2023年1月12日、新聞紙上において、入管法改定案が通常国会に再提出される旨の報道がなされた。同報道によれば、同改定案は、2年前に廃案となった旧法案の骨格を維持し、難民申請の手続中は送還しない規定(いわゆる「送還停止効」)の適用回数を原則として申請2回目までに制限する、送還忌避罪の設定等、前回廃案となった内容の多くを存置するものとのことである。
一昨年、入管法改定案が廃案となるに及び、当連合会はその後の進展をモニターしてきたが、まず、そもそも法改正を要しない難民保護基準及びその運用の適正化すら実現していない。ウクライナから難を逃れて来た人々は別論、例えば、緊急避難措置の対象となっているミャンマー難民の保護の実現にも時間がかかり、全体として救済に向かっているとは到底言えない状態である。また、アフガニスタン難民については昨夏集団認定がされたもののその過程で日本当局による強い帰国勧奨があったとの報道もなされている。まして、ウクライナ・ミャンマー・アフガニスタン以外の地域からの人々につき、依然として難民の地位に関する条約・議定書の要請に応えられていない状況が続いている。
保護されるべき難民たちが保護されていない現状が放置されている以上、3回目以上の難民認定申請者につき、原則、手続中でも強制送還を可能とする法改定は、強制送還された人々を迫害に直面させる事態の続発を招きかねない。即ち、迫害の危険がある国へ難民を送還してはならないとする「ノン・ルフールマン原則」違反が繰り返される強い疑いが生じるのである。
更に、送還忌避罪の設定は、難民認定申請者を始め帰国できない重い事情を有する人々を「犯罪者」にしてしまうと共に、その支援者・弁護士らを共犯者として処罰する道を開くものであり、到底看過することができない。
再提出が企図されている入管法改定案にあっても、国際人権法の求める入管収容期間の上限設定、司法審査の設置などは導入されず棚上げされたままとのことである。再提出される入管法改定案が一昨年廃案となった入管法改定案の骨格を維持するものであれば、これまで当連合会が繰り返し反対してきた通り(2021年1月27日付、同年3月30日付、同年5月20日付、2022年3月3日付各理事長声明)、今回も当然、強く再提出に反対する。
既に当連合会は、2021年1月27日付の理事長声明で、あるべき改正の方向性を以下の通り提示している。
法務省・入管庁は、入管収容施設における死亡事件の原因解明にも極めて非協力的であり、国連恣意的拘禁作業部会や自由権規約委員会の勧告を尊ぶこともない状況が続いている。
さらに、一昨年に入管法改定案が廃案となった後も、「裁判を受ける権利」を無視した強制送還が違憲違法との判断により国家賠償請求が認められた判決も現れており、外国籍・無国籍市民の人権を尊重した出入国管理のあり方が問われている。この議論をせずして、依然として収容を原則とし、あるいは収容期間に上限を定めず、また司法審査に付さない入管収容制度を存置し、更には強制送還の促進を前面に出す法案を提出し法改定を強行しようとする姿勢は、国家のあり方として不適切極まりない。
今回再提出が懸念される入管法改定案はあるべき改正の方向性に逆行するものであり、当連合会はここに厳重な抗議を行い、法案の再提出に強い反対の意思を表明するとともに、報道される内容とは次元の異なる抜本的な改革を行うことを以て、国際人権法・国際難民法を遵守する難民認定制度・入管体制を構築すべきであることを再度強く求めるものである。
2023年(令和5年)1月20日
関東弁護士会連合会
理事長 若 林 茂 雄