関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2021年度(令和3年度) 大会決議

関東弁護士会連合会において男女共同参画を推進する決議

 日本弁護士連合会は,2002年5月24日に開催された第53回定期総会において「弁護士会における男女共同参画の実現なくして男女共同参画社会の実現はありえない」と宣明してから,これまでの間に,日本弁護士連合会男女共同参画施策基本大綱の制定,男女共同参画の実現をめざす決議の採択,男女共同参画推進本部の設置,基本計画の制定を行ってきた。
 2018年1月19日の第三次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画(以下,「日弁連第三次基本計画」という。)において,男女共同参画推進体制の構築・整備は,なお重点項目として取り上げられている。
 関東弁護士会連合会(以下,「当連合会」という。)は,2018年4月1日に「男女共同参画及び両性の平等推進に関する委員会」を設置し,当連合会を構成する各弁護士会(以下「各弁護士会」という。)から委員を選出して,当連合会及び各弁護士会における男女共同参画推進状況について情報を共有している。
 しかしながら,日弁連第三次基本計画においても触れられているとおり,「男女共同参画推進本部」(名称を問わず男女共同参画推進について協議する委員会を含む。)を置く弁護士会は全国でもいまだ少数にとどまっており,各弁護士会においても半数に満たない。
 昨年来の新型コロナウイルスによる感染症拡大は,市民生活に大きな打撃を与えた。労働者が職を失う,自死が増加するといった社会的影響は,男性よりも女性に偏っているという状況にある。かかる社会情勢は,新型コロナウイルスによる感染症拡大に特化した事象ではなく,例えば雇用の調整弁とされやすい非正規雇用労働者に占める女性の割合が高いといった,社会内に従前から存在した性別による偏りが顕在化したものということができる。このような現状にあって,当連合会及び各弁護士会も,法的支援に取り組んできたところであるが,弁護士,弁護士会において男女共同参画が推進されていなければ,市民の信頼を真の意味で得ることは困難である。
 弁護士という職業が,あらゆる人々の相談を受け入れ,権利を擁護していくものである以上,弁護士会の組織においても,多様な意見を反映ができる環境整備が必要であり,かつ急務であることをあらためて認識する必要がある。
 そこで,当連合会においても,多様な視点から種々の施策を検討し,もって男女共同参画の推進に寄与するため,下記の活動指針を実現していくことをここに決議する。

  1. 1 当連合会及び各弁護士会における男女共同参画を推進するため,施策の取組状況について情報を共有する。
  2. 2 当連合会及び各弁護士会の役員,委員会の委員及び役職者,各弁護士会から輩出する日本弁護士連合会の役員について,積極的に女性会員を登用するよう努めつつ,女性会員の役員,役職就任を容易にするための支援策やポジティブアクションの導入を検討し,日弁連,当連合会及び各弁護士会における施策・方針決定過程への女性会員の参画を拡大する。
  3. 3 セクシュアルハラスメント,パワーハラスメント等,差別的な取扱いを防止するための施策を講ずる。
  4. 4 男女共同参画推進に関する研修,啓発活動及び職務と家庭の両立支援に努める。
  5. 5 各弁護士会における弁護士に占める女性割合の拡大を目指す。

 以上のとおり決議する。

2021年(令和3年)9月24日
関東弁護士会連合会

提案理由

  1. 1 当連合会におけるこれまでの取り組み
     当連合会は,日弁連第三次基本計画における指摘もふまえ,当連合会及び各弁護士会における男女共同参画推進を目的とし,2018年4月1日,男女共同参画及び両性の平等推進に関する委員会を設置し,各弁護士会から2名以上の委員を選任して,これまで各弁護士会の男女共同参画推進の取組状況について情報を共有し,セクシュアルハラスメント防止のための研修教材を作成して倫理研修への採用を実現する等,男女共同参画を推進するための活動を行ってきた。
     ことに,情報共有に関しては,各弁護士会の男女共同参画推進状況について,①弁護士会における男女共同参画推進体制,②弁護士会の施策方針決定過程への参画,③就職・処遇における男女平等確保,差別的取扱いの防止,④仕事と家庭の両立支援,⑤研修・啓発活動,⑥両性の平等に関する活動の6項目につき,当連合会会報において周知してきた。
  2. 2 政府における目標設定状況と現状,世界での評価
     1999年に男女共同参画社会基本法が制定され,その前文において男女共同参画社会の実現を企図してから,早20年以上が経過した。2020年12月25日に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画では,2030年代には,誰もが性別を意識することなく活躍でき,指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会になることを目指すとの目標が設定された。
     もっとも,同目標は,従前の「202030目標」,つまり社会のあらゆる分野において,2020年までに,指導的地位に女性が占める割合が,少なくとも30%程度になるよう期待する,との目標が達成されていないまま,改めて設定されたものであることは忘れてはならない。いまだに,日本における衆議院の女性議員比率は9.9%であり,管理的職業従事者(就業者のうち会社役員,企業の課長職相当以上,管理的公務員)に占める女性の割合は14.8%にすぎないのである。
     こうした性別による偏りは,昨年来の新型コロナウイルスによる感染症拡大によって,非正規雇用の労働者が職を失ったり,自死が増加したりといった社会的影響が男性よりも女性に偏るという形でも顕在化している。
     近年世界で注目されている世界経済フォーラム発表の「ジェンダー・ギャップ・レポート2021」(2020年時点での各国への調査結果)によっても,日本は156か国中120位という結果であり,この順位は東アジア及び太平洋地域の国において最も低い。日本が評価されたのは初等教育におけるジェンダー格差がなくなったこと程度であり,改善の余地がある事項として政治参加,経済参加が挙げられており,過去50年に女性の首相がいないことも指摘されている状況にある。
  3. 3 当連合会としての今後の課題と目標
    1. (1)情報共有を通じての男女共同参画推進体制の整備
       当連合会は,13の弁護士会からなり,差別的取扱いを防止するための規則制定や,出産・育児時における会費免除規定の設定等については,概ね一致した対応をとっているものの,男女共同参画推進基本計画策定の有無をはじめとして,まだ各弁護士会における男女共同参画推進施策取組状況については差異がある。
       この差異は,各弁護士会の会員の人数,男女比,男女共同参画推進に関する知見の多寡,各弁護士会がおかれた経済状況等の様々な要因によって生じているものと考えられるが,少なくとも先進的な取組を行っている弁護士会の情報を共有することにより,他の各弁護士会でも同様の取組を検討することができ,より男女共同参画を推進することができる。
       したがって,当連合会は,引き続き当連合会及び各弁護士会における男女共同参画推進取組状況についての情報共有を通じ,男女共同参画推進体制を整備していく。
    2. (2)施策・方針決定過程への女性会員の参画の拡大
       日弁連が推進する男女共同参画推進体制の整備は,当連合会及び各弁護士会内における意思決定において,多様な意見を反映することを可能にするものであり,弁護士会の組織としての活動の適正化につながっていくことにもつながる。
       もっとも,「組織内におけるある考え方が組織意見として反映されるためには,経験的に同じ意見を持つ30%程度の構成員が必要である」とする見解(この見解をクリティカルマスという。)があり,同見解によれば,多様な意見を反映するためには,少なくとも30%の女性会員の関与が必要である。女性割合が30%を超えたとき,男性と女性の多様性のみならず,性別を超えて複数存在する価値観の多様性も意思決定に反映され,多様なニーズの取り込みを可能とする組織になるとされているのである。
       当連合会の理事は,一部各弁護士会の会長が兼務するため,一概に女性の就任を促進させるのは難しい側面があるとはいえ,2020年度は理事長,副理事長,常務理事,理事,監事の合計45名の役員のうち,女性は3名(全体の7%)にとどまった。過去10年間をみても,役員のうちの女性の割合は最大で約10%という状況にあった。2021年度は合計47名の役員のうち,女性は14名(全体の29%)となったが,これを一時的ではなく,恒常的なものとするためには,今後,役員就任への障壁の分析とその打開策の実施を行っていく必要がある。
       また,当連合会の委員会の委員長,副委員長についても,2020年度は83名のうち女性は15名(全体の18%),2021年度は101名のうち女性は14名(全体の13%)にとどまっている。委員長,副委員長の割合が少ないことは,当連合会の委員自体に女性の割合が少ないことも影響しており,当連合会の委員全体でも女性の参加がしやすいような施策を講じる必要がある。
       当連合会では,現在,女性が理事長,副理事長に就任する際の障壁となる経済的側面に対する支援策を開始したところであるが,これ以外にも女性会員の当連合会の役員や委員会役職者への就任,日弁連の役員就任,各弁護士会の役員就任等について,障壁を分析し,その打開策を検討し,実施していくことが必要である。
    3. (3)差別的な取扱いを防止するための施策の実施
       当連合会男女共同参画及び両性の平等推進に関する委員会で,各弁護士会において,ハラスメントを見聞した例が多数あることが報告された。ハラスメント防止に関する規則制定を行い,相談窓口を設けている弁護士会が多数である状況であっても,このような結果が報告された現状をふまえ,当連合会においては,ハラスメント防止に関する研修を実施する際の教材を作成し,同教材を用いた研修を参加必須である倫理研修に組み込む働きかけを行っている状況にある。この働きかけが奏功し,2021年度に当連合会が開催を担当する日本弁護士連合会夏期研修(関東地区)の倫理研修には,セクシャルハラスメント防止のための研修が組み込まれることとなった。単年度の開催ではなく,今後の研修においても実施継続ができるように働きかけを続けていく意向である。
       あらゆる人々の相談に寄り添い,権利を擁護していくべき職業として,ハラスメントを行う側になることは本来あってはならない。規則制定のみならず,実効的にハラスメント防止をしていく施策を今後も検討し,実施していく必要がある。
    4. (4)研修,啓発活動及び支援策の重要性
       男女共同参画の必要性,推進していく具体的施策の必要性については,各弁護士会の個々の会員の理解が不可欠である。そのため,当連合会及び各弁護士会は,研修,啓発活動を継続的に行い,個々の会員に周知をしていく必要がある。
       また,現状,各弁護士会の女性会員の割合は,2021年6月1日時点で約20.5%であり,クリティカルマスのいう30%には,その会員数において至っていない現状がある。会員数において女性会員が30%の割合を占めるまでの間,女性会員の意見を反映するためには,実際に所属している以上の割合での女性会員の参加が必要となり,女性会員に過度な負担を与える可能性があることも考慮しなくては,継続的な施策とすることが困難となってしまう。
       そのため,当連合会のみならず,各弁護士会の男女共同参画を推進するための施策実施にあたっては,役員等就任にあたっての問題点を調査したり,役員等に就任する,または就任を検討する会員それぞれが抱える家庭状況,業務状況等に配慮した支援策を設けたりすることもまた,重要である。
    5. (5)各弁護士会における女性会員割合の拡大
       上述のとおり,現段階で各弁護士会の女性会員の割合は,30%を下回っている状況にある。
       かかる割合が低いままでは,国民の半数を占める女性の法的サービスへのアクセスに支障をきたすことにもなりかねない。女性会員の割合を拡大させることは,弁護士や司法に対する国民の信頼を高めることにもつながるものである。
       当連合会としては,女子中高生への積極的な広報や,働きやすい環境整備を通して,女性会員割合の拡大を行っていく。
PAGE TOP