電子移転可能型前払式支払手段の規律に関する意見書
2022年(令和4年)3月22日
関東弁護士会連合会
金融庁は,2022年1月11日,「金融審議会 資金決済ワーキング・グループ報告」(以下「WG報告」)を公表した。
当連合会は,このWG報告に対して,消費者保護の観点から主に電子移転可能型前払式支払手段に関する規律について意見を述べる。
第1 意見の趣旨
-
1 電子移転可能型前払式支払手段に関する規律につき,消費者被害の発生防止及び被害救済の観点から,WG報告の提言に基づいた早期の法制化を求める。
-
2 ただし,高額電子移転可能型前払式支払手段に該当する範囲としては,1回あたりの譲渡額等が2万円超,又は,1か月あたりの累計譲渡額等が10万円超のいずれかに該当する場合とすべきである。
第2 意見の理由
-
1 WG報告における提言が,基本的に賛同する内容であること
WG報告は,電子移転可能型の前払式支払手段のうち,現状で法規制の対象とされていない「番号通知型」について,発行額を少額にする等の商品性の見直しやシステム面での対応の検討等,転売を禁止する約款等の策定,転売等を含む利用状況のモニタリング,不正転売等が行われた場合の利用凍結等を行うとともに,利用者への注意喚起等を行う体制整備を求めること等を提言する。
また,電子移転可能型の前払式支払手段のうち,残高譲渡金額又はチャージ金額が一定以上の場合等の要件に該当する場合を高額電子移転可能型前払式支払手段とし,犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下,「犯収法」という。)に基づく取引時確認(本人確認)や疑わしい取引の届出等の規律の具体的な適用関係を検討すべきである旨を提言する。
このような新たな規律を設けることを内容とする提言は,「番号通知型」の電子移転可能型前払式支払手段の不正利用事案を減少させ,また,現状の電子移転可能型前払式支払手段が匿名性等から数多くの消費者被害(サクラサイト,詐欺的投資被害,架空請求等)において,決済・送金方法等として悪用されていることからしても,基本的に賛同すべきものである。
-
2 高額電子移転可能型前払式支払手段の範囲について
WG報告では,犯収法に基づく本人確認等の対象とする高額電子移転可能型前払式支払手段に該当する各設定金額について,1回当たりの譲渡額等が10万円超,又は,1か月当たりの譲渡額等の累計額が30万円超のいずれかに該当するものとしている。
しかし,電子移転可能型前払式支払手段が用いられている消費者被害においては,WG報告で設定された金額よりも少額な電子移転可能型前払式支払手段を多数回,繰返し購入させられている被害実態が存在し,また,前払式支払手段発行事業者において本人確認が実施されていないことにより移転先の個人等を特定できず被害救済にも困難を生じさせている事案も多く存在する。
そのため,WG報告の設定金額では,電子移転可能型前払式支払手段が悪用されている消費者被害の多くが依然として規制の網をすり抜けることとなるおそれがあり,消費者被害の発生抑止及び救済の観点から高額に過ぎると言わざるをえない。
他方で,金融庁作成の資料及び一般社団法人日本資金決済業協会作成の資料(資金決済WG第4回の資料2-1,3)によれば,金融庁に回答した前払式支払手段発行者4社のチャージ残高の譲渡額の分布としても,10万円以上が全体の約0.1%,2万円未満が約96.8%であり,一般社団法人日本資金決済業協会実施のアンケート回答においても10種類の残高譲渡型前払式支払手段において,1アカウントあたりの1日の譲渡額の平均額が4,841円,1か月当たりの平均額としても6,473円となっている。
このような譲渡額の分布からすれば,高額電子移転可能型前払式支払手段に該当する範囲は,大多数の利用範囲を超えているものとして1回あたりの譲渡額等が2万円超,又は,1か月あたりの累計譲渡額等が10万円超のいずれかに該当する場合とすべきであり,また,かかる範囲であれば前払式支払手段発行業者全体としてみれば,規制の必要性に比して本人確認等に伴う過大なコスト等が生じるとは断言できないはずである。
以上