SNSを利用して行われる取引に関する意見書
2022年(令和4年)11月15日
関東弁護士会連合会
内閣府消費者委員会は、SNSの投稿や広告を端緒とした消費者問題等が増加している現状を踏まえ、令和4年1月に「デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ」を設置し、令和4年8月に同ワーキング・グループの報告書(以下、「WG報告書」という。)が公表された。
当連合会は、WG報告書で検討対象とされたテーマにつき、WG報告書の内容に基本的に賛成の意見を示すと共に、以下のとおり、法改正や法の厳正な執行等を求める。
第1 意見の趣旨
- 1 SNS のメッセージによって勧誘がなされる取引類型については、通信販売の特別類型として定め、電話勧誘販売と同程度の勧誘行為規制や民事ルール(クーリング・オフ等)を新設する法改正を求める。
- 2 消費者庁においては、電話勧誘販売に該当する取引類型についての明確化及び関係事業者への周知徹底を図るとともに、電話勧誘販売規制への違反行為について、法の厳正な執行を行うことを求める。
- 3 販売業者等と業務委託等の一定の関係性を有する「第三者」の不当な広告・勧誘を直接行政規制の対象とするとともに、特定商取引法(以下、「特商法」という。)において、「第三者」に関する民事ルール(取消権等)を設ける法改正を求める。
- 4 特商法第11条の表示義務に違反する販売業者等に対し執行を強化するとともに違反行為について周知をすることにより、同条の表示義務を遵守させること、特商法第11条に基づく販売業者等の氏名等の表示事項を、一連の購買プロセスにおいて消費者が容易に認識することができる場所に表示させることを徹底させること、さらに、外国に住所を有する個人が販売業者である場合に、国内に事業所等がない場合には国内に住所を有する代理人の設置を義務付け、外国会社の場合は国内に住所を有する代表者の、外国に住所を有する個人の場合は国内に住所を有する代理人の住所及び電話番号を特商法第11条の表示の対象にするよう法改正することを求める。
- 5 消費者庁が、SNS事業者に対して、速やかに以下のことを実行するよう働きかけることを求める。
- ① SNSにおけるモニタリングや違反行為への対応を一層強化すること等、利用規約等の自主ルールの実効性を確保するための取組を進めること
- ② 消費者庁等が注意喚起等によって発信する情報に基づいて、SNSのユーザーに対して積極的に周知し、注意喚起を広めることでユーザーの保護につなげること
- ③ 消費者からの苦情受付窓口を設置し、苦情内容については調査の上、適切に対処すること
第2 意見の理由
- 1 販売業者等からのSNSのメッセージによって勧誘がなされる取引類型について
SNSのメッセージにより積極的な勧誘がなされる取引類型は、①不意打ち性・密室性があること、②商品情報が不正確となる場合があること、③匿名性があること、④容易かつ低コストな勧誘が可能であることなどの点において、電話勧誘販売と類似していることは、WG報告書23頁以下で指摘されているとおりである。
それに加え、多くの人がSNSを常時所持しているスマートフォンで使用し、かつ、SNSは24時間365日消費者への勧誘が可能であることから、SNSは私的領域への干渉度合いが電話勧誘販売よりも高度であり、より消費者の購入の意思形成に寄与することを可能にする手段となり得る。したがって、SNSのメッセージによる勧誘につき、勧誘規制等の法制度を導入する必要性は高い。
また、かかる勧誘規制については、SNSのメッセージを活用した勧誘実態が多種多様であることから、その場面ごとに整理の上で内容を検討すべきとするWG報告書の方向性にも賛成する。
他方で、電話勧誘との類似性は多数存在するものの、SNSにおいては多種多様なサービスが存在し、例えば、個人や不特定多数に対して一方的に大量のメッセージを送信することができる点、バーチャルな空間で複数人から次々と畳みかけるようにメッセージを送信できる点など、明確に電話とは異なる場面も存在しているところ、そのような電話との差異は今後さらに広がりを見せる可能性がある。
そのため、行為規制等の検討に際しては、電話勧誘販売として位置づけるのでは無く、通信販売の特別類型として定めたうえで、少なくとも電話勧誘販売と同程度の勧誘行為規制や民事ルール(クーリング・オフ等)を及ぼしていく整理が必要である。
- 2 電話勧誘販売該当性が問題となる勧誘事案に対する対応
デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループにおいて俎上に上がったSNSに関連する消費者トラブルのうち、国民生活センター等に報告されている電話勧誘販売該当性が問題となる勧誘事案としては、以下のような事例が挙げられている。
【事例】副業を探すためにインターネットで検索して、ヒットしたサイトにアクセスして登録したところ、案内者とメッセージアプリを使ってやり取りすることになり、案内者から勧められて安価なガイドブックを購入した。その後、案内者から詳しい説明をするので電話の予約を取るように言われ予約した。予約した時間に電話すると、ガイドブックに記載がある高額なサポートプランの勧誘を受け、電話をつないだまま、サイト上で同サポートプランの契約を申し込んだ。しかし、説明と異なる指示があるなど、不審なのでやめたいと思ったが、事業者が電話勧誘販売該当性を認めない。
上記事例は、特商法逐条解説によれば、電話勧誘販売に該当するものと判断されるべきである。
すなわち、法第2条第3項において、「電話勧誘販売」とは、事業者自らが電話をかけて勧誘を行った場合の他、「政令で定める方法により電話をかけさせ」た場合も電話勧誘販売にあたる旨定められているところ、特商法施行令第2条第1号は、「・・・当該売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げずに電話をかけることを要請すること。」と定めている。なお、「電話」には、スカイプ等インターネット回線を使って通話するIP電話等も含まれるとされている。
以上に鑑みれば、上記事例の被害者は、「政令で定める方法により電話をかけさせ」た場合に該当し、本来、救済されるべき場合と言えるが、現実的には、救済が困難な状況に陥っている。このような状況が生じている原因としては、電話勧誘販売に該当する類型についての明確化及び事業者・消費生活センター等への周知徹底が不十分であること、電話勧誘販売規制への違反行為についての法の厳正な執行がなされていないことなどが考えられる。
したがって、消費者庁においては、電話勧誘販売に該当する類型についての明確化及び関係事業者への周知徹底を図るとともに、電話勧誘販売規制への違反行為について、法の厳正な執行を行うべきである。
- 3 「第三者」による不当な広告・勧誘が問題となる事案に対する対応
SNSに関連する消費者トラブルにおいては、販売業者等とは別の「第三者」の不当な広告や勧誘によって契約した結果、被害が発生している事案が報告されている。
このような「第三者」は、販売業者等の契約主体とは別の者であるため、第三者が不当な広告や勧誘を行った場合には、消費者からの特商法上の取消し等が直ちに認められないなどの問題があり、これが被害救済を困難にしているものと考えられる。
しかし、販売業者等と「第三者」との間に業務上の協力関係等の一定の関係性が認められる場合には、販売業者等は「第三者」の不当な広告や勧誘を利用して契約締結の利益を受けていることになるのであるから、販売業者等と「第三者」が形式的に別の者であるという理由でその利益を保持させることは相当でない。不当な広告や勧誘で被害を受けた消費者の救済を優先すべきである。
したがって、「第三者」が介在する被害の発生防止の観点から、販売業者等と業務上の協力関係等の一定の関係性を有する「第三者」の不当な広告・勧誘を直接行政規制の対象とするとともに、「第三者」が介在する被害救済の実効性の観点から、特商法において、「第三者」が介在した場合に関する民事ルール(取消権等)を設けるべきである。なお、民事ルールの設定にあたっては、販売業者等と「第三者」との関係性の立証が困難であるという点に十分に留意する必要がある。
- 4 販売業者等との連絡不能に対する対応
WG報告書では、後日、取引条件等についてトラブル発生の防止という趣旨から、特商法第11条第6号に基づく特商法施行規則第8条第1号の「住所」(現に活動している住所)、「電話番号」(確実に連絡が取れる番号)等の一定事項を、一連の購買プロセスにおいて消費者が容易に認識できる場所に表示させることを徹底すべきとされており、同報告書に賛成である。
もっとも、情報商材や副業等のもうけ話についてSNS上の投稿や広告を端緒とした、又はSNSを利用した勧誘等による消費者トラブルの事例では、外国の販売業者の名称を表示し、外国の住所及び電話番号を表示するものがある。
そもそも、外国会社が日本において継続して取引をしようとするときは、日本における代表者(日本における代表者のうち一人以上は、日本に住所を有する者でなければならない。)を定め(会社法第817条第1項)、当該外国会社が日本に営業所を設けている場合は当該営業所の所在地を、営業所を設けていない場合は日本に住所を有する日本における代表者の住所地を登記することが必要である(会社法第933条第1項)。そして、外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本において取引を継続してすることができない(会社法第818条第1項)。
ところで、特商法第11条第6号に基づく特商法施行規則第8条第3号では、事業者が外国法人又は外国に住所を有する個人であって、国内にその事業を行う事務所等を有する場合には、その所在場所及び電話番号を表示すべきとされているが、国内にその事業を行う事務所等を有しない場合には、外国の住所及び電話番号の表示でも特商法第11条に違反することにはならないものの、トラブル発生時に消費者が事業者と連絡することが極めて困難な状況に陥いりかねない。
そこで、WG報告書の内容をさらに進めて、外国会社が、国内にその事業を行う事務所等を有しない場合は、日本における代表者の国内の住所及び電話番号を特商法第11条の表示の対象とし、外国に住所を有する個人が、国内に事務所等を有しない場合には、国内に住所を有する代理人の設置を義務付け、当該代理人の住所及び電話番号を特商法第11条の表示の対象とするよう法改正すべきである。
- 5 SNS事業者の自主ルールについて
WG報告書においては、主なSNS事業者において情報商材や副業等のもうけ話の勧誘を禁止する等、消費者被害防止のためのルールが一定程度定められていることが報告されている。
一方で、かかる制定済の自主ルールの実効性の確保に問題があると共に、次に述べるような問題点についてのルールの制定が不十分と思われる。すなわち、①SNS事業者が定める自主ルールに違反して営利目的での広告や勧誘が行われていたとしても、メッセージを受けているユーザーはこれが自主ルールに違反した広告や勧誘であることを認識することが困難な場合があること、②若者が消費者庁のHPなどの閲覧によって、注意喚起情報を認識することが期待しにくいこと、③苦情受付窓口の不存在、などが問題点としてあげられる。
そこで、消費者庁は、消費者被害防止の観点からSNS事業者と連携し、モニタリングを行うなどして情報収集に努め、その結果を踏まえて、法的規制の必要性も視野に入れながら、SNS事業者に既存の自主ルールの実効性確保及び有効な自主ルール作成のために継続的な働きかけを行っていくことが必要不可欠である。また、SNS事業者において、SNS上(サイト内)で行政等の注意喚起情報を容易に認識できる仕組みを作成したり、苦情受付窓口を設置し、寄せられた苦情については調査をした上で適切な対処をするよう、消費者庁は継続的に働きかけを行うべきである。