関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2019年度(令和元年度) 大会決議

全国の各都道府県及び市区町村に犯罪被害者支援に特化した条例を制定し,犯罪被害者支援の取組を一層進展させることを求める決議

 全国の各都道府県及び市区町村において速やかに犯罪被害者支援に特化した条例を制定し,すべてのまちの犯罪被害者支援の取組を一層進めるよう求める。

2019年(令和元年)9月27日
関東弁護士会連合会

提案理由

 当連合会が,犯罪被害者支援の充実をめざす宣言をしたのは,平成12年9月22日のことである。
 その後,同宣言において制定を求めた犯罪被害者等基本法が平成16年12月に制定され,平成17年12月に犯罪被害者等基本計画が閣議決定された。
 犯罪被害者等基本法は,すべての犯罪被害者等について,個人の尊厳が重んぜられ,尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有することを明言し,犯罪被害者等のための施策は,犯罪被害者等が置かれている状況に応じて適切に講じられなければならず,そして,それは再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間,必要な支援等を途切れることなく受けることができるよう,講じられなければならないと定めている(犯罪被害者等基本法3条〔基本理念〕)。
 そして,同法は,地方公共団体の責務として,この基本理念にのっとり,犯罪被害者等の支援等に関し,国との適切な役割分担を踏まえて,その地方公共団体の地域の状況に応じた施策を策定し,及び実施する責務を有するものと定めている(同法5条)。
 国においては,平成19年6月に犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立し,被害者参加制度や損害賠償命令制度が導入され,被害者がなし得る行為は大幅に拡大した。さらに,犯罪被害者等給付金制度の拡充など,被害者支援にかかわる国家の制度は,まだまだ不十分な面があるにせよ大きく躍進し,平成12年当時からは様変わりした。
 しかし,こうした国の施策の前進と対照的に,地方公共団体における具体的な被害者支援施策は,地方公共団体ごとに被害者支援に対する理解や姿勢が大きく異なり,多くの地方公共団体では検討すら遅々として進んでいない。
 犯罪被害者支援に特化した条例を定めている都道府県は,本年4月時点で,全国でわずか17に過ぎず,盛り込まれている具体的施策の範囲及び内容は,都道府県によって濃淡があるのが実情である。さらに,市区町村に至っては,犯罪被害者に特化した条例を定めた地方公共団体は全国的にはまだまだ少ない状況にある。
 なお,「安心・安全まちづくり条例」の中に犯罪被害者に関する規定をおく県もあるが,こうした条例の多くは「犯罪被害者に対し,情報提供,助言その他の必要な施策を講じる」といった抽象的な記載がわずか1条あるだけで,具体的施策にまで言及されていない例が多い。
 このような状況は,当連合会管内の11都県についても同様であり,多くの地方公共団体では,犯罪被害者に対する具体的で手厚い支援を条例として定め,推進する状況にはなっていない。
 地方公共団体は,市民が被害にあったときに,最初に頼ることができる最も身近な組織である。被害にあったことが原因で,それまでの職につけなくなったり,居住地を変更せざるを得なくなったりすることが生じうる。しかし,このような場合の負担は,地方公共団体に支援制度がない場合には,理不尽にも被害にあったその被害者の負担に任せている状況にある。市民の生活に寄り添う存在である地方公共団体には,住宅の確保,雇用支援,家事・育児・介護などの衣食住に関わる直接支援,保険医療の分野での支援など,被害者のためにできることは,極めて多い。ところが,予算措置を伴う被害者支援活動について,条例という明確な形の法的根拠がないと,個々の地方公共団体職員が積極的かつ自主的に被害者支援のための活動に取り組むことには限界がある。
 誰しもが犯罪被害に遭うかもしれないにもかかわらず,如何に犯罪被害者が取り残されている存在であるかについて実際に犯罪被害に遭うまで分からないのであるが,犯罪被害者になってからでは遅いのである。条例の制定は,市民が将来にわたって真に安心するため,市民の安全な生活を保障するために不可欠のものである。
 また,地方公共団体による犯罪被害者施策は,市民生活に密着した施策は市区町村ごとに必要性に照らしたきめ細やかさが求められる一方で,予算や人員を背景にした施策は都道府県が市区町村をバックアップしながら両柱となって進められていく必要があり,市区町村に条例が制定された場合であっても都道府県に条例が必要ないということにはならない。
 当連合会管内で犯罪被害者に特化した条例を定めている神奈川県では,条例に基づき,犯罪被害者支援に精通した弁護士をあっせんし,早期かつ機動的な弁護士による支援が実現しており,報道されていない事件も含め,多数の事件で大きな成果を上げている。
 犯罪等による被害について責任を負うのは,加害者である。しかし,加害者から即時かつ十分な補償や支援がされることを期待することができない場合が大多数である。各地方公共団体は,犯罪等を抑止し,安全に暮らせる社会の実現を図る責務を負うとともに,不幸なことに犯罪等の抑止をすることができずに発生してしまった犯罪被害者に対する施策も,明日もしかしたら被害にあうかもしれないすべての市民のための施策として講じなければならない。現状のように,都道府県の一部にだけ条例が定められ,市区町村に至ってはわずかな数しか制定されていない状況では,多くの犯罪被害者が必要な支援を受けられていないというだけにとどまらず,偶然,居住する場所が違うというだけの理由で必要な支援が受けられたり,受けられなかったりという不公平をも生んでいる。
 地方公共団体における被害者条例の制定は,犯罪被害者等基本法が,地方公共団体に義務づけた「国との適切な役割分担を踏まえて,地域の状況に応じた施策を策定し,及び実施する責務」であり,これを果たすことは地方公共団体の義務である。
 本年2月26日,小池百合子都知事は,東京都において犯罪被害者支援条例の制定に向けた検討に着手することを表明し,現在,本年度中の制定に向けた検討が進められている。こうした情勢のもと,この動きを東京都だけにとどめることなく,当連合会管内の地方公共団体を筆頭に,全国の地方公共団体において条例制定を推し進め,日本全国どこの地域において犯罪の被害にあった被害者についても等しく必要な支援等を途切れることなく受け続けることができる体制をつくらなければならない。
 したがって,当連合会は,全国の各都道府県及び市区町村に速やかに犯罪被害者支援に特化した条例を制定し,すべてのまちの犯罪被害者支援の取組を一層進めるよう求める。

以上

PAGE TOP