関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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2020年度(令和2年度) 意見書

収容・送還に関する専門部会提言に強く反対する意見書

2020年(令和2年)7月27日
関東弁護士会連合会

  2019年10月に,法務大臣の私的懇談会である「第7次出入国管理政策懇談会」の下に「収容・送還に関する専門部会」が設置され,同専門部会が2020年6月15日に取りまとめた「送還忌避・長期収容問題の解決に向けた提言」(以下「本件提言」という。)が,同年7月14日,上記懇談会から法務大臣に提出された。今秋の臨時国会では,本件提言に基づく法案が提出され,出入国管理及び難民認定法の改正が企図されているといわれている。
 そこで,当連合会としては,本件提言に強く反対する立場から意見を述べる。

第1 意見の趣旨

  1. 1 長期収容問題の解決にあたっては,①在留特別許可制度の厳格に過ぎる運用,②難民審査制度の不備,③司法審査なき無期限収容などの入管・難民制度の不備をこそ,まず解消すべきである。
  2. 2 本件提言中,以下の3点の法制化については,絶対に反対する。
     ① 退去強制拒否罪の創設
     ② 一定の難民認定申請者から「送還停止効」を外す措置の導入
     ③ 仮放免者逃亡罪の創設

第2 意見の理由

  1. 1 はじめに
     そもそも,「収容・送還に関する専門部会」が設置されたのは,3年4年と続く苛烈な無期限長期収容と過酷な処遇環境に耐えかねた多数の被収容者が全国で命懸けのハンストを行い,2019年6月に大村入国管理センターで餓死者まで出た事件が契機であった。当連合会としても,長期収容問題の解決を検討すること自体には異存は無い。
     しかし,長期収容問題は,①在留特別許可制度の厳格に過ぎる運用,②難民審査制度の不備,③司法審査なき無期限収容などの入管・難民制度の不備にも起因する。
     具体的には,①非正規滞在者の内,日本人の配偶者・実子ら/正規滞在の配偶者・実子らと家族生活を営んでいる者,日本で生まれ育って日本語以外できず祖国とされる国への定着が望めない者,或いは20-30年日本に生活してきたため祖国との紐帯が完全に失われており祖国での再定住が現実的でない者たち等の帰国できない深刻な事情を抱える者であっても,近時,在留特別許可がなされていない者が少なくない。
     また,②日本は,難民の地位に関する条約・議定書に加入していながら,その審査制度の不備は国内外から繰り返し批判されると共に,「難民鎖国国家」とも評価されてきた。昨年段階でも難民認定率が0.5%を切る日本は,実質的に殆ど全ての難民認定申請者に保護を与えることを事実上拒否するも同然の態で今日に至っている。
     更に,③上記餓死事件後の出入国在留管理庁の対応は,心身がボロボロに疲弊した被収容者を2週間程度仮放免して次々と再収容していくという「見せしめ」と評価され,また「人間扱いしていない」と抗議されても仕方のない強硬措置を採り,その犠牲になった人々が精神疾患を発症する等の現象が広く報道されている。
     これらの入管・難民制度の不備が,退去強制令書を発付されても帰れない深刻な事情を持った人々を生み,その長期収容と被収容者への非人間的対応に繋がっているのだから,長期収容問題を解決しようとすれば,まずは,これらの不備を解消すべきである。
     にもかかわらず,本件提言は,これらの入管・難民制度の不備を解消するより先に,以下述べる厳罰化や難民認定申請者の送還促進を進めようとしており,その基本的な姿勢に強く反対する。
  2. 2 退去強制拒否罪の創設について
     本件提言29頁は,被退去強制者に渡航文書の発給申請等や本邦からの退去を命ずる制度及び命令違反に対する罰則(退去強制拒否罪)の創設を検討すべきとする。
     しかしながら,退去強制拒否罪の創設は,前項で述べた通り,入管・難民制度の不備の下で,退去強制令書を発付されても帰れない深刻な事情を持った人々を,改めて「犯罪者」にすることを意味している。
     更に,今回の法改正で決して看過できない点は,帰国できない深刻な事情を持った人々を支援する市民の支援活動や弁護士の弁護活動も,退去強制拒否罪の「共犯」として「犯罪」化される高度の危険性にある。
     不備の多い入管・難民制度に疑問を抱き,被退去強制者の苦境に心を寄せてきた市民の支援活動が,近年,世代を超えて社会に広がる中,本件提言に基づいた「退去強制拒否罪」の創設は,これらの支援活動をも同時に「共犯(幇助犯・教唆犯)」として罪に問うことを可能にするため,結果として,支援活動を委縮させ,壊滅に導く蓋然性すらある。従って,退去強制拒否罪の創設は,被退去強制者本人への締め付けを強くすることに加え,日本社会に根付き始めた,共生を望む市民による支援活動潰し・封じ込めに直結する法改悪といえる。
     加えて,被退去強制者を支援・弁護する弁護士もまた,退去強制拒否罪の「共犯(幇助犯・教唆犯)」を問われて犯罪者とされる現実的な危険性があり,この分野からの撤退を余儀なくされるか,さもなくば,起訴される危険を常に覚悟しながら業務を行わなければならない現実的な危険がある。
     このように,退去強制拒否罪の創設は,帰国できない深刻な事情を持った被退去強制者本人に「犯罪者」とのレッテル貼りすることで彼らを更に追い詰める結果となるのみならず,支援者・弁護士についても,一網打尽に罪を問うことを可能とするものである。これを許せば,被退去強制者は支援を求める声を挙げることすら許されず,物質的・精神的支援,法的支援からも遮断されるということになりかねない。
     このような罰則の創設は,日本を,国際人権法・国際難民法の遵守を旨とする国際社会から数世紀逆行させるものであり,絶対に容認できない。
  3. 3 一定の難民申請者から「送還停止効」を外す措置の導入について
     本件提言34頁は,難民認定申請手続きの審査中には強制送還されない,いわゆる送還停止効(出入国管理及び難民認定法61条の2の6)の定めについて,再度の難民認定申請者については,一定の例外を設けることを検討するよう求めている。
     しかし,前述の通り,難民認定制度の不備の下,迫害を逃れ「不幸にして」日本に辿り着いた難民認定申請者は,送還停止効の定め故に,日本にあっては得ることがほぼ不可能である「難民認定」をされずとも,辛うじて(複数回申請の場合も含め)審査期間中は,本国での迫害に直面する危険を先延ばしにしてきた現状がある。かような現状のもとで,2度目以降の難民認定申請中の者らにつき,送還停止効を外して送還を可能にすることは,迫害の待つ只中に人間を送還する危険に直結する。
     2度目以降の難民認定申請で,行政手続段階若しくは勝訴の結果,難民認定を得た実例は,最近のケースも含めて相当数存在する。再度の難民認定申請者を手続中に送還出来るように制度改正することの危険性が,これらの事実からも明らかである。
     日本の難民保護政策にあっては,国際難民法遵守の見地から,適正な難民審査制度を構築することこそ最優先の急務であることが明らかであるにもかかわらず,その問題を棚上げしたまま,難民認定申請者の「命綱」である送還停止効の解除を行うことは,事実上,あらゆる意味での難民保護を日本国家の政策として完全に放擲する行為であり,全く容認できない。
  4. 4 仮放免者逃亡罪の創設について
     本件提言54頁は,仮放免された者の逃亡等の行為に対する罰則(仮放免逃亡罪)の創設を検討する。
     しかしながら,逃亡した被仮放免者に対しては,保証金の没収などの措置が既に取られており,新たな刑事罰を創設する必要性を示す立法事実が示されていない。
     また,そもそも,仮放免の運用方針自体が明確にならないまま,厳罰化を実施することは,再び餓死事件の悲劇を繰り返すことになりかねない。改革すべきは厳罰化の方向ではなく仮放免許可の適正な運用であることは明らかである。
     更に,被仮放免者が仮に逃亡した場合,仮放免許可申請にかかわり,或いは,人道的見地から身元保証人となった支援者や弁護士が,「仮放免逃亡罪の共犯」として罪に問われるという退去強制拒否罪と同様の危険もある。
     したがって,仮放免者逃亡罪の創設についても容認できない。
  5. 5 さいごに
     多くの難民認定申請者や非正規滞在者が人として扱われていない現実が,残念ながら,日本社会にはある。人が人として守られず,人として扱われない社会は,その社会に住まう全ての市民にとっての不幸である。そして,このような社会は,海外に暮らす市民から,居住する場所としても,働き先としても,家族を作り友情を育む地としても選ばれず,忌避されていく。
     日本社会が市民を不幸にしながら海外から忌避され,孤立化して萎んでいく未来を回避するためにも,当連合会は,あるべき姿から逆走していく法改正に断固として反対する。

以上

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