関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2021年度(令和3年度) 声明

ウィシュマ・サンダマリさんの死亡事件発生から1年にあたり,政府による入管法改定案の再提出に強く反対し,「真の改正」を改めて求める理事長声明

 政府は,2021年2月19日に「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(以下「入管法改定案」という。)を国会に提出した。しかし,当連合会は,この「入管法改定案」は,国際法に反する内容を含んでいるうえ,問題が多発している入管収容の現実を是正することが期待できないものであるので,同年3月30日に「入管法改定案(政府提出)の内容に強く反対し,『廃案』を求める理事長声明」を発出した。その後,政府は,同年5月,入管法改定案の成立をいったん断念して「入管法改定案」を取り下げたものの,国会への再提出を検討しているとの情報がある。再提出が検討されている「入管法改定案」が昨年と同様国際人権法を無視する法案であるとすれば,当連合会は,国会への再提出に改めて強く反対する。

 周知のとおり,2021年3月6日に,名古屋出入国在留管理局の収容施設でウィシュマ・サンダマリさんが亡くなられるという事件が発生した。ウィシュマさんを死に至らしめた原因のひとつは,入管収容施設での適切な医療措置の不在である。また,司法機関などによる審査も経ないまま,収容の可否の判断にあたっては必要性相当性比例性等の要件を必要とせず,入管行政の判断によって,いわば「恣意的拘禁」(国連人権理事会 恣意的拘禁に関する作業部会)を許容することにもつながる現行入管法の規定にも問題があると思われるところである。

 ウィシュマさんの事件のような悲劇を繰り返さないようにするためには,ウィシュマさんの死亡事件についての原因を調査し,真相を究明し,それを前提として必要な改革をしていくことが必要であることはいうまでもない。しかるに,法務省,入管当局は,遺族の意向を無視して,死亡前のウィシュマさんの状況を撮影したビデオデータを遺族に渡すことを拒否し,また,極めて限定的なビデオ開示を行った際も,代理人弁護士の開示への立ち会いを拒否するなど,ウィシュマさんの死亡事件についての真相と原因の究明について極めて消極的な対応を続けている。

 しかし,ウィシュマさんの死亡事件については,まずは,法務省,入管庁から完全に独立した第三者機関により,ウィシュマさんが死亡するに至った根本的な原因の調査が必要であることは明らかである。入管庁は,2021年8月10日に入管庁調査チームによる「令和3年3月6日の名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する調査報告書」を公表し,その報告書をもとに,2022年2月28日,「出入国在留管理官署の収容施設における医療体制の強化に関する有識者会議」が報告書「入管収容施設における医療体制の強化に関する提言」を入管庁に提出した。この提言においては,収容施設内医療体制の強化,外部医療機関との連携体制の構築・強化,医療機器の整備を中心に医療体制の強化の方策を検討・提言されている。収容施設における医療体制の強化が必要であることは言うまでもないことであるが,ウィシュマさんの死亡事件が私たちに示しているのは,医療体制の強化の必要性だけではない。

 当連合会は,ウィシュマさんの死亡事件について,法務省,入管庁から完全に独立した第三者機関によりその真相と原因を究明し,その究明を前提として,「人身の自由を保障し,国際人権法に完全に合致する入管収容制度,難民を適正に保護する難民認定制度,子どもの最善の利益・家族結合権を保障する在留資格制度」等を具現する,真の意味での入管法の改正(「真の改正」)を求める。そして,当連合会は,政府が再提出を検討している「入管法改定案」が昨年と同様のもので,国際人権法を無視する法案であるとすれば,改めて,その入管法改定案の再提出に強く反対する。

  2022年(令和4年)3月3日

関東弁護士会連合会   
理事長 海老原 夕 美

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