関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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2021年度(令和3年度) 声明

少年法等の一部を改正する法律案の内容に強く反対し,廃案を求める理事長声明

 政府は,2021年2月19日に「少年法等の一部を改正する法律案」(以下「改正案」という。)を閣議決定し,通常国会に提出した。
 改正案は,以下に詳述する通り,立法事実がないうえに,少年を取り巻く貧困や虐待という社会の問題を棚上げしつつ,実質的に18・19歳を現行少年法の適用から外して刑罰化及び厳罰化するもので,少年法の理念に反する。国連子どもの権利委員会の第4回・第5回日本政府報告に関する総括所見は,日本の少年司法の運用につき「深刻な懸念」を表明したが,改正案はこの懸念を払拭するどころか,さらに深刻化させるものであって,廃案を求める。

  1. 1  18・19歳の検挙数は大幅に減少しており刑罰化及び厳罰化の必要性がないこと
     現行少年法は有効に機能している。刑法犯少年の検挙者数は20年来連続的に減少し,1989年の165,053人に比べて,2019年には12.0%の19,914人にまで減少している。少年人口1,000人当たりの発生数で見ても,1989年の13.8人に比べて,2019年には21.0%の2.9人にまで減少した。この傾向は18・19歳の少年についても同様で,1989年の22,028人に比べ,2019年には29.2%の6,430人にまで減少した。殺人・強盗・放火・強制性交等のいわゆる凶悪犯少年合計は,1989年には1,225件であったが,2019年は457件(37.3%)に減少している(警察白書平成2年度版表4-1,4-3,同令和2年度版図表2-81,2-83)。このように,統計的にも18・19歳について特別な措置を講じる必要性がないことは明らかである。
  2. 2  少年法改正案が少年法の理念に反する問題点を抱えていること
     上記のとおり,改正案はその立法事実がないうえ,以下の問題点が存するため廃案とすべきである。
    1. (1)刑事処分にするための検察官送致事件の対象範囲を拡大し個別処遇を後退させるもので,少年の健全な育成を期するという少年法の目的に反すること
       改正案は,刑事処分にするための検察官送致(逆送)の対象範囲を「死刑,無期又は短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件」まで拡大し,逆送の対象件数を大幅に増加させるものである。18・19歳は再非行の場合も多く,非行に至るまでに虐待や貧困などの困難な事情を抱えている場合が多い。少年法は,個々の少年をとりまく環境等の事情をも総合的に調査し,要保護性を踏まえて処遇する「個別処遇」をすることで有効に機能してきた。これに対し,改正案は一律逆送の範囲を広げ,個別処遇の機能を減退させるもので,少年法の目的である「健全な育成を期」すこと(第1条)に反する。
    2. (2)「犯情主義」の導入により要保護性の判断を後退させること
       「犯情」は,行った犯罪行為の重さに応じた刑罰を科すという考え方で,成人の量刑を基礎づける概念である。これに対し,少年法の保護処分は,非行事実を踏まえたうえで要保護性を基準として決定される。改正案は,「犯情」を書き込むことにより,要保護性の検討を後退させるもので,少年法の理念に反する。
    3. (3)検察官送致決定後は少年の健全な育成を確保する規定の適用がないこと
       改正案は,18・19歳の少年について検察官送致の決定がされた後の刑事事件の特例に関する規定(不定期刑(52条)等)は原則適用しないとする。
       また,前科があると資格取得等に際して制限を受ける場合があるところ,少年法は,資格制限排除規定(60条)を設けているが,改正案はこの適用を除外しており,少年の更生の機会を減少させる。
    4. (4)推知報道の禁止を解除することにより更生が困難になること
       少年法61条は,少年及びその家族のプライバシー保護を通じて少年の更生を図るために,推知報道を禁止している。これが解除されれば,学校や職場から退学,退職を強いられたり,実名等がインターネット上に長期に残ったりする危険性が増し,社会復帰が阻害される。
    5. (5)外国籍少年の退去強制の可能性が高まり,重大な結果を招来すること
       改正案により「原則逆送」の対象事件が短期1年以上に拡大されると,外国籍少年は逆送により退去強制事由となる可能性が高まる。政府は,2021年2月19日,出入国管理及び難民認定法及び関連法の改正案を国会に提出した。同法案は「無期若しくは1年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者」は原則として在留特別許可をしないとする。両法案を併せると,外国籍少年は,生活の基盤が日本にある場合であっても退去強制の可能性がより高まる。
       このような重大な結果を招来する法改正であるにもかかわらず,外国籍少年に関する議論は全くなされていない。日本に生活基盤を有する外国籍少年にとって退去強制令書が発付されることは人生を大きく左右する事態である。国際社会,多文化共生社会の実現の見地にも反する。少年法は,少年の健全な育成,更生を目的とするものであり,外国籍少年にも健全な育成,更生の機会が確保されるべきである。
  3. 3  結び
     改正案は,子どもの権利及び子どもの最善の利益の観点,少年法の理念,多文化共生社会の理念の踏まえた退去強制制度のあり方,日本の刑事政策全般のあり方に関する根本的な議論がないまま,刑罰化及び厳罰化をするものであって,到底受け入れられるものではない。
     したがって,当連合会は,改正案の廃案を求めるものである。

2021年(令和3年)4月30日

関東弁護士会連合会   
理事長 海老原 夕 美

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