特商法平成28年改正における5年後見直し規定に基づく
同法の抜本的改正を求める意見書
2023年(令和5年)2月27日
関東弁護士会連合会
第1 意見の趣旨
当連合会は、国に対し、特定商取引法平成28年改正における附則第6条に基づく「所定の措置」として、以下の内容を含む抜本的な法改正等を行うことを求める。
- 1 訪問販売・電話勧誘販売について
- ⑴ 拒否者に対する訪問勧誘の規制
訪問販売につき、家の門戸に「訪問販売お断り」と記載された張り紙等を張っておくなどの方法により予め拒絶の意思を表明した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを条文上明らかにすること。
- ⑵ 拒否者に対する電話勧誘販売の規制
電話勧誘販売につき、特定商取引法第17条の規律に関し、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる制度を導入すること。
- ⑶ 勧誘代行業者の規律
訪問販売及び電話勧誘販売につき、その契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対しても、特定商取引法上の行為規制が及ぶことを条文上明らかにすること。
- 2 通信販売について
- ⑴ インターネットを通じた勧誘等による申込み・契約締結についての行政規制、クーリング・オフ及び取消権
通信販売業者がインターネットを通じて消費者を勧誘し、消費者が契約の申込みを行い又は契約を締結した場合について、行政規制を設けること、並びに消費者によるクーリング・オフ及び取消権を認めること。
- ⑵ 連絡先が不明な通信販売業者及び当該事業者の勧誘者を特定する情報の開示請求権(詐欺等加担者情報開示請求権)
特定商取引法第11条第6号及び同法施行規則第8条第1号又は第2号の表示義務を満たさない通信販売に関する広告、又はインターネット等を通じて行った勧誘により自己の権利を侵害されたとする者は、SNS事業者、プラットフォーマーその他の関係者に対して、通信販売業者及び勧誘者を特定する情報の開示を請求できるとすること。
- 3 連鎖販売取引について
- ⑴ 連鎖販売業に対する開業規制の導入
連鎖販売取引について、国による登録・確認等の事前審査を経なければ、連鎖販売業を営んではならないものとする開業規制を導入すること。
- ⑵ 後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加
特定利益収受の契約条件を設けている事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的として特定負担に係る契約を締結させ、その後に当該契約の相手方に対し特定利益を収受し得る取引に誘引する場合は、特定商取引法の連鎖販売取引の拡張類型として規制が及ぶことを条文上明確にすること。
- ⑶ 不適合者に対する紹介利益提供契約の勧誘等の禁止
物品販売又は役務提供による対価の負担を伴う契約をした者が次のいずれかに該当する場合は、その者との間において、新規契約者の獲得することにより利益が得られる事を内容とする契約の勧誘及び締結を禁止すること。
- ① 22歳以下の者
- ② 先行する契約として投資等の利益収受型取引の契約を締結した者
- ③ 先行する契約の対価に係る債務(その支払いのための借入金、クレジット等の債務を含む)を負担している者
第2 意見の理由
- 1 特定商取引法の抜本的改正の必要性
- ⑴ 平成28年改正と5年後見直し
特定商取引法は、特定商取引と呼ばれる取引類型を公正にし、商品や権利の購入者や役務提供を受ける者が受けることのある損害の防止を図ることにより、購入者等の利益を保護し、あわせて、商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的としている(特定商取引法第1条)。同法は、被害が増加したり、従前の規定を潜脱するような被害事例が発生したりなどするたびに改正を繰り返してきた。2016年の改正(以下「平成28年改正」という。)の附則第6条に、「政府は、この法律の施行後五年を経過した場合において、この法律による改正後の特定商取引に関する法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」と定められている。同改正法の施行が2017年12月1日であり、2022年12月に5年後の経過を迎えた。
- ⑵ 特定取引法の抜本的改正の必要性
令和4年版消費者白書によると、消費生活相談は85.2万件で、特定商取引法の対象分野の相談が全体の約55パーセントという高い比率を占めている。そして、特に認知症等の高齢者の消費者トラブルの中で訪問販売・電話勧誘販売の割合が48.6パーセントを占めている。これは、超高齢社会において判断力の衰えた高齢者がターゲットとされていることがうかがわれ、早急な対応が必要である。また、全世代でみると、インターネット通販に関する相談が27.4パーセントと最多であり、デジタル社会の進展やコロナ禍の影響によりインターネット通販に関する相談が増加している。さらに、連鎖販売取引(マルチ取引)は、その被害の半数近くが20代の若者であり、令和4年4月に民法上の成年年齢が20歳から18歳に引き下げられたため、若者のマルチ取引被害の増加が予想される。
これらの被害に対処するために、平成28年改正の5年後見直しを契機として、特定商取引法の抜本的改正を求めるものである。
- 2 訪問販売・電話勧誘販売について
- ⑴ 拒否者に対する訪問勧誘の規制(意見の趣旨1⑴について)
特定商取引法第3条の2第2項は、消費者が契約を締結しない旨の意思を表明した場合に、事業者が勧誘を行うことを禁止しているが、消費者庁は、「訪問販売お断り」と記載された張り紙等(以下「ステッカー」という。)を家の門戸に貼付することについて、意思表示の対象や内容、表示の主体や表示時期等が必ずしも明瞭でないとして、同項の「契約を締結しない旨の意思」の表示には該当しないとの解釈を示している。
しかし、このような解釈を採用すると、消費者があえてステッカーを貼付しているにもかかわらず勧誘に対応にすることを強いられることになる。また、対応した結果、応諾させられてしまう危険性もある。加えて、販売業者に個別に拒絶しなければならない点で不便である。
そもそも、同規定は、意思の表示方法として、文書その他の表示によるものを排斥していない。また、多くの自治体が消費生活条例等においてステッカーに効力を認めているところ、消費者庁もこれらの条例の効力を認めており、その解釈は一貫性を欠くものとなっている。
これらの観点に鑑み、現在の消費者庁の解釈は直ちに改められるべきであり、解釈上の疑義を残さないために、ステッカーにより拒絶の意思を表明した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを条文上明らかにするべきである。
- ⑵ 拒否者に対する電話勧誘販売の規制(意見の趣旨1⑵について)
特定商取引法第17条は、消費者が契約を締結しない旨の意思表示を表明した場合に、事業者が勧誘を行うことを禁止しているが、消費者が拒絶の意思を伝える方法について制度が存在しない。
消費者が電話機の応答機能や迷惑電話対応装置により、拒絶の意思を伝えることは可能であるものの、装置設置のための経済的負担や、事業者以外からの電話に対しても応答メッセージを流すことになってしまう不便さ等から、勧誘拒否の意思を表示する方法として必ずしも広まっているとはいえない。
そのため、多くの消費者は、電話勧誘に対応にすることを強いられることになる。また、対応した結果、応諾させられてしまう危険性もある。加えて、販売業者に個別に拒絶しなければならない点で不便である。
そこで、特定商取引法第17条の規律をさらに一歩すすめ、消費者が意に反する電話勧誘を受けないようにするために、Do‐Not‐Call制度、すなわち、電話勧誘を受けたくない人が電話番号を登録期間に登録することとし、登録された番号には電話勧誘をすることを禁止する制度を導入すべきである。
- ⑶ 勧誘代行業者の規律(意見の趣旨1⑶について)
特定商取引法における訪問販売又は電話勧誘販売についての行為規制は、「販売業者」及び「役務提供事業者」(以下「販売業者等」という。)であるが(同法第2条第1項参照)、近年、訪問販売や電話勧誘販売にあっても、営業活動それ自体をアウトソーシングの活用が進み、勧誘行為を他の業者に委託する例が増えている。
勧誘行為の媒介・代理を受託したいわゆる勧誘代行業者に行為規制が及ぶかについては、「販売業者等」の意義との関係で議論が有り得るところであり、どのような場合に規制が及ぶか、現行法上明らかにされていない。
そもそも、訪問販売又は電話勧誘販売において、その規制の核心は、その販売方法である訪問・電話による勧誘方法にあるのであって、その勧誘行為そのものを直接行っている事業者を行為規制の埒外とすることは妥当ではない。
したがって、訪問販売及び電話勧誘販売につき、その契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対しても、特定商取引法上の行為規制が及ぶことを条文上明らかにすべきである。
- 3 通信販売について
- ⑴ インターネットを通じた勧誘等による申込み・契約締結についての行政規制、クーリング・オフ及び取消権(意見の趣旨2⑴について)
現在、特定商取引法に規定された取引形態のうち、訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提携誘引販売については、行為規制として、氏名等の表示、再勧誘の禁止、不実告知の禁止、故意の事実の不告知の禁止、威迫困惑行為の禁止等が設けられているが、通信販売のみかかる規制は設けられていない。
また、民事上の規定の中では、他の特定商取引法の類型と異なり、通信販売のみ、クーリング・オフや不実の告知による取消権が設けられていない。
通信販売が、他の類型と異なった規制となっているのは、通信販売は、消費者がカタログを閲覧して申込みをする形態や、インターネットで消費者が自らウェブサイトを閲覧して申込みを行う形態が想定され、このような取引形態に対応する規制が設けられてきたからである。
しかし、近年、通信販売で急増している消費者トラブルにおいては、消費者が自ら積極的に通信販売事業者のウェブサイトを閲覧して申込みをするのではなく、消費者が利用しているSNS上の広告を見たりしたこと等をきっかけでインターネットを通じて事業者やその関係者から勧誘され、申込みに誘導される例が多い。その中には、いわゆる情報商材や出会い系サイト(サクラサイト)等を通じた広告が多い。
このような勧誘手段は、消費者からすれば、突然一方的に示されるものであり不意打ち性が高く、スマートフォンやパソコン等の私的領域内において一対一で行われる点で密室性が高く、繰り返し勧誘される点で攻撃性が高く、相手方の素性が分からないまま勧誘される点で匿名性が高いという、訪問販売や電話勧誘販売に共通した特徴が認められる。(このことは、当連合会が2022年11月のSNSを利用して行われる取引に関する意見書(以下「2022年11月意見書」という。)でも指摘している)。
インターネットを通じた勧誘で、無料通話アプリの通話によって勧誘を受ける場合等、電話勧誘販売に該当する場合も多いが、事業者が通信販売該当性を主張しクーリング・オフに応じない事案が多発しており、通信販売が事実上の抜け穴として悪用されている実態も顕著である。
そこで、2022年11月意見書で提言したとおり、通信販売業者がインターネットを通じて消費者を勧誘し、消費者が申込みを行い又は契約を締結した場合について、訪問販売、電話勧誘販売と同様の行政規制を設けるべきである。また、民事上の規定として、消費者によるクーリング・オフ、不実告知及び重要事実の不告知の場合の取消権を規定すべきである。
- ⑵ 連絡先が不明な通信販売業者及び当該事業者の勧誘者を特定する情報の開示請求権(意見の趣旨2⑵について)
民事訴訟を提起するには、訴状に「当事者の氏名又は名称及び住所並びに代理人の氏名及び住所」を記載しなければならない(民事訴訟法第133条、民事訴訟規則第2条第1項第1号)。しかし、インターネット上で行われる勧誘ではSNS等を利用して匿名で行われることが少なくなく、相手方の特定が困難である。
特定商取引上の表示義務は、「広告をするとき」に限られているため、個別の勧誘時に販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号の表示義務が及ぶかは明文上明らかではない。また、表示義務違反の行政処分の対象となるのは、販売業者又は役務提供事業者に限られ、広告又は勧誘を行ったものが販売業者又は役務提供事業者から独立している場合は行政処分の対象にならない。
以上のような問題に対処するため、特定商取引法第11条第6号及び同法施行規則第8条第1号又は第2号の表示義務を満たさない通信販売に関する広告、又はインターネット等を通じて行った勧誘により自己の権利を侵害されたとする者は、SNS事業者、プラットフォーマーその他の関係者に対して、通信販売事業者及び勧誘者を特定する情報の開示を請求することができる立法措置を講じるべきである。
- 4 連鎖販売取引について
- ⑴ 連鎖販売業に対する開業規制の導入(意見の趣旨3⑴について)
連鎖販売取引については、全国消費生活ネットワークシステム(PIO-NET)によるマルチ取引に関する消費生活相談件数は、毎年1万件前後と多数の相談が寄せられており、2021年度の相談件数9249件のうち、20歳未満及び20歳代の相談件数は4189件と全体の45%を占め、若者が被害の中心であることが窺える。
そして、近時は、各種の投資取引等を対象とした「モノなしマルチ商法」のトラブルが増加し、また、SNS等を利用した勧誘方法により組織の実態が分かりづらくなるなど、被害回復が困難な場合も増加している。
連鎖販売取引は、一定期間にわたり取引を継続することが想定されることから連鎖販売取引業者には、その組織、責任者、連絡先等を明確化し、取扱商品・役務の内容・価額、特定利益の仕組みなど、責任負担体制の明確化が求められるというべきである。
そこで、事業者が行おうとする連鎖販売取引業の適法性、適正性を行政庁が事前に審査する手続を経た事業者にのみ取引ができるとする開業規制を導入するべきである。
そして、開業規制の業務を担う行政機関は、連鎖販売取引が新規加入者の勧誘により組織を拡大する性質を有しており、近時のインターネットによる勧誘対象の拡大の状況を考慮し、国とするべきである。開業審査については、統括者がその連鎖販売業について申請義務を負い、開業審査を経た連鎖販売業についてのみ公告・勧誘や契約の締結ができるものとすることが考えられる。
上記規制の実効性担保及び被害者救済のため、開業規制に違反して連鎖販売取引を行った事業者については、刑事罰の対象とすると共に当該取引の相手方は当該契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができるものとするべきである。
- ⑵ 後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加(意見の趣旨3⑵について)
近時、物品販売等の契約を締結した後に、新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込む事例(いわゆる「後出しマルチ」)のトラブルが増加している。
このような後出しマルチは、大学生などの若者がターゲットにされることが多く、投資に関する情報商材などの利益収益型の物品又は役務の契約が先行することが多い。借入れをしてまで契約の締結に至ったものの、勧誘時の説明のような利益が得られない事態となった場面で、他の者を勧誘して契約を獲得できれば特定利益が得られることを誘引文句として持ち出すことにより、借入金の返済に窮した契約者が自らも勧誘員として新規契約者の勧誘に走る結果として不当勧誘が繰り返されるという構造にある。
後出しマルチについては、特定利益の告知を勧誘時に行うか、勧誘後に行うかの違いに過ぎず、典型的な連鎖販売取引等とその危険性において変わりはないことから、当連合会が2015年5月の連鎖販売取引に関する法規制強化を求める意見書(以下「2015年5月意見書」という。)で提言したとおり、特定商取引法第33条第1項の連鎖販売取引の定義規定に後出しマルチを加えるべきである。すなわち、特定利益を収受し得る仕組みを設定していながら、そのことを故意に告げないで特定負担を伴う契約を締結させ、その後に特定利益を得るための取引を勧誘することを連鎖販売取引の拡張類型として規定するべきである。
- ⑶ 不適合者に対する紹介利益提供の勧誘等の禁止(意見の趣旨3⑶について)
連鎖販売取引を社会経験の不十分な①22歳以下の若年者との間で行うこと、②投資取引・投資情報等の利益収受型取引を対象商品・役務として行うこと、及び③借入金・クレジット等の与信を利用して行うように勧誘することについて、いずれも適合性に反する取引として禁止すべきことは、当連合会の2015年5月意見書において既に提言しているところである。
上記①から③に該当する者や取引の相手方については、勧誘自体が不適正なものであることから、物品販売等の契約を締結する時点で特定利益収受の仕組みの設定や連鎖販売取引に加入させる目的の有無にかかわらず、その者との間において、新規契約者を獲得することにより紹介利益が得られることを内容とする契約の勧誘や締結を禁止するべきである。