徒に継続されることになっている。
また、仮放免不許可の判断においても、その理由は明確に記載されておらず、収容されている仮放免申請者が先の見えない収容に絶望する一因ともなっている。
- (2)入管行政の公正及び透明性の確保並びに簡易迅速な不服申立ての機会を付与し、仮放免の不許可の理由を示されないことが無期限収容の可能性と相まって被収容者の精神面に悪影響を及ぼしている現状に鑑み、行政手続法3条1項10号及び行政不服審査法7条1項10号による適用除外を改める法改正をすべきである。
- 4 社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らして適切な保健衛生上及び医療上の措置を提供すること
- (1)難民支援協会によると、2016年及び2017年の自殺件数はなしとされているものの、自傷行為はそれぞれ11件と7件であり、そのうち自殺未遂がそれぞれ3件と1件とのことである。この実態からすると同センターでは毎年自殺を試みる被収容者がいるといえる。また、報道によれば東京入国管理局においても自殺を試みた者がいるとのことである。
そして、冒頭でも指摘したとおり、現在同センターでは自殺の連鎖といわざるを得ない状況が生じている。
このような状況にあっては被収容者の精神面のケアが非常に重要となるが、難民支援協会に対する回答によると、臨床心理士によるカウンセリングは週1回、精神科医による診察は月2回に過ぎない。
- (2)出入国管理及び難民認定法には被収容者に対する医療に関連する規定はなく、被収容者処遇規則30条に「所長等は、被収容者がり病し、又は負傷したときは、医師の診療を受けさせ、病状により適当な措置を講じなければならない。」との規定があるのみである。
しかし、健康のためのケアを自分自身で行えない状況及び入管拘禁が健康に有害な影響を及ぼす可能性等から、被収容者に対する保健衛生上及び医療上の措置機会の提供は社会で生活している人々に提供されるのと同一の質及び水準を備えたものであるべきであり、それは無償でアクセスできるようにすべきである。自由の剥奪によって医療上の措置のニーズも高まることから、これはいっそう重要である(前掲UNHCRモニタリングマニュアル同旨)。なお、医療上の措置等の水準に関しては、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第56条にも同旨の規定があるところ、入管施設に収容されている者と刑事施設に収容されている者に対する医療上の措置等の水準に違いを設けることに合理性はない。
自由権規約委員会(CCPR)は、国が移住者の精神状態を承知しており、かつ精神状態の悪化を好転させるために必要な措置をとらない場合に当該移住者の拘禁を継続することは、自由権規約第7条(拷問及び他の残虐な、非人道的なまたは品位を傷つける取扱いまたは刑罰の禁止)に基づく権利の侵害にあたると判断している(C. vs Australia(CCPR/C/76/D/900/1999))。
- (3)毎年自殺を試みる者がいる現状、無期限収容の可能性、理由を示されない仮放免不許可等が被収容者に与える精神的影響に鑑みると精神科医等医療専門家による診察は極めて重要である。
同センター所長は速やかに社会一般の水準に照らして適切な医療上の措置、特に精神科医等による医療上の措置を講じるべきである。
また、被収容者に対する医療上の措置等の水準を明確にすべく被収容者処遇規則を改正すべきである。
- 5 入国者収容所等視察委員会(以下、「視察委員会」という。)による調査等の必要性及び独立性確保
- (1)入国者収容所には警備処遇の透明性の確保、入国者収容所等の運営の改善向上を図るため視察委員会が設置されており(入管法61条の7の2)、視察委員会は視察及び被収容者との面接を行い、入国者収容所長等に意見を述べるものとされている。
視察委員会が設置された目的からすれば視察委員会は法務省入国管理局の意向に捉われずにその権限を適切に行使し、被収容者から積極的に意見を聴取するとともに、収容状況についても調査し、意見することが求められているというべきである。
特に本件では何よりも尊い人命が失われているうえ、更なる悲劇が発生する懸念もある以上、視察委員会は速やかに本件死亡事件について調査し、その結果を公表すべきである。特に過去に入国管理局の施設における自死事件が平成19年以降だけで5件目になることからも速やかかつ徹底的な調査を行うべきである。仮に視察委員会での対応が困難なのであれば、第三者機関を設置し、調査のうえ公表すべきである。
- (2)また、前掲UNHCRモニタリングマニュアルにおいて、入管拘禁のモニタリングでは、独立の機関が事前通告なしで頻繁に訪問を行うことを不可欠の要素としており、これにより、ルフールマン、違法・不法な退去強制、拷問・虐待の可能性を最小限に抑えるなど、違法な予防目的に資することになると指摘されている。
しかし、視察委員会委員の任命権者は法務大臣であり(入管法61条の7の3第2項)、かつ視察委員会の庶務は入国管理官署の総務課において処理するとされており(入管法施行規則59条の4第7項)、委員会の独立性は認められていないし、事前通告なしの訪問も認められていない実情がある。
- (3)したがって、視察委員会に独立性を付与すべく法改正をすべきである。
なお、視察委員会の独立性確保及び権限強化等については、2013年の拷問禁止委員会総括所見においても要求されている。
- 6 入国管理局の収容等に関する当連合会及び各弁護士会等の意見
当連合会は、これまで入国管理局における死亡事件に関連して次のとおりの声明等を発してきた。
- ① 2014年5月1日付け「東日本入国管理センター被収容者の連続死亡事件に関する真相解明とその公表及び被収容者の死亡事件発生防止策(入管医療の改善・長期収容停止)を即刻講じることを求める理事長声明」
- ② 2014年9月26日付け「東日本入国管理センター被収容者の連続死亡事件に関する決議」
- ③ 2014年12月25日付け「入国管理局収容施設における被収容者死亡事件の再発防止を強く求める理事長声明」
- ④ 2015年11月6日付け「入国管理局収容施設における被収容者の死亡事件に関する真相解明とその公表を求める理事長声明」
そして、今回の死亡事件を受けて各弁護士会(東京、群馬、茨城県)においても会長声明を発しており(なお、過去の死亡事件においても多数の弁護士会が会長声明を発している)、長期収容に関しては、九州弁護士会連合会が2018年6月21日付け「大村入国管理センター等の長期収容者について仮放免等収容代替措置の活用による速やかな解放等を求める理事長声明」を発し、大阪弁護士会は、人権救済申立を受けて、2018年6月12日付けで大村入国管理センターの被収容者に仮放免許可をすることを勧告している。
いずれにおいても長期収容の人権侵害性を指摘し、不当な長期収容の停止を求めているが、入国管理局における収容の実態は改まることないばかりか、仮放免の運用が厳格化している状況にある。
- 7 本件死亡事件は、将来を悲観した一人の男性の死亡に留まらず、外国人収容に関する多くの問題を背景としており、同センターだけの問題ではなく、その問題点は長期にわたって一向に改善されていない。
当連合会は、同センター及び法務省入国管理局に対し、長期収容の停止、仮放免の運用の速やかな改善を求め、入国者収容所等視察委員会に対し、本件死亡事件の調査及び公表、収容状況の積極的な調査を求める。併せて、立法に関わる関係各位に対し、収容及び仮放免についての司法審査の導入、社会一般の水準に照らして適切な医療上の措置等を講じること及び被収容者処遇規則の改正、入国者収容所視察委員会の独立性確保のための法改正への取組みを求める次第である。