関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2023年度(令和5年度) 声明

技能実習制度の廃止を支持し、現行の制度の問題点を抜本的に解消する新制度の創設を求める理事長声明

 2022年11月22日、「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」の下に、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(以下「有識者会議」という。)が開催されることとなり、2023年5月11日、有識者会議による中間報告書(以下「報告書」という。)が関係閣僚会議の共同議長である法務大臣に提出された。
 報告書では、現行の技能実習制度を廃止して、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討すべきである旨が明記された。2017年(平成29年)6月27日付「外国人技能実習制度の撤廃を求める理事長声明」、2023年(令和5年)3月3日付「技能実習制度の廃止を前提とした外国人労働者の受入れ制度の検討を求める理事長声明」において技能実習制度の廃止を求めてきた当連合会としては、技能実習制度を廃止するという報告書の方向性を大いに評価し、これを支持する。
 もっとも、技能実習制度を廃止しても、新たに創設される制度において現行の制度が抱える問題点が解消されないのでは意味がない。「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和5年度改訂)」では、技能実習制度について廃止ではなく「発展的に解消」すると明記されているが、現行の制度が抱える問題点が新たな制度にも残り続ける事態が懸念される。
 当連合会は、技能実習制度の廃止を求める根拠として、技能実習生には転職の自由がなく、対等な労使関係が構築されない結果、労働者としての権利が侵害され易い構造的問題点があること、技能実習生が本国で高額の手数料を送出機関に支払うことが常態化しているため、技能実習生が来日時には既に借金に縛られていることも、技能実習生に対する権利侵害の原因となっていること等を指摘してきた。
 技能実習制度廃止後に創設される新たな制度においては、転職の実効性の確保や本国での手数料徴収に対する実効性のある規制など、現行の制度が抱える上記のような問題点を抜本的に解決する仕組みを盛り込むことが必須である。なお、転職の実効性の確保に関して、転職に制限を加えることが労働者としての権利を侵害され易い構造につながる危険を孕むものであることには十分留意する必要があり、人材育成等を理由に転職に過度の制限を加えることはあってはならない。
 また、新たな制度は、技能実習生が我が国の深刻な人手不足を緩和するための人材確保として機能していた実態を直視した上で設計される必要があるが、外国人を単なる労働力として考えるのではなく、幸福追求権が保障された一人の人間として日本社会に迎え入れるという意識を持つべきであり、日本国内での外国人労働者の支援体制(特に日本語教育の充実)や保護体制の構築、家族滞在を含む定住化の促進等についても、十分な議論がなされる必要がある。そして、そのような議論においては、外国人の生活全般に関わる幅広い分野にわたる施策を、一貫した理念・方針に沿って推し進めるためにも、多文化共生に関する基本法の制定や包括的な差別禁止に関する法律の制定まで視野に入れることが期待される。
 当連合会は、技能実習制度を廃止する報告書を支持するとともに、現行の技能実習制度の問題点を抜本的に解消する新制度の創設に向けて、有識者会議に対して更なる充実した議論を求める。

 2023年(令和5年)6月28日

関東弁護士会連合会   
理事長 杉 本 喜三郎

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