関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2019年度(令和元年度) 意見書

改正民事執行法に対する意見書

2019年(令和元年)10月17日
関東弁護士会連合会

1 意見の趣旨

  1. (1)民事執行法の改正法(令和元年法律第2号。以下、「改正法」という。)について、新設された第三者からの情報取得手続のうち預貯金債権等に関する情報取得申立てについては、その実効性を確保するため、規則の制定にあたっては、債務者への通知(改正法208条2項)の時期は、情報提供を命じられたすべての機関からの回答があり、かつ裁判所が債権者が後述の2意見の理由(1)ウ記載の追加申立て等を行う意向がないことを確認できた時点から少なくとも1か月以上の期間が経過した後に行うことを定めるよう求める。
  2. (2)改正法案について衆議院及び参議院でなされた附帯決議1項1号(本法施行後における第三者からの情報取得手続きに関する実務の運用状況を勘案し第三者から情報の提供を求めることができる債務者財産の範囲やその申立ての要件などについて、必要に応じて検討するよう努める旨の決議)に賛成するとともに、その検討の際には、不動産に係る情報の取得について財産開示手続の前置を廃止することの検討を求める。
  3. (3)改正法案について衆議院及び参議院でなされた附帯決議1項2号(実務の運用状況を勘案して債務者の給与債権に係る情報の取得ができる損害賠償請求権の範囲について必要に応じて見直しを検討する旨の決議)に賛成するとともに、その見直しの際には、債務名義の範囲を不法行為による損害賠償請求全般に拡張するよう求める。

2 意見の理由

  1. (1)預貯金債権等に係る情報提供の債務者への通知時期(上記1(1))
    1. ア 改正法で新設された第三者からの情報取得手続においては、債務者の財産情報のうち、不動産、給与債権及び預貯金債権等に係る情報の取得が可能となった(改正法205条から207条)が、このうち預貯金債権等については流動性の高さによる債務者の財産隠しへの懸念から、不動産や給与債権のように財産開示手続の前置は要件とされておらず(改正法205条2項の不準用)、かつ、情報提供命令は債務者に送達しないこととなっている(改正法205条3項の不準用)。このため、債務者が預貯金債権等に対する債権者の強制執行の意図を知るのは、裁判所からの第三者が情報提供を行った旨の通知(改正法208条2項)による。
       したがって、同通知後は、債務者により預貯金債権等の隠匿が行われる危険性が高まるところ、改正法は通知を行う時期について最高裁判所規則に委ねている。そこで、規則制定にあたっては、情報取得申立ての意義が没却されないよう、預貯金債権等に係る情報提供を行った旨の債務者への通知の時期について、以下のとおり定めるべきである。
    2. イ 債務者への通知の時期
       まず、改正法208条2項の債務者への通知時期について、債権者の執行準備期間の確保のため、後記ウで述べる起算点から、相当期間(少なくとも1か月以上)の経過後に行うことを定めるべきである。
    3. ウ 相当期間の起算点
       次に、相当期間の起算点については、債権者が複数の機関に対して情報取得申立てを行う場合があることや、ある機関から提供された情報をもとに、新たに申立や調査(以下「追加申立て等」という。)を行う必要が生じる場合も想定されることから、債権者に対して情報提供を命じられたすべての機関からの回答があり、かつ裁判所が債権者が追加申立て等を行う意向がないかどうかを確認し、追加申立て等を行う意向がない旨を明らかにする書面が裁判所に到達した時点を相当期間の起算点とするように定めるべきである。
  2. (2)不動産に係る情報取得申立てについて財産開示手続前置の廃止(上記1(2))
     第三者からの情報取得手続のうち、不動産及び給与債権については財産開示手続の前置が課されているが(改正法205条2項、同206条2項・同205条2項)、預貯金債権等に係る情報については課されていない(改正法207条)。
     預貯金等が流動性が高く容易に財産隠しができることに対し、不動産は預貯金等のように流動性が高くはなく処分が容易とはいえないこと、給料債権は債務者のプライバシーが配慮された結果である。
     しかし、不動産も親族等への名義変更をする等により執行を困難にすることは比較的容易である。
     また、不動産登記事項は公開されていることに加え、情報取得手続きによって新たに判明する不動産の多くは、自宅不動産以外の不動産であり、債務者のプライバシー侵害が一般的に大であるとは言えないことも考慮されるべきである。
     したがって、改正法施行後の検討の際には、不動産に係る情報取得手続については財産開示手続の前置を廃止するよう検討を求める。
  3. (3)不法行為による損害賠償請求権全般について給与債権の情報取得を認めるべきであること(上記1(3))
     改正法では、債権者の給与債権に係る情報の取得ができる不法行為による損害賠償請求権は、生命又は身体侵害によるものに限られている(改正法206条1項本文)。
     しかし、不法行為による損害賠償請求権の中には、例えば、高齢者が悪質業者による詐欺に遭い、いのち金ともいうべき生活の基盤となる老後資産を奪われてしまう等の、救済の必要性については身体侵害に勝るとも劣らないものも珍しくない。そしてこのようなケースでは、判決を得ても債務者の財産情報が分からないために被害回復が困難であるものも多々存在する。
     プライバシーへの配慮から給与債権に係る情報を取得できる債権を限定する意義は理解できるが、単なる契約不履行とは異なり、不法行為による損害賠償請求権は、社会的相当性を逸脱した行為によって生じるものであるから、債務者のプライバシーよりも債権者の保護の要請が大きいというべきである。
     したがって、生命身体侵害による損害賠償請求権に限らず、不法行為に基づく損害賠償請求権全般について給与債権に係る情報の取得を認めるべきであり、改正法の見直しに際しては、対象債権を不法行為による損害賠償請求権全般に拡大するよう検討を求める。
PAGE TOP