特定保健用食品制度に対する意見書
2019年(平成31年)3月19日
関東弁護士会連合会
平成28年9月23日,特定保健用食品制度における初の表示許可取消し事例が発生した。内閣府消費者委員会は,平成29年1月17日,「健康食品の表示・広告の適正化に向けた対応策と,特定保健用食品の制度・運用見直しについての建議」に対する消費者庁の取り組みに対する意見書を発表し,特定保健用食品の制度・運用の見直しを求めた。しかしながら,平成29年2月14日に健康食品会社に対して景品表示法違反(優良誤認)を理由とする措置命令を行い,平成29年6月7日に同じ健康食品会社に対して課徴金納付命令を行って以降は,特定保健用食品制度に関する消費者庁の具体的対応が全く明らかとなっていない。
当連合会は,特定保健用食品制度が「国民の健康増進・食生活の改善」を目的とし,「いわゆる健康食品」と呼ばれる製品群に含まれる,健康への効果や安全性が明らかでない食品の淘汰に寄与し,消費者の適切な製品選択を行う環境を整えることが期待される制度であるのに,その制度自体の信頼性が揺らいでいる現状に鑑み,以下のとおり意見を述べる。
第1 意見の趣旨
- 1 特定保健用食品制度につき,以下に挙げる対応を速やかに行うことを求める。
- (1)特定保健用食品の表示許可に一定期間(2年ないし4年程度)の有効期限を定め,有効期間満了後も表示を継続する場合には事業者に更新の届出を義務づけるとともに,必要に応じて再審査を行うことができる制度にすること。
- (2)許可された特定保健用食品に対する抜き打ち調査を定期的に実施し,少なくとも年に1回はその結果の公表を行うことを消費者庁に義務づけること。
- (3)消費者が特定保健用食品の効能を誤認することを防止するため,特定保健用食品制度につき消費者の誤解を招かないための必要な措置をとるとともに,特定保健用食品の保健機能成分の効能・効果を過度に強調する表示を禁止すること。
- (4)消費者の健康被害を防止するため,特定保健用食品の保健機能成分の一日あたりの上乗せ摂取量の上限値についての表示を義務づけることを内容とする法令改正を行うこと。
- 2 科学的根拠の不確かな条件付特定保健用食品は,廃止も含めた検討をすべきである。
第2 意見の理由
- 1 特定保健用食品制度の概要について
特定保健用食品とは,身体の生理学的機能などに影響を与える保健機能成分を含む食品である。個別の製品ごとに食品の有効性及び安全性に関する審査を受けた結果,健康増進法第26条第1項の許可又は同法第29条第1項の承認を受けることで,食生活において特定の保健の目的で摂取をする者に対し,その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をすることが認められる(食品表示基準第2条第1項第9号,健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令第2条第1項第5号)。
平成3年7月の旧栄養改善法の改正により特定保健用食品制度が開始し,平成5年6月に2品目が表示許可を受け,2019年1月29日現在では1062件(総許可件数1778件)となっている。
- 2 特定保健用食品制度の見直しの必要性
- (1)更新等の制度の必要性
特定保健用食品制度の運用が開始された平成5年当時は,2年ごとの更新制であった。平成8年に栄養改善法施行規則の一部改正が行われ,有効期限が4年に変更された後,平成9年10月にさらに一部改正され,更新制が廃止された。
平成28年9月23日に特定保健用食品制度初の許可取消し事例が発生したが,事業者の自主的な申告により発覚したものであり,当該事業者が問題を把握した時点から2年以上にわたり販売を継続したとの事実も明らかとなった。
また,平成28年9月27日時点における特定保健用食品の登録件数は1271件であったが,そのうち同時点において現に販売されていた品目数は366品目と総登録件数の約28.8%に過ぎず,消費者庁が登録された製品の販売状況を全く把握していなかったことが明らかとなった。そして,消費者庁が同時点で販売している特定保健用食品の中から7品目(6社)の商品を調査対象として買い上げ,許可等申請時に提出された方法に則って分析試験を実施したところ,2品目(1社)の関与成分量が許可等申請書の記載どおり適切に含有されていなかったことが明らかとなった。
特定保健用食品は許可制であることに制度の信頼性が存するにも関わらず,一旦許可を受け,特定保健用食品として登録された後は消費者庁による定期的な審査がないため,販売されていない品目が登録されたままの状態となっていたり,保健機能成分が適切に含有されていなかったことに気づかなかったりしたものである。
また,現在許可されている特定保健用食品のうち最も古いものは平成9年10月21日付で許可された食品であり現在も販売中であるが,「機能性」を表示することを許された製品に含まれる関与成分の有効性・安全性の評価は,科学の進歩に伴い変化する可能性があるところ,更新制がない現状では,新たな科学的根拠に基づいて関与成分の有効性・安全性を評価することができない。
確かに,更新制をとれば,食品販売時業者にとって更新時にコストがかかることになるが,当時と同じ科学的知見により判断できるのであれば,それほどコストはかからないし,新たな科学的知見に基づいて判断する必要があるのであれば,コストをかけてでも有効性・安全性を評価する必要がある。
したがって,特定保健用食品の許可には一定期間(2年ないし4年)の有効期限を定め,有効期間満了後も表示を継続する場合には事業者に更新の届出を義務づけるとともに,必要に応じて再審査を行うことができる制度にすべきである。
- (2)抜き打ち調査の定期的な実施の義務づけ
既に指摘したとおり,平成28年9月23日に発生した初の許可取消し事例は,事業者の自主的な申告により発覚したものであり,当該事業者が自主申告をしなければ現在もなお当該製品が販売されていたものと考えられ,特定保健用食品制度の信頼性を揺るがす事態となっている。
内閣府消費者委員会は,平成28年4月12日付建議において,特定保健用食品制度が厚生労働省から消費者庁に移管されて以降,収去調査(食品表示法第8条第1項)が一度も実施されていないことに鑑み,法令に規定されている「収去調査」の実施を求めていた。これに対し,消費者庁は,収去調査ではなく法令に基づかない任意の買上調査で対応するとし,収去調査でなくても,許可した内容と明らかに異なる内容の製品を見つけた場合には,当該結果をもって行政処分の対象とできるとの見解を示した。
市場において現に販売されている特定保健用食品の有効性・安全性を確保するために,食品表示法上の収去調査によるか任意の買上調査によるかに関わらず,許可をした行政が定期的に製品の成分分析を行い,当該調査の結果,有効性・安全性に問題がある製品が見つかった場合には,速やかに行政処分を行うことが必要である。
したがって,消費者庁による抜き打ち調査を定期的に実施し,少なくとも年に1回は調査結果を公表することを法令により義務づけることを求める。
- (3)誤認防止のための必要な措置
消費者の健康に対する関心の高まりとともに,特定保健用食品が「健康に役立つ」として国民に広く利用されるようになった一方,消費者が制度を正しく理解をして製品を利用しているとは言いがたく,他方で,実際の効果に見合わない過大ないし誇大な宣伝・広告がなされたり,作用機序に関する表現だけを切り取ってキャッチコピーなどに使用されたりして,その作用機序でどのような効果が期待できるのかの正確な知識が消費者にないことが原因で,その表示内容自体を「期待できる効果」と一部の消費者が誤認して製品を利用している現状が平成28年1月に実施された「特定保健用食品に関する消費者の意識調査」の結果から明らかとなった。
特定保健用食品は,「いわゆる健康食品」と異なり,効果・安全性が国の審査によって確認されているため,安全性については問題がないものの,効果の面では,医薬品のような高い効果はなく,製品に記載されている摂取方法に従って利用することにより,効果が「期待できる」ものにすぎないのに,消費者の中には「治療や食事療法の代わり」に利用したり,表示・広告から連想される効果を得られると考えて製品を利用したりしており,消費者の適切な商品選択につながっていないばかりか誤った利用をされている。
平成17年に行われた保健機能食品制度の見直しの際に,「食生活は,主食,主菜,副菜を基本に,食事のバランスを」という文言を特定保健用食品の容器包装の前面に表示することが義務付けられたが,これは消費者の誤った利用や,過度の期待を是正するためであると考えられる。しかしながら,今なお特定保健用食品の容器包装の最も目立つ箇所に効能を大きな文字かつ目立つ色で記載されることが多く,消費者の誤った利用や過度な期待をあおるような状況にある。特定保健用食品は,あくまで病気でない消費者を対象とするものであり,既に病気に罹患している消費者が誤解をして,特定保健用食品さえ摂取していれば大丈夫であるとの誤解を招くことのないよう,対策を取る必要がある。
以上の理由により,消費者庁に対しては,消費者が特定保健用食品の効能を誤認することを防止するため,特定保健用食品制度につき消費者の誤解を招かないための必要な措置をとるとともに,特定保健用食品の保健機能成分の効能・効果を過度に強調する表示を禁止するとの対応をとることを求める。
- (4)一日あたりの上乗せ摂取量の上限値表示の義務づけ
特定保健用食品には,科学的根拠に基づいた身体の生理学的な機能に影響を与える保健機能成分が含まれていることに特長がある。しかしながら,身体の生理学的な機能に影響を与えることの裏を返せば,副作用が発生するおそれがあることも意味する。
例えば,「骨の健康が気になる方に有効」とされる保健機能成分として多くの特定保健用食品に使用されている大豆イソフラボンにつき,食品安全委員会は一日の上乗せ摂取量の上限値を30mg/日と設定した。しかし,一日の上乗せ摂取量の上限値は,製品に表示されていないため,摂取量の上限値に制限があることを知らない消費者は,大豆イソフラボンの効能のみに着目し,効果の発生を期待して大量に摂取するおそれがある。特に,成分を抽出して濃縮された食品であれば容易に摂取量が過剰になり,かえって消費者の健康を害するおそれがある。
また,期待できる効果が異なる特定保健用食品であっても,同じ成分が含まれているものも存在する。例えば,難消化性デキストリンは,「お腹の調子を整える食品」と表示されたり,「食後の血糖値が気になる方のための食品」と表示されたりするが,期待する効果が異なるから同じ成分が含まれていることに気づかずに摂取することにより,結果的に1種類の保健機能成分を過剰摂取するおそれがあるといえる。
安全性の観点から,保健機能成分の摂取量の一日あたりの上限値が存在する場合には,これを容器包装の目立つ箇所に表示することの義務づけを行うべきである。
- 3 条件付特定保健用食品
条件付特定保健用食品とは,特定保健用食品の審査で要求している有効性の科学的根拠のレベルには届かないものの,一定の有効性が確認される食品を,限定的な科学的根拠である旨の表示をすることを条件として許可されたものである(例:○○を含んでおり,根拠は必ずしも確立されていませんが,△△に適している可能性のある食品です)が,特定保健用食品の審査で要求している有効性の科学的根拠のレベルには届かないものについてまで,条件付であっても特定保健用食品と認めることは,「いわゆる健康食品」と呼ばれる製品群に含まれる,健康への効果や安全性が明らかでない食品と区別し,「国民の健康増進・食生活の改善」に資する食品としての特定保健用食品の価値を維持することができなくなるおそれがある。また,そもそもの特定保健用食品の理解が十分にされていない現状において,条件付特定保健用食品と特定保健用食品の違いは消費者には非常にわかりにくく,機能性表示食品との違いもわかりにくい。平成30年3月に消費者庁がまとめた「特定保健用食品の安全性・有効性に係る情報公開の拡充に向けた調査事業全体報告書」の中でも,一般消費者にとって条件付特定保健用食品制度はわかりにくく,不要であるとの意見が多く出されているとのことであった。国が有効性・安全性を審査し,有効性・安全性が確認された製品を特定保健用食品とするのであれば,その例外を認めるべきではなく,あえて条件付特定保健用食品を設ける必要性も考えにくく,速やかに廃止も含めた見直しをすることを求める。