個人情報保護法の改正に関する意見書
2020年(令和2年)3月5日
関東弁護士会連合会
第1 意見の趣旨
個人情報保護法の趣旨を徹底させ、消費者被害を防止するため、個人情報保護法について、以下の改正を行うことを求める。
- 1 保有個人データの利用停止・消去を請求できる場合を、不適正取得と利用目的外利用以外についても拡大するとともに、第三者提供の停止の請求要件も緩和すべきである。
- 2 個人情報保護法28条1項の個人情報取扱事業者に対する開示請求権の対象を、個人情報取扱事業者の保有個人データ以外にも拡大し、第三者への提供時・第三者からの受領時の記録を対象に含めるべきである。
- 3 本人確認情報を、本人が個人情報取扱事業者に直接提供することなく保有個人データの利用停止・消去等を求められるよう、本人に代わって特定の団体・個人が保有個人データの利用停止・消去等を求められるような制度を認めるべきである。
第2 意見の理由
- 1 序論
個人情報保護法が制定され、全面施行されてから約14年が経過した。この間、大規模漏えい事件をきっかけとした2015年改正によって、いわゆる名簿販売事業者対策が強化されたが、現在においても、事業者が、名簿販売事業者から購入した個人情報をもとに行った「勧誘」がきっかけとなって消費者被害が生じることが少なくない。
名簿販売事業者から販売された個人情報が、詐欺等の犯罪行為に利用されたり、消費者被害を助長したりしていることについては、社会問題として指摘されているところであり(昨今、名簿販売事業者が、特殊詐欺犯罪グループに名簿を提供していたとの報道もある。)、名簿販売事業者による情報の頒布をきっかけとした消費者被害は深刻な問題となっている。
そのため、個人情報の保護は、消費者被害の防止の観点からも極めて重要なものといえる。
今般、2019年12月13日付けで個人情報保護委員会から、個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し制度改正大綱(以下「改正大綱」という。)が公表されたが、当連合会としては、以下のとおり、個人情報保護法を改正することを求める。
- 2 意見の趣旨1について
現行の個人情報保護法では、個人情報の取得については、要配慮情報を除き、偽りその他不正の手段によらず、利用目的を公表していれば、本人が知らないうちに収集することも合法である(同法17条)。また、本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止することとしている場合であって、一定の事項について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置くなどした場合には、本人の同意なく第三者への提供も可能としている(同法23条2項。いわゆる「オプトアウト」。)。
一方で、本人には、個人情報取扱事業者の保有個人データが事実と反している場合の訂正等の請求権が認められているが(同法29条1項)、保有個人データが事実と合致している場合、利用停止・消去を請求できるのは、保有個人データが適正取得に違反しているか、利用目的外の利用がされている場合のみに限定されている(同法30条1項)。
したがって、本人の預かり知らないところで、自己にかかわる保有個人データが利用されたとしても、当該事業者の利用目的に沿った利用であれば、利用停止等を請求できない。また、オプトアウトの場合、第三者への提供の停止を請求することが出来るだけで、提供を受けた第三者に利用停止等を求めることはできない。結果、自己にかかわる保有個人データが利用されている現状を変更することは困難となる。
しかし、個人の自己決定権に鑑みれば、利用目的外の利用がなされている場合に留まらず、自己にかかわる保有個人データを利用してほしくないという意思は十分尊重されるべきである。
特に、個人情報取扱事業者が、保有個人データを利用して、継続的な勧誘を行い、結果、消費者被害が生じるという現状に鑑みれば、勧誘の前提となる自己にかかわる個人データの利用停止等は、消費者被害防止に必要不可欠である。
そこで、保有個人データの利用停止・消去を請求できる場合を、不適正取得と利用目的外利用以外についても拡大するとともに、第三者提供の停止の請求要件も緩和すべきである。もっともその際、個人情報の正当な利活用を害することのないよう十分な配慮が必要である。
この点、改正大綱においても、どの程度まで範囲を広げるべきかについて明確にはしていないが、個人の権利利益の侵害がある場合を念頭に、個人情報取扱事業者の保有個人データの利用停止・消去の請求、第三者提供の停止の請求に係る要件を緩和し、個人の権利の範囲を広げることしており、この点については、当連合会としても賛意を表するものである。
- 3 意見の趣旨2について
個人情報保護法28条1項の定める個人情報取扱事業者に対する開示請求権は、本人の保有個人データの内容のみが開示の対象とされており、当該保有個人データを当該事業者がどのように取得したかに関する情報が対象とされていない。
しかし、上記の利用停止等の実効性を確保するには、いかなる事業者が自己にかかわる個人データを保有し、提供しているのか、本人が把握することが前提として不可欠である。
したがって、事業者が確認・記録義務を課せられている第三者の提供時の記録及び第三者からの受領時の記録を本人が把握できるよう開示請求権の対象とすべきである。
この点については、改正大綱においても、第三者への提供時・第三者からの受領時の記録を開示対象とすべきとされており、当連合会としても同様の改正を求めるものである。
- 4 意見の趣旨3について
保有個人データの開示・訂正・利用停止・消去の請求権は、本人関与原則の下行使されることとされている上(個人情報保護法28~30条)、同請求権の行使に当たっては、請求される事業者は本人確認方法を定めることができるとされている(同法32条2項)。
そのため、同請求権を行使しようとする請求者は、自ら、個人情報保護委員会に届け出られている多数のオプトアウト届出事業者(オプトアウトによる個人情報の第三者提供を行う個人情報取扱事業者)に請求しなければならないこととなる上、本人確認に必要となる免許証の写しなどの本人確認情報を開示しなければならないことから、請求権行使の敷居が高く、実効性が確保されていない。特に、前記のとおり保有個人データを利用して勧誘がなされ消費者被害が蔓延している状況に鑑みれば、新たに本人確認情報を提供して利用停止等を求めることは現実的ではない。
したがって、何社もの個人情報取扱事業者に対して請求手続きを行わなければならない本人の負担を軽減し、かつ本人確認情報を個人情報取扱事業者に開示することなく利用停止等の請求権を行使できるようにするための仕組みを創設すべきである。
このような仕組みの具体例としては、本人に代わって開示請求権を代行する代理人団体又は代理制度を認め、本人確認については、当該団体又は代理人において行うという手法が考えられる。
なお、この制度における団体は、請求者が本人確認情報を安心して交付できる程度に信頼できる団体でなければならないことは論を俟たず、既存の団体をその候補とするのであれば、個人情報保護法47条1項に基づいて個人情報保護委員会の認定を受けた認定個人情報保護団体、独立行政法人国民生活センター法に基づく組織である国民生活センター、消費者契約法13条に基づき内閣総理大臣が認定した団体であり、同法の定める差止請求関係業務を行っている適格消費者団体といった団体が検討に値するものと思料する。