「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」を新型コロナウイルス感染症に拡大適用するとともに制度が適用される対象債務を幅広く設定することを求める理事長声明
当連合会は,2020年4月27日,新型コロナウイルス感染拡大という未曽有の危機に直面している個人及び事業者に寄り添い,日本弁護士連合会や各地の弁護士会と連携を図りつつ,さまざまな問題の解決,課題の実現に関して,今後とも全力で取り組むことを理事長声明にて宣言し,対応にあたってきた。
現在,新型コロナウイルス感染症の影響を受けた個人債務者が抱える既往債務についても,自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下「被災ローン減免制度」という。)の対象とすべく関係当事者間において協議されているものと承知している。
この被災ローン減免制度は,自然災害の影響によって,住宅ローン等を借りている個人や事業性のローン等を借りている個人事業主の既往債務の負担を減免するための制度であり,自己破産等の法的整理と異なり,原則的に保証人への請求がない,個人信用情報に登録されない,登録支援専門家の手続支援を無料で受けられる,法定の差押え禁止財産や現預金500万円までを目安とした自由財産の保有が認められるなど,被災者にとり大きなメリットがある。
この点,新型コロナウイルス感染症の蔓延により既往債務の支払いが困難となった債務者も,その被害の性質や救済の必要性において自然災害の影響を受けた債務者と異なるところはないため,コロナ禍の影響を受けた債務者にも被災ローン減免制度が速やかに拡大適用されるべきである。
その上で,被災ローン減免制度においては,制度適用による減免の対象となる債務は,「災害救助法の適用がなされた対象災害の発生以前に負担していた債務」(以下「既往債務」という。)とされているところ,コロナ禍においては,狭義の自然災害と異なり,災害救助法の適用概念はなく,また感染症の蔓延は特定の日に生じるものでもない。
そして,コロナ禍は,狭義の自然災害と異なり,災害発生日に大きな被害を受け,徐々に復旧復興していくものではなく,感染拡大や緊急事態宣言の発令等に伴い,大きく経済活動が制限され,それに伴い収入減などの被害が徐々に大きくなっていく,今までに例のない災害である。
そのため,被災ローン減免制度の対象となる既往債務の内容を,感染症の蔓延の初期段階までに負担していた債務のように限定してしまうと,その後の収入減のよる生活困窮,事業資金の枯渇等により借入をし,また,従前の債務の借り換えを行った場合には,当該債務について制度利用による減免の効果を得ることが出来ず,コロナ禍において,ぎりぎりまで歯を食いしばって活動してきた債務者がかえって救済されない不合理を生じることになる。
そこで,被災ローン減免制度を新型コロナウイルス感染症に適用するにあたっては,同感染症による被害実態に即したものとすべく,被災ローン減免制度の適用対象となる既往債務については,コロナ禍で被害を受け,努力を続けた債務者が広く制度利用可能となるよう,柔軟かつ幅広く設定すべきである。
2020年(令和2年)8月20日
関東弁護士会連合会
理事長 伊藤 茂昭