学生支援緊急給付金について,留学生に対する支給要件を公平なものに改めるとともに,支援対象者や対象機関を拡大することを求める理事長声明
2020年5月19日,文部科学省(以下「文科省」という。)は,新型コロナウイルス感染拡大の影響で経済的に困窮する大学生等を対象として,「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』(以下「給付金」という。)の創設を発表した。
給付金「申請の手引き」(以下「手引き」という。)及び「Q&A」によれば,「支給対象者の要件」(以下「支給要件」という。)として,新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い経済的に困窮していることを示す要件①~⑤のほか,「既存の支援制度を活用していること」との要件⑥が設けられており,留学生の場合には要件⑥に代えて「学業成績が優秀な者であること」等の要件⑦が設けられている。
また,手引きによれば,給付金の対象機関は,国内の大学,短期大学,高等専門学校,専門学校及び日本語教育機関とされている。
- 1 支援対象者を拡大すべきである
まず,支給要件⑥は,「既存の支援制度を活用していること」として,高等教育の修学支援新制度,又は第一種奨学金(無利子奨学金)の利用者であることを要件とする。そして,これらの支援制度を利用できるのは,日本人学生のほか,特別永住者や「永住者」,「定住者」等の在留資格を有する学生に限られている。すなわち,「家族滞在」や「外交」「公用」の在留資格を有する学生は要件を充たせないこととなる。
そもそも,経済的に困窮する大学生等に「学びの継続」の機会を保障するとの給付金の趣旨からすれば,支給要件①~⑤以外は不要であるはずである。また,日本が加盟している子どもの権利条約,社会権規約,人種差別撤廃条約は,日本に住むすべての子どもたちに国籍,民族などで差別することなく等しく学ぶ権利を保障することを求めている。
したがって,支給要件⑥は撤廃するか,少なくとも「家族滞在」や「外交」「公用」の在留資格を有する学生が給付金を受け得るよう要件を改めるべきである。
- 2 留学生に対する支給要件は公平を欠く
次に,支給要件⑥と⑦とを比較すると,以下の通りの不均衡がある。
例えば,支給要件⑥の予定する高等教育の修学支援新制度においても「学業などに係る要件」は存するが,採用時に「在学する大学等における学業成績について,GPA(平均成績)等が上位1/2以上であること」等を要件とするものであり,また,「出席率が5割以下など学修意欲が著しく低いと大学等が判断した場合」等でなければ打切りの対象とはならない。さらに,「学修計画書の提出を求め,学修の意欲や目的,将来の人生設計等が確認できること」等の学業成績以外の要件を充足することによることも予定されている。
他方で,支給要件⑦では,「前年度の成績評価係数が2.30以上であること」(報道によれば成績上位25~30%程度に当たる。),「1か月の出席率が8割以上であること」等とされており,支給要件⑥と比して,学業成績の要求水準は高く,また,学業成績以外の要件で代替する支給要件は設けられていない。
- この点について,「Q&A」は,支給要件⑦を考慮した上で大学等が特に必要と認める者は対象とすることにしているから,成績上位3割のみを対象とするものではないと説明する。
しかし,大学等が,設置認可の権限を有する所轄庁である文科省が定める要件を充足しない留学生等に対して給付金を支給することは困難である。
また,報道によれば,文科省は,支給要件⑦を設けた理由について,当初,「日本に将来貢献するような有為な人材に限る要件を定めた」と説明しており,これは支給要件⑦において学業成績以外で代替する要件が設けられていないことからも,国籍差別を容認する意図のもとにこの支給要件が定められているといわざるを得ない。
日本政府が2008年に「留学生30万人計画」を掲げて多数の留学生を受け入れる政策をとってきた経緯に鑑みても,自己の責任によらずに学修が困難になった者に対する救済は国籍や在留資格に関わらず等しく行うべきである。
したがって,留学生に対する支給要件⑦は,日本人学生等に対する支給要件⑥と同じく撤廃するか,これと同じく学業成績以外の代替要件を定める等公平なものに改めるべきである。
- 3 対象機関を拡大すべきである
さらに,手引きによれば,給付金の対象機関は,国内の大学,短期大学,高等専門学校,専門学校及び日本語教育機関とされている。
しかし,新型コロナウイルス感染拡大の影響で経済的に困窮しているのは,上記機関の学生に限られず,朝鮮大学校等の各種学校や外国大学日本校等の学生も同様である。
前述の国際人権諸条約の観点からも,朝鮮大学校等の各種学校や外国大学日本校等の学生も給付金の対象者に加えるべきである。
2020年(令和2年)6月4日
関東弁護士会連合会
理事長 伊藤 茂昭