関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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2020年度(令和2年度) 意見書

いわゆる「販売預託商法」に関する法規制強化を求める意見書

2020年(令和2年)4月9日
関東弁護士会連合会

第1 意見の趣旨

  1. 1 消費者庁は、いわゆる「販売預託商法」1の法規制について、内閣府消費者委員会の2019年8月30日付け「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての消費者委員会意見」(以下「消費者委員会意見」という。)の具体的提言内容を反映させるのみならず、被害実態に鑑みた法規制を行うべきである。
     具体的には、①登録制による参入規制、②登録後の恒常的・継続的な業務実態把握のための制度、③投資取引という実態に即した規制として、禁止行為の法定及び元本保証の禁止、広告規制、行為規制、不招請勧誘の禁止も併せて導入するよう、速やかに新法の制定ないしは特定商品等の預託等取引契約に関する法律(以下「預託法」という。)の改正等の措置を講ずるべきである。
  2. 2 消費者庁は、行政による破産申立権につき検討を行い、販売預託商法に対する規制として、消費者庁による破産申立制度を導入するよう検討すべきである。
  3. 3 国は、上記改正に併せて、同新法ないしは改正した預託法の定める禁止行為及び無登録営業の各罰条該当行為につき、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織犯罪処罰法」という。)の犯罪収益没収規定(同法13条1項)及び犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律の被害回復給付金の支給規定(同法3条)の適用対象とするよう立法措置を講ずるべきである。
1「物品・権利(以下「物品等」という。)を販売すると同時に,当該商品等を預かり,自ら運用する,又は第三者(ユーザー)に貸し出す等の事業を行うなどして,配当等により消費者に利益を還元したり,契約期間の満了時に物品等を一定の価格で買い取る取引」と定義されている(本文中に引用した消費者委員会の建議1頁)。

第2 意見の理由

  1. 1 意見の趣旨1の参入規制について
     「販売預託商法」とは、販売業者が消費者に物品・権利(以下「物品等」という。)を売却して代金を支払わせると同時に、その物品等を販売業者又は関連業者に預託又は管理(以下「預託等」という。)させることによって、預託等の期間中に預託等を受けた事業者が第三者に貸し出す事業等を行うことによって生じた利益を消費者に還元し、預託等の期間終了後には物品等を返還し、あるいは一定の価格で買い取る取引であるが、販売した物品等が消費者に引き渡されることはないため、物品等が実在するかどうかを消費者が確認することができない。また、事業者が預託等を受けた物品等を使って、実際に収益事業を行っているかどうか、収益事業によって消費者に約束した配当金等の金銭を支払うことができるほどの収益を上げられるかどうかについては、何ら検証されることがない。2019年8月30日付け内閣府消費者委員会の「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての建議」の指摘のとおり、豊田商事事件、安愚楽牧場事件、ジャパンライフ事件に代表される悪質な「販売預託商法」においては、①物品等が存在しない(物品等の欠缺)、②当該物品等を運用する事業の実態がなかった(事業実態の欠缺)のであって、預託法が予定していない取引により多数の消費者被害が生じている。このような取引を行う事業者を排除する最も効果的な手段として参入規制をすべきである。
     参入時において、預託物品等の保有・運用方法や利益配当の見込みについての合理的な根拠資料を添付した事業計画書を提出させた上で、参入を認めるかどうかを審査し、問題があれば参入を認めないという制度にすれば、少なくとも、参入時において、事業の実現可能性・持続可能性の観点から疑義のある事業を行おうとする事業者や物品等を運用して得られる収益の見込みや利益配当見込みについて合理的根拠を示せない事業者を排除することができる。そのためには、登録制の導入が必要不可欠である。なお、届出制では要件審査が不可能となるため、参入規制を導入する意味が全くなくなるので、当連合会は、届出制には反対である。
     さらに、登録制の場合は、違反行為が発覚した場合には、登録取消しによって事業継続そのものを停止させることが可能となる。後述するとおり、事業者には、会計監査人による監査を受け、適正意見を得ることを事業継続の要件として要求することとして、財務書類の記載内容の適切性・公正性を担保することが必要であると考えているが、会計監査人による監査を受けない事業者や適正意見を得られなかった事業者について、最終的に登録の取消しを行うことができれば、以後の被害の発生を防止することができる。
     この点、消費者庁は、2019年8月22日付け「いわゆる『販売預託商法』に関する消費者問題についての消費者委員会意見について」において、参入規制をしても無許可営業が横行するおそれがある、違反者に対する制裁が行政処分中心となり現行法と変わらない、悪質な業者が規制から逃れる可能性があるなどの理由で、参入規制をすることについて極めて消極的な意見を述べている。しかし、悪質な業者が規制から逃れる可能性があるから規制をしないというのは本末転倒である。登録制にすれば、消費者が取引をしようとする業者が登録業者かどうかを容易に判別できるし、無登録営業については罰則で禁じれば、無登録営業が横行するおそれは激減する。さらに、無登録業者が未公開有価証券の売付け等を行った場合には、対象契約を原則として無効としているところ(金融商品取引法171条の2第1項)、販売預託商法についても同様に、無登録業者との取引を無効にすれば、少なくとも、無登録業者が公然と営業を行うことは困難となるので、今までのような大規模な被害は十分に防ぐことができる。さらに、審査及び監督に要する行政コストの問題も、販売預託商法が、極めて多額の消費者被害を生み出し、国民経済の多大な損失をもたらしてきた過去の事例に鑑みれば、他の登録を要する業種・取引に比しても、劣後させる理由がない。
     以上から、「販売預託商法」は登録制にすべきである。
  2. 2 意見の趣旨1の恒常的・継続的な業務実態把握のための制度について
     販売預託商法について参入規制をしたとしても、引き続き、預託物品等の保有・運用実態や事業者の収支状況、利益配当状況についての審査をしなければ、参入規制の意味がなくなる。特に、販売預託商法は、預託物品等を運用する事業を行っていなくても、販売預託商法を続ける限り、物品等の代金名目で支払われた金銭を原資に配当を行うことができ、表面上は、物品等を運用して事業が行われているかのように見えるため、消費者自身が被害に気づきにくい。そして、消費者が被害に気づいた時は、既に配当が止まり、事業者が破綻に瀕しており被害回復は極めて困難である。従って、監督官庁である消費者庁は、事業者に対し、実際に、預託物品等を運用して事業を行っているのかどうか、その事業によって、どれだけの利益が出ているのかについて、事業年度ごとに業務及び財産状況についての事業報告書を提出させ、預託物品等の保有・運用実態や事業者の収支状況、利益配当見込みについての合理的根拠資料の提出も義務付け、継続的に監視監督を行うべきである。そして、事業者よりこれらの報告がされない場合には、消費者庁が立ち入り調査権限を行使できるようにすべきである。
     事業者が期限までに資料を提出しない、あるいは、提出した資料が虚偽である場合には、消費者庁が資料の提出命令、業務改善命令を出せるようにするほか、業務停止命令や登録取消しの権限も付与することが必要不可欠である。
     また、業務及び財産状況についての事業報告書の提出を義務付けたとしても、その記載内容が正しいかどうかを消費者庁だけで判断することは困難であるから、公認会計士による監査を義務付けるべきである。
  3. 3 意見の趣旨1の投資取引という実態に即した規制について
    1. (1)禁止行為の法定、元本保証の禁止について
       消費者委員会意見は、ア)「販売預託商法」のうち、①物品等が存在しない場合、②物品等の数量が預託されているはずの数量よりも著しく少ない場合、③物品等の販売価格が実際の価値に比べて著しく高額であるなど形式的に物品等を介在させている場合の3類型の取引については罰則により禁止し、その契約が民事的にも無効であることを定めること、イ)販売預託契約の締結に際し、将来、事業者が物品等の買取りを行う場合に、販売代金の全額又はこれを超える金額に相当する金銭を支払うべき旨を示すこと(元本保証)の禁止を求めているところ、ア)については、物品等の欠缺という客観的な事実状態に基づく行為規制・法執行ができるので、当連合会もその意見に賛成である。イ)については、販売預託商法の実質が投資取引であることから、元本保証を禁止することに賛成であるが、ジャパンライフ事件などにみられるように、将来における物品等の買取り価格と預託等の期間中の配当利益を併せて元本額以上の支払いを保証するという形態で実質的元本保証を約束することもあり、出資法はこのような場合でも適用の余地があるところ、消費者委員会意見の定義では、現行法制よりも限定されてしまうので、禁止される実質的元本保証の定義には、物品等買取りの際の元本保証のみならず、物品等の買取り価格と預託等の期間中の配当利益を併せて元本額以上を保証する場合も含めるべきである。
    2. (2)広告規制について
       過去の販売預託商法被害事例では、雑誌広告等で宣伝活動を展開していたものが多い。また、スマートフォン等の個人端末の利用拡大や利用データに基づくターゲティング広告の発達等により、インターネットを利用した様々な利殖商法被害が横行している。かかる現状を踏まえれば、投資取引である販売預託商法については広告規制を加えるべきである。規制の内容は、事業者の運用や信用状態によっては、約束した利益配当ができないことを明瞭に表示すること、元本や利回り保証についての表示の禁止、虚偽広告の禁止などの詳細な規制内容を定める必要がある。
    3. (3)行為規制について
       実態が投資取引であることから、投資取引の一般原則である適合性原則を導入すべきであるし、取引の内容を消費者が理解できるように事業者に説明義務を課すべきである。すなわち、このような投資に適する消費者に対してのみ、取引の仕組みやリスク要因を十分に説明して理解をさせた上でしか取引を認めるべきではない。
       投資取引である以上、断定的判断の提供は禁止される。これらの規制については民事効を付与することにより実効性を担保すべきである。
    4. (4)不招請勧誘の禁止
       事業者が販売した物品等の預託等を受けて運用して配当し、契約期間満了時に買い戻すという内容の販売預託取引は、実現可能性・持続可能性に乏しい事業スキームであり、いずれ破綻するものであったとしても、小さいリスクで高利益還元を確実に受けることができるものと誤信し、取引に引き込まれやすく、実際にも深刻な被害を出し続けてきた。こうした経緯に鑑み、不招請の勧誘を禁止すべきである。
       禁止する勧誘方法としては、電話・訪問だけでなく、メールはもちろん、ターゲティング広告なども幅広く含めるべきである。
  4. 4 意見の趣旨2について
     消費者庁が上記のとおり、恒常的・継続的に事業者からの報告を求めた結果、事業者の財産が債務超過に陥っていることが明らかになった場合、事業者による自己破産や債権者破産の申し立てがされなければ、事業者の財産流出を食い止めることができない。事業者による自己破産が申立てられた時には、既に事業者の財産がほぼなくなっているし、債権者自ら破産申し立てを行うことが困難であることはジャパンライフの例からも明らかである。
     ところで、行政の破産申立権限については、消費者庁に置かれた「消費者の財産被害に係る行政手法研究会」が平成25年6月に「行政による経済的不利益賦課制度及び財産の隠匿・散逸防止策について」を取りまとめていて、そこでは、消費者庁に破産申立権限を付与することとした場合に適切な事案として、以下の3つの要件を満たす場合をあげている。
     ①システムとして違法又は破綻必至であって、同一の事業者による同種の取引で、多数の消費者に現に被害が発生している事案で
     ②消費者自らが当該事業者の破産の申立てを行うことが期待することができない場合であって
     ③監督官庁が存在せず、監督官庁による是正措置が期待できないこと
     預託法は、消費者庁が監督官庁であるから、①、②の要件を満たす販売預託商法の被害事案は、消費者庁に破産申立権限を付与することが適切である。
     消費者庁は、意見の趣旨1の法改正がされた場合、事業者に定期的に事業報告をさせ、公認会計士の監査意見の付いた決算書類を確認することができる立場にある。債務超過の事業者に事業を継続させれば、債務超過を解消すべく、不適切な勧誘を行うことは明らかであるし、事業収益から配当金を支払い続けることができないのであれば、事業を継続することで債務超過を拡大させるだけであるから、早急に消費者庁が破産申し立てを行い、事業者の事業活動を停止させることによってこれ以上の被害を防ぐとともに、事業者の財産流出も食い止め、残余財産で少しでも被害回復を行わせるべきである。
  5. 5 意見の趣旨3について
     消費者委員会意見は、被害の回復を制度的に担保するため、悪質な類型の「販売預託商法」に係る事業者の犯罪収益を没収し、その上で、被害回復につなげる仕組みを導入すべきであると述べている。当連合会は、物品等の欠缺等の3類型の取引を罰則により禁止し、また、販売預託商法について登録制を導入した上で無登録営業を罰則により禁止すべきであると考えているが、これらを組織犯罪処罰法の適用対象とすることにより、被害回復給付支給制度が適用されれば、被害回復により直接的に資する。特に、販売預託商法の被害者には高齢者が多く、自ら被害回復のために行動をとることを期待することは難しいので、被害回復給付支給制度を適用し、国が積極的に被害回復を図るべきであると考える。

以上

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