関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2020年度(令和2年度) 声明

入管施設における新型コロナウイルス感染症の集団感染を受けて,被収容者の解放等を求める理事長声明

  1.   2021年2月25日付け出入国在留管理庁の発表によれば,132名の外国人を収容している東京出入国在留管理局において,被収容者55名,職員6名の合計61名が新型コロナウイルス感染症に集団感染したとされている。この感染者数は被収容者の4割にも及ぶ人数であり,同月15日に被収容者4名及び職員1名の陽性者が判明して以降,陽性者は増加を続けている。
     感染者に対する迅速かつ適切な医療措置及び収容施設内における感染拡大防止策の実施は必要不可欠であるが,この集団感染の背景にはそもそも国際法違反の無期限収容が存在する。
     これまで当連合会は,国際法に違反する外国人に対する無期限収容を廃止すべきであると繰り返し強く主張し,その解放を求めてきた(当連合会2021年1月27日付け「入管法改定案に強く反対するとともに,国際法を遵守した抜本的な入管法改正を求める理事長声明」等多数)。
     そして,新型コロナウイルスが世界中に蔓延するなか,出入国在留管理庁は,「入管施設における新型コロナウイルス感染症対策マニュアル(第3版)」を策定した。同マニュアルでは感染防止策として「各室の換気を最大限励行」(同マニュアル51頁)することが求められているが,支援団体には,被収容者から換気が不十分である施設があるとの訴えがなされている。また,支援団体には,集団感染判明後は感染蔓延防止のために徹底した消毒が不可欠である(同マニュアル48頁,被収容者処遇規則第32条)にも関わらず,被収容者が電話機等の設備・備品に対する消毒を要求しても職員がそれに応じない施設もあるという訴えがなされているとのことである。このような状況は同マニュアルが遵守されていないことに加えて,人身の自由を制限する収容施設としての意識及び対応能力が欠如している可能性を懸念せざるを得ない。
     同マニュアル44頁にもあるとおり,新型コロナウイルスは施設内で自然発生するものではないところ,被収容者はその自由が制限されており,感染症に対して自ら自衛することは不可能な状況にある。そのような中で集団感染が発生したことは被収容者やその家族にとり,現在の状況及び今後の収容の安全性に対して多大な危惧及び恐怖を抱かずにはいられないものであることは想像に難くない。
     そして,被収容者の中には家族等信頼できる身元保証人がおり,逃亡のおそれのない者も多数いることから,これらの者を収容しておく必要性も相当性もないことは明白である。国際法遵守及び人身の自由に加えて,感染拡大防止の観点からも,陰性が確認された者から順次,早期の仮放免許可や,(再審による場合を含む)在留特別許可によって,収容施設からの解放を実施すべきである。
     また,現時点においてもさまざまな事情により帰国困難な者がいることを踏まえて,被収容者の解放後の生活を維持するための対策は不可欠であることから,その生活保障のために就労の許可や公的支援を受けることができるような施策の実施を求める(当連合会2021年1月27日付け「新型コロナウイルス感染症の影響で帰国困難となった外国人に対する公的支援を直ちに実施することを求める理事長声明」参照)。
     奇しくも長期収容及び送還忌避対策のための入管法「改正」案が国会に提出されようとしているが,政府法案は,無期限収容等に対する抜本的な解決案になっていないことは上記理事長声明において当連合会が指摘してきたところである。東京出入国在留管理局において,最初の感染者の判明から10日が経過しても感染者が増加を続け被収容者の4割を超過した事実からは,収容施設が自らが策定したマニュアルを履行できず,またマニュアルが想定した事態を超えて感染症対策を適切に実施することができない状態が発生していることが強く懸念され,そのような収容施設での収容を継続すること自体が人権侵害である。
     よって,当連合会は,新型コロナウイルス感染症の感染が判明した者に対する迅速かつ適切な医療的措置の実施,陰性が確認された者で逃亡のおそれのない者に対する仮放免許可や在留特別許可による収容施設からの解放を行い,被仮放免者等が生活するための就労許可や公的支援が受けられるような対策を実施することを求める。

 2021年(令和3年)2月26日

関東弁護士会連合会 
 理事長 伊藤 茂昭

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