関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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2019年度(令和元年度) 声明

クレジット過剰与信規制の緩和に反対する理事長声明

  1. 1 経済産業省産業構造審議会割賦販売小委員会(以下,「割賦販売小委員会」という。)では,割賦販売法上規制される与信審査につき緩和策を検討している。すなわち,①クレジット会社独自の「技術・データを活用した与信審査方法」を使用する場合,利用限度額30万円を超えるカードその他の物又は番号,記号その他の符号(以下,「クレジットカード等」という。)を利用者に交付又は付与する場合に義務付けられている支払可能見込額調査義務(割賦販売法30条の2第1項)を適用除外とすること,②「技術・データを活用した与信審査方法」を使用する場合,支払可能見込額調査の際の指定信用情報機関の個人信用情報照会義務(同法30条の2第3項),及び,基礎特定信用情報の登録義務(同法35条の3の56第2項,第3項)を免除すること,③利用極度額10万円以下のクレジットカード等の交付又は付与時,支払可能見込額調査の際の指定信用情報機関の個人信用情報照会義務(同法30条の2第3項),及び,基礎特定信用情報の登録義務(同法35条の3の56第2項,第3項)を免除することが提案されている。
  2. 2 しかし,これらの規制緩和策は多重債務防止の社会的要請により導入されたクレジット過剰与信規制を骨抜きにするものであり,強く反対する。
     すなわち,以前は,消費者金融やクレジット取引を通じた多重債務問題が深刻な社会問題になっていたため,2006年には貸金業法が改正され,2008年には割賦販売法の改正により,すべての与信業者が指定信用情報機関の会員となり,与信審査における信用情報の照会義務と与信情報の登録義務が課されることとなった。しかし,今回の規制緩和策は,上記改正の趣旨を無意味にするものである。
  3. 3 AIやビッグデータを活用するという「技術・データを活用した与信審査方法」を選択肢として認めることは,一見すると合理性があるようにも見える。
     しかし,各与信業者が独自の情報を活用し独自の審査基準により与信判断を行うということは,業界全体として統一的な基準により過剰与信を防止するという法制度の趣旨を没却することになりかねない。
     仮に多様な与信審査基準を選択肢として認めるとすれば,その与信審査基準が支払可能見込額調査に代替しうるだけの客観的に合理的な審査方法であるか否かを,行政庁等の第三者が事前に確認するなどの措置を講じる必要があるが,行政庁等が,AIやビッグデータを活用するという「技術・データを活用した与信審査方法」の合理性判断を事前かつ客観的に行うことは現実的ではない。
  4. 4 さらに,与信審査に当たって指定信用情報機関の照会及び与信情報の登録を行うことは,単に与信業者の貸倒れリスクを回避するための自衛策であるだけでなく,与信先である個人の,他社における取引内容も含めたクレジット債務全体を把握することによって,当該個人に適切な与信を行うという多重債務防止の社会的要請に基づくセーフティネットとしての義務でもある。
     したがって,多重債務防止のための指定信用情報機関の照会義務及び与信情報の登録義務を撤廃することは断じて許されない。
  5. 5 また,利用限度額10万円以下の与信について指定信用情報機関の照会義務及び与信情報の登録義務を免除するという提案についても,既に現行法において,利用限度額30万円以下の場合に,原則として,支払可能見込額調査義務が免除されるという少額与信への特例措置が規定されており,さらなる指定信用情報機関の照会義務及び与信情報の登録義務自体まで免除するべきではない。
     すなわち,指定信用情報機関に与信情報を全件登録し照会することによって初めて,与信を受ける者の包括的な債務状態を把握することができ,これによって実効的な多重債務の未然防止が可能になるのであり,利用限度額10万円以下とはいえ,信用情報の照会義務・登録義務まで免除することは,多重債務防止対策を業界全体のセーフティネットとして構築した制度趣旨を崩壊させるものであり,到底許されない。
  6. 6 政府は,キャッシュレス決済推進の名の下に,手数料の低下等の環境整備を図ることを提示している。しかし,決済といっても,後払い決済は,与信を伴い多重債務問題の発生原因となるという点で,与信を伴わない前払い決済や即時払い決済とは異なるのであり,両者を同列に論じるべきではない。与信を伴う後払い決済においては,よりコストがかかることは当然であり,指定信用情報機関の照会義務及び与信情報の登録義務の撤廃によって,多重債務防止のセーフティネットを崩壊させることはあってはならない。
     また,クレジットを伴う消費者被害が後を絶たないこと,成年年齢引き下げによる消費者被害増加が見込まれることからも規制緩和は慎重に行うべきである。
     なお,経済産業省は,過剰与信防止義務の大幅な規制緩和を審議する手続において,消費者団体その他消費者の視点からの意見を十分に聴取することなく進めようとしており,手続的にも重大な問題がある。
     よって,今般のクレジット過剰与信規制の緩和は撤回すべきである。

以上

2019年(令和元年)5月17日
関東弁護士会連合会
理事長 木村 良二

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