大会宣言
刑事加害者家族の支援に向けた宣言
刑事弁護活動のすぐ近くに存在しているにもかかわらず、我々弁護士がこれまでほとんど目を向けて来なかった問題として被疑者・被告人・(元)受刑者(以下「刑事加害者」という。)の家族が被る様々な被害がある。
日本社会では家族の一員が犯罪を犯すと、その家族にも重い責任があるかのような見方をされる傾向が顕著にある。刑事加害者についてのメディアによる事件報道がなされると、その非難は刑事加害者家族に向けられることもある。非難の矛先を向けられた刑事加害者家族は反論を許されず、転居、失職、転校などそれまで築き上げて来た生活の崩壊を余儀なくされる。犯罪被害者への被害弁償を求められることもあり、多大な経済的負担を強いられる。そうでありながら、刑事加害者家族であるがゆえに刑事加害者の監督責任を押し付けられる。刑事加害者家族の中には精神的に追い詰められ自殺に至る者もいる。
善良な生活を送って来た者でもいきなり刑事加害者家族の側に置かれることはありうる。刑事加害者家族をひとりの人として見直したとき、刑事加害者によって人生を狂わされた被害者ともいいうる。その現実を認めるなら、私たちの社会は、刑事加害者家族についての支援保護も重要な社会的課題として位置づけるべきである。刑事加害者家族が平穏な市民生活に戻れるようにしてこそ、誰もが個人として尊重される社会の実現に向かうのである。
我々弁護士は、刑事弁護活動において、刑事加害者家族と接している。刑事加害者家族が様々な被害に遭っていることに気付いたり、相談を受けたりすることがある。我々弁護士こそが、刑事加害者家族の支援保護の活動に乗り出すべきである。
我々弁護士は、刑事加害者家族の支援保護の活動と並行して、国、地方公共団体、地域住民に対し、刑事加害者家族の実情を認識してもらい、事態の改善を図るために、弁護士会との相互連携や制度運用の改善・法律の制定を求めて行く必要がある。
そこで、当連合会は、刑事加害者家族の置かれた現状についての問題点を提起し、刑事加害者家族を支援する意義を再認識するよう各弁護士に求めるとともに、国及び地方公共団体に対し、刑事加害者家族への支援及び弁護人・付添人・刑事加害者家族の支援に対応する弁護士(以下「対応弁護士」という。)への支援を求めるべく、本宣言をするものである。
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1 弁護士は、刑事加害者家族を支援する意義を再認識するとともに、以下の事項に取り組んでいくべきである。
- (1)刑事加害者家族が置かれている実情に目を向け、必要な相談・助言を行うこと
- (2)(1)の内容如何によっては、行政機関の相談窓口や医療機関、児童相談所、弁護士会、対応弁護士などを紹介すること
- (3)メディアによる事件報道がなされている刑事事件では、刑事加害者家族の私生活やプライバシー権、人格権を守るために寄り添い、刑事加害者の了承の下で守秘義務に反しない限りで、時にメディア対応を行うこと
- (4)インターネット上の誹謗中傷投稿記事について、削除請求を積極的に行い、削除に応じないケースについては法的措置を取ること
- 2 日本弁護士連合会や各弁護士会に対し、いくつかの弁護士会ですでに実施している「よりそい弁護士制度」等を刑事加害者家族支援にまで拡充させ、全国の弁護士会で同様の制度を設け、対応弁護士に必要な報酬・経費を助成する制度を作ることを求める。
- 3 国及び地方公共団体に対し、刑事加害者家族支援及び対応弁護士に対する支援制度の創設に取り組むことを求める。
刑事加害者家族支援・対応弁護士に対する支援について独自の助成費目の創設を図るとともに、現状なされている刑事加害者に対する国選弁護人・国選付添人報酬加算の拡充を図ることを求める。
- 4 国及び地方公共団体に対し、刑事加害者家族の困りごとに対応する専用相談窓口を創設することを求める。
その上で、刑事加害者家族の(1)司法手続支援ニーズ、(2)経済支援ニーズ、(3)就労支援ニーズ、(4)育児・教育支援ニーズ、(5)相談・情報支援ニーズに応じた、具体的な支援制度を創設していくことを求める。
- 5 国及び地方公共団体に対し、民間の刑事加害者家族支援団体をサポートしていくことを求める。
具体的には、国及び地方公共団体が、今存する民間の刑事加害者家族支援団体に対して、(1)法令・条例等を成立させ、予算を確保し、経済的援助を行うこと、(2)新たな支援団体を立ち上げる際の助成など、民間の活動に公的機関が支援・助成する枠組みを構築することを求める。
また、弁護士は、民間の刑事加害者家族支援団体と協同して、このような枠組みを構築できるよう国及び地方公共団体に働きかけをしていくべきである。
以上のとおり宣言する。
2023年(令和5年)9月29日
関東弁護士会連合会
提案理由
- 第1 はじめに
- 1 刑事加害者家族に関する宣言
本宣言では、刑事事件の被疑者・被告人・(元)受刑者(以下「刑事加害者」という。)の父母、夫や妻、子など、刑事加害者家族の置かれている現状とその保護の必要性・具体的な支援について提案するものである。(元)受刑者には、再審請求中の者や再審無罪判決を得た者を含めている。
なお、以下紹介する東北弁護士会連合会定期弁護士大会決議及びシンポジウムでは、「犯罪加害者家族」と表記されているが、同一内容を示すものである。本宣言では、「犯罪被害者」と表記の誤認を招かないよう、「刑事加害者家族」と表記するものである。
- 2 社会的に置き去りにされてきた刑事加害者家族
- (1)刑事加害者家族の置かれた現状について
社会ではどの時代でも殺人や強盗などの犯罪が起これば、人々は犯罪被害者や犯罪被害者家族に同情を寄せ、刑事加害者に対しては非難の目を向けてきた。
刑事加害者家族は、刑事裁判において弁護人に懇願されて情状証人となり公開法廷で検察官や裁判官から刑事加害者に対する監督が不十分だったと批判されたり、刑事加害者の損害賠償責任について立替払いを求められたりしてきた。
この点、刑事加害者家族自身が被っている様々な不利益や精神的苦痛について、我々弁護士はこれまで考えが及んでいたであろうか。
- (2)刑事加害者家族が直面する危機
刑事加害者家族の支援活動を行っている仙台の特定非営利活動法人World Open
Heart(以下「WOH」という。)が相談対応した刑事加害者家族412人に行ったアンケートによると、刑事加害者家族が直面する危機として、以下のものがあげられる(令和4年度東北弁護士会連合会定期弁護士大会シンポジウム「改めて犯罪加害者家族の支援を求める」資料)。
心理的危機として、「外出が困難になる」(95%)、「楽しいことや笑うことに罪悪感をおぼえる」(94%)、「自殺を考える」(90%)など。
社会的危機として、「人権侵害(誹謗中傷、いじめ、ハラスメントなど)を受ける」(51%)、「転居を余儀なくされる」(40%)、「結婚が破談になる」(41%)、「進学や就職を諦める」(39%)、「家族関係が悪くなる」(38%)など。
経済的危機として、「自己破産をした」(23%)、「生活困窮に陥る」(18%)、「失業や転職を余儀なくされる」(11%)など。
- (3)刑事加害者家族を支援する意義
刑事加害者家族が上記(2)のような危機に陥ることを決して放置しておくべきではない。
社会のあり方としては、刑事加害者家族を社会の一員から排除するのではなく、社会の一員として対等な存在として認めることが必要である。そのためには、刑事加害者家族のさまざまな危機を軽減することが求められる。各種の支援により刑事加害者家族の危機が軽減されれば、刑事加害者に人生のやり直しの場として確保することにもつながる。
- (4)東北弁護士会連合会定期弁護士大会シンポジウム
弁護士会において初めて刑事加害者家族の支援というテーマを取り上げたのは平成28年度の東北弁護士会連合会定期弁護士大会シンポジウムであり、同弁連は令和4年度のシンポジウムでも同じテーマを取り上げた。
シンポジウムでは「犯罪加害者家族の法的支援を求める」(平成28年度)、「改めて犯罪加害者家族の支援を求める」(令和4年度)をテーマに、犯罪者にされた人がたまたま家族の中から出たという理由で、社会の偏見と差別に晒され過酷な被害を受けている人たちの問題を、全国の弁護士会連合会で初めて取り上げ、さらに、同大会において「犯罪加害者家族に対する支援を求める決議」(平成28年度)、「改めて、国に対し、犯罪加害者家族に対する支援を求める決議」(令和4年度)を採択し、国に対し、犯罪加害者家族に対する支援を求めた。
しかし、国において今日まで目立った支援の動きはない。
- (5)弁護士の再認識と制度要求
我々弁護士は、刑事弁護活動において、刑事加害者家族と接している。
そこで、刑事加害者家族が様々な被害に遭っていることに気づいたり、相談を受けたりすることがある。その意味で我々弁護士こそが、できることから刑事加害者家族の支援活動に乗り出すべきである。
我々弁護士は、刑事加害者家族の支援活動と並行して、国、地方公共団体、地域住民に対し、刑事加害者家族の実情を認識してもらい、事態を改善するために、弁護士会との相互連携や制度運用の改善・法律の制定を求めて行く必要がある。
- 第2 宣言第1項
- 1 刑事加害者家族を視野に入れた活動
これまでの刑事弁護活動は、刑事加害者家族に関わることは刑事加害者の弁護のために必要か否かという観点が強く意識され、刑事加害者家族に起こっている様々な問題に目を向け、助言したり支援したりすることがほとんど行われて来なかった。
刑事加害者と刑事加害者家族の利害が対立する場合もあり、刑事加害者家族に生起する諸問題一つ一つが難題であることもあり、弁護人が全面的に対応するのは困難であり、刑事加害者家族の支援に対応する弁護士(以下「対応弁護士」という。)に対応を委ねる場面も出てくるであろう。しかし、弁護人が刑事加害者家族のために動くことが刑事弁護活動の充実という観点から有益だということは大いにありうる。
弁護人が刑事加害者家族に刑事手続について説明することは、刑事加害者家族の不安を軽減させるだけでなく、刑事弁護活動に協力的になる可能性につながる。刑事加害者家族の協力は、弁護人が刑事加害者を不起訴に導くためにも、執行猶予判決を得るためにも、極めて効果的である。
刑事加害者家族に生じた様々な問題についても、弁護人が刑事加害者家族に法的知識の助言で対応できることは助言すればよいし、対応弁護士への法律相談を薦めたり、行政機関などの相談窓口や専門の医療機関を紹介したりするだけでも、刑事加害者家族の負担の軽減に役立つであろう。
弁護士会が刑事加害者家族の困りごとに対応するパンフレットを作成するなどして、一般に周知したり、弁護人が刑事加害者家族に渡したりすれば、弁護人の刑事加害者家族への対応の負担が軽減されるであろう。
弁護人・対応弁護士は、刑事加害者家族と応対する際には、まず、刑事加害者家族の複雑な心情に思いを巡らせ、刑事加害者家族を追い詰めてしまうことがないよう十分注意しなければならない。
弁護人・対応弁護士が刑事加害者家族を治療的・福祉的な支援へとつなぐ活動をする場合には、単にプログラムの内容を説明するにとどまらず、(1)刑事加害者家族だけで不安や悩みを抱え込んでしまったり、全てを背負い込んでしまったりしないように、刑事加害者家族自身が苦しみや悩みを吐き出し、支援を受けられる場所が必要であること、(2)刑事加害者本人の更生の道に伴走する上で、家族自身が十分なサポートを受けることが大切であること、を伝えていくことが重要であると考える。
刑事加害者家族は大人か子どもかを問わず、精神面で大きな負担を感じている。
外見上元気に見えても、内面は限界に達しているということもありうる。特に犯罪被害者が死亡しているような重大事件では、刑事加害者だけでなく刑事加害者家族に対し激しい非難がされることがある。非難が激しくなくても、刑事加害者家族は犯罪被害者や犯罪被害者遺族に対する責任を感じ、その気持ちが強くなればなるほど、死んでお詫びをしなければなどという気持ちになり、自殺してしまうことがある。
刑刑事加害者家族が自殺を思い止まったとしても精神状態は悪化し、精神的に安定した社会生活を送れなくなってしまうこともある。
刑事加害者家族がこのような精神状態に陥らないよう、また、陥ってもなるべく深刻化しないうちに回復できるよう、弁護人・対応弁護士は、これらに対応できる医療機関を紹介できるようにすべきである。
- 2 メディア等への対応
- (1)現状
刑事加害者の情報が報道されることによって、刑事加害者家族が社会から排斥される状況にあるため、メディアによる事件報道には刑事加害者家族への影響の考慮と、刑事加害者家族の心情への配慮が必要である。
月刊『創』の編集長である篠田博之氏はメディアによる事件報道による刑事加害者家族の置かれた現状を以下のように指摘する。
社会的にニュースになるような凶悪事件においては、刑事加害者だけでなく刑事加害者家族も「罪を犯した家族」として一緒に袋叩きに遭う構造がある。このような状況の中で、刑事加害者家族は名前も出せない生活をずっと強いられている。これは、多くの社会学者が指摘しているように、日本の社会構造に問題がある。すなわち、欧米のように個が確立されておらず、家族と犯罪当事者が区別されずに、同時に責任追及される風潮である。
刑事加害者家族としては、人生の根本に関わる非常に重要な問題である。
凶悪事件など社会的影響の大きい事件では、メディアによる事件報道もされるので、刑事加害者家族が従来通りの生活ができなくなるという現実は深刻だが、社会的背景に根付いているので、理屈で解決を図れるものでなく、解決には社会的背景に訴えかけるなど長期的な取り組みが必要になる。
- (2)弁護人のメディア対応
- ア 問題提起
殺人事件や多数の死者が出る事故などメディアによる事件報道が大々的にされている事件で弁護を引き受けたとき、メディアによる事件報道対策を行う弁護人は少なかったのではないだろうか。
殺人事件や多数の死者が出ている事故など重大事件では、逮捕された刑事加害者の家族は家族の一員が事件に関わっていた(という疑いを警察に掛けられた)ことを警察から連絡を受けて初めて知り、「本当に事件を起こしたのか」と疑問に思い、驚愕し、「本当なら自分たちのこれからの生活はどうなるのか」とパニックに陥り、何をどうしたらよいかわからなくなる。
そのようなときにメディアの記者がコメントをとろうと自宅に押し寄せてきても、刑事加害者家族は何をどう話せばよいか冷静に考えるどころではない。断われば、コメントがないことを記事にされ、無責任だとして世間の非難の的になりかねない。記者の質問に答えたくなくても断われる雰囲気ではない。必死に考えて何とか答えても、無意識のうちに失言をすればその言質が記事に使われる。
その失言により、報道で刑事加害者家族への非難が一気に強まる。
社会的に非難の対象となった刑事加害者家族は、突然、近隣住民から遠ざけられ、親戚から縁を切られ、職場にも学校にも行けず、転居、失職、転校という、それまでの人生を断ち切られるような生活、人生を強いられることがある。
弁護人が刑事加害者の了承のもと守秘義務に反しない限りで有効なメディアによる事件報道対策をすることは、メディアによる事件報道の上記問題点をできるだけ小さくすることとなり、刑事加害者の適正手続の保障という観点から有意義である。刑事加害者の家族が様々な不合理な事態に陥らないようにする上でも有意義である。刑事加害者の帰属先の確保にもつながる。
WOH代表の阿部恭子氏も、刑事加害者家族への加熱報道の波及を早期に沈静化させるためにも、メディア対応による情報コントロールの重要性を述べられている。
- イ 弁護人の対応
メディア対応に精通されている清水勉弁護士(東京弁護士会所属)は刑事加害者の了承のもと守秘義務に反しない限りで以下の対応が考えられることを述べる。
- ① 刑事加害者に弁護人選任届を書いてもらったら、刑事加害者家族に自分が弁護人に就任したことを伝える。
- ② 刑事加害者家族(の一員)が犯罪被害者(殺人、交通事故、性的犯罪など)であるような事件で刑事加害者と利害対立関係がある場合などは別として、弁護人が刑事加害者家族への取材について窓口になり、刑事加害者家族が直接、取材に応じなくて済むようにする。記者から取材の申込があったら弁護人に連絡するよう伝えてくれれば弁護人のほうで対応すると説明する。
- ③ 刑事加害者家族のコメントは、刑事加害者、刑事加害者家族に不利にならないよう無難なものに抑える。
- ④ メディアによる事件報道への対応が必要なケースではできるだけ早く取り組んだほうがよい。記者会見をする場合には、レジメを用意して説明することで、恣意的な記事になることを牽制する。誤報については訂正要求のFAXを報道機関に送信する。重大事件の場合には国選弁護人を複数選任することも可能であり、メディア対応を分担して行う方法もある。
- 3 インターネットの誹謗中傷記事削除
- (1)問題提起
SNSの普及により、だれもがインターネット上にある情報を集めてきて自由に公表できる社会になった。
重大事件が発生したことがニュースになると、あっという間に、一部の市民が一斉に刑事加害者の氏名・住所、過去情報や刑事加害者家族に関する情報、刑事加害者が通う学校、勤める会社などの情報をインターネット情報から探し出し、それをまとめてインターネットに公表することが多々みられる。事件発生直後から、インターネット上には関連情報が氾濫し、メディアによる事件報道より遥かに私生活を暴くような内容になっており、しかも誤報も多く、刑事加害者家族を深く傷つけ追い詰める。刑事加害者家族には反撃する余力はない。
- (2)弁護士の対応
インターネット上に拡散した誹謗中傷記事の削除問題に精通されている中澤佑一弁護士(埼玉弁護士会所属)によるとインターネット上に拡散した誹謗中傷記事については削除請求が考えられるとのことである。
法的構成としては、記事の管理者に対して、プライバシー権の侵害に基づく削除請求が考えられる。具体的には、①訴外での削除請求の方法と②裁判上での削除請求の方法がある。
① 訴外での削除請求については、管理者に削除請求の書面を送付したり、違反報告のフォームから請求を送る方法がある。
② 裁判上での削除請求については、保全仮処分を行う方法と削除訴訟の方法がある。
EUでは「忘れられる権利」が確立し、日本でも、さいたま地裁平成26年12月22日決定において「ある程度の期間が経過した後は過去の犯罪歴を社会から『忘れられる権利』を有する」と判示され逮捕歴の検索結果からの削除を命じる決定が下されている。
- 第3 宣言第2項
- 1 はじめに
刑事加害者家族の支援活動の現状は、基本的には刑事加害者に対する援助制度を利用することが中心となっている。
弁護人・付添人・対応弁護士に対する必要な報酬・経費を助成する制度を作ることが、支援活動の広がりにつながる。
日弁連・各弁護士会が各援助制度の拡充を図っていくことが求められる。
- 2 援助制度の現状
- (1)実費の援助制度の現状
例えば、国選弁護人・国選付添人の実費である遠距離打合せ・協議等に関する交通費などについては、「親族、身元引受人等との打合せ」は支給事由となる。
要通訳事件では、通訳料や通訳に伴う文書作成料(翻訳料)に関して「関係者との打合せ等」も支給事由となっている(但し、文書作成料に関しては1文書3万円を超える場合には、支給の可否について事前の検討が必要となる)。
- (2)報酬加算制度の現状
また、報酬自体の加算事由として、国選付添人に関し、「環境調整」として、「少年の就学先、就労先又は居住先を確保し、かつ、少年に対し保護処分に付さない旨の決定又は保護観察決定がなされた」場合には、国選付添人報酬が加算される枠組みが取られている。
- (3)罪を問われた障がい者等の刑事弁護等の支援の現状
罪に問われた障がい者等の刑事弁護等支援制度により、刑事加害者に対する福祉専門職等の更生支援計画書策定費、福祉専門職等の面会費用、医師の意見書・診断書費用が援助されて、刑事加害者に対する福祉専門職等による支援の機会が拡がり、家族の負担軽減にもつながっている。
- (4)「よりそい弁護士制度」等の現状
兵庫県弁護士会、愛知県弁護士会、札幌弁護士会、第二東京弁護士会、広島弁護士会(試行)では、「よりそい弁護士制度」が実施されている。第二東京弁護士会の「よりそい弁護士制度」には、「よりそい相談」と「よりそい支援活動」がある。「よりそい相談」は、民事法律扶助や委託援助制度を利用できない相談に関しても、弁護士会が相談料を担当弁護士に支払うことで、本人の負担なく相談ができる。「よりそい支援活動」は、弁護士によってケースに応じて行われる様々な活動(①帰住先確保の支援・帰住先との関係調整、②障がい者手帳取得・年金免除申請、③釈放後の生活保護申請、④家族・学校・就労先との関係調整、⑤DV・依存症の治療への橋渡し)などに関して、弁護士会が支援活動費用を支払うという制度である。
- (5)法テラスの民事法律扶助・日弁連委託援助の現状
また、刑事加害者や刑事加害者家族に関して、司法サービスを利用する必要がある場合、債務整理や離婚、雇用先からの解雇等の労働事件などにおいては、法テラスの民事法律扶助を活用することが考えられる。また、生活保護申請に関しては、日弁連委託援助制度を活用することが可能である。その他、刑事加害者家族であるが、犯罪被害者でもある場合には、法テラスによるDV等被害者援助弁護士による法律相談を受けることが考えられる。
- (6)援助制度の拡充の提言
以上のとおり、刑事加害者家族の支援活動の現状は、基本的には刑事加害者家族支援というよりは、刑事加害者に対する活動に助成がされている。
弁護人・付添人・対応弁護士に対する必要な報酬・経費を助成する制度を作ることが、支援活動の広がりにつながる。
そこで、日弁連・各弁護士会に対しては、国選加算の充実(加算事由に関して刑事加害者家族支援項目の設置や増額)、日弁連委託援助制度の拡充(刑事加害者家族支援活動の創設)、第二東京弁護士会などで実施されている「よりそい弁護士制度」等を各弁護士会でも創設するなど、弁護人・付添人・対応弁護士に対する必要な報酬・経費を助成する援助制度の拡充を図っていくことを求める。
- 第4 宣言第3項
刑事加害者家族支援の現状に関して、刑事加害者家族に特化した支援制度がないと言わざるを得ない。
そのような中で、刑事加害者家族に直接関与するのは、弁護人・付添人であり、特に経済的基盤に乏しい刑事加害者家族に関しては、国選弁護人や国選付添人が、弁護人活動・付添人活動の中で、刑事加害者家族支援にもつながる活動を担っている実態がある。
しかし、そのような弁護人・付添人の意欲に基づく活動のみに依拠することは難しく、事実上手弁当のような状態になっているとすれば、弁護士に対する支援制度の拡充なしに更なる刑事加害者家族支援の拡充は困難といえよう。
また、刑事加害者と刑事加害者家族の考えが一致しないような場合、弁護人・付添人とは別に、対応弁護士を選任しての対応が求められる。
そこで、国・地方公共団体に対して、弁護人・付添人・対応弁護士独自の助成費目の創設を求めるとともに、現状なされている刑事加害者に対する国選弁護人・国選付添人報酬加算の拡充を図る等、弁護人・付添人・対応弁護士の活動への経済的支援制度の現状を検討した上で、その拡充や新たな創設の必要性を訴えたい。
- 第5 宣言第4項
- 1 現状においては、公的機関による相談窓口の構築は、ほとんどなされていない。
したがって、刑事加害者家族の困りごとに対応する専用相談窓口の創設が喫緊の課題である。
この点に関し、WOHは非常に精力的に活動されており、弁護士会は、必要に応じて同法人と連携を取るとともに、国・地方公共団体に対して、更なる相談体制の拡充及び刑事加害者家族支援に関するネットワークの構築を要請する必要性は高いといえる。
- 2 刑事加害者家族に対しては、その置かれた状況により5つのニーズが想定される。
すなわち、(1)司法手続支援ニーズ、(2)経済支援ニーズ、(3)就労支援ニーズ、(4)育児・教育支援ニーズ、(5)相談・情報支援ニーズの5つである。
- (1)司法手続支援ニーズについて
刑事加害者家族は、刑事手続を全く知らないのが一般的である。家族の一員が突然、逮捕されたり、家宅捜索を受けたりしたことにショックを受け、今後どうなるか不安になる。この不安をいくらかでも軽減するべく、弁護人は刑事加害者家族に対して逮捕後の手続について説明すべきである。
刑事加害者家族は、被疑事件について、重要参考人や家宅捜索などを受ける立場となる。起訴されれば、アリバイ証人や情状証人になることもある。刑事加害者が少年であれば、保護者は警察での事情聴取、鑑別所での少年面会、鑑別調査の協力、審判手続に関与していくことになる。それ以外にも、身体拘束からの解放のため身元引受人となったり、被害弁償に協力したり、刑事加害者の環境調整、刑事手続後の監督などの支援に携わるなど、刑事手続において、刑事加害者家族は重要な役割を担うことになる。
- (2)経済支援ニーズについて
刑事加害者家族が刑事加害者本人の稼働収入に依拠している場合、あるいは刑事加害者が刑事手続にかけられたことによる種々の影響によって稼働が困難となる場合などにおいては、当面の生活費や収容後の家計を維持するための費用をいかに確保するかが課題となる。また、刑事手続においても、被害弁償や弁護士費用などをいかに捻出するかについても、直近の課題として重要となってくる。加えて、刑事加害者家族が転居せざるを得なくなる場合もあるが、転居費用を捻出できず転居したくてもできない場合もある。
このような刑事加害者家族の経済支援ニーズは、刑事加害者家族となった時点から刑事手続が終わった後も必要となってくるものである。
- (3)就労支援ニーズについて
刑事加害者家族において、その雇用を維持することは生活を維持する上で非常に重要である。刑事加害者家族は、刑事手続や刑事加害者本人への対応を余儀なくされることや、報道や誹謗中傷、職場に事件のことが知られ勤務を継続し難い状況になるなどして、職場に居づらくなるケースがある。辞職を強要されているようであれば、弁護士の相談につなぐべきである。刑事加害者家族に対して雇用を維持するための支援のニーズは高い。
また、失職した場合には、刑事加害者家族はその家計を維持し被害弁償などのためにも、再就職することが必須である。刑事加害者家族として失職してしまった場合は、経歴に傷が付いたり、風評等によって、再就職することが難しくなることがある。そのため、再就職に対する支援のニーズは高いものといえる。
- (4)育児・教育支援ニーズについて
保護者が逮捕・勾留された場合や服役した場合など身体拘束を受けるケースなどにおいては、その後の刑事加害者の子どもに対する監護・養育をいかにするかが課題となっている。また、家族が刑事加害者となったことにより、子どもたちはさまざまな心理的問題を抱えることとなる。学校でいじめられたり、不登校になったりするなど人生が大きく変わってしまうこともある。子どもは精神的にも経済的にも極めて弱い立場にあり、自ら解決する力を持っていないから子どもの監護・養育に関する支援は必要不可欠である。
- (5)相談・情報支援ニーズについて
我が国においては、個々人の立場を個別に捉えるのではなく、刑事加害者家族も刑事加害者と一体的な存在であるかのようにみなす傾向があり、刑事加害者家族に対する風当たりは強い。刑事加害者家族の側も社会に助けを求めることをためらう。そのような影響もあってか、我が国では刑事加害者家族支援に関する専門の支援機関が極めて少ない。日々、全国各地で刑事加害者家族が新たに生まれているのに、どこにも相談できない、必要な情報を得られないという事態が起こっている。
このような状況を打開するためには、社会の啓発活動を広げるとともに、刑事加害者家族に対する相談体制や情報提供を充実させる必要がある。
- 3 国及び地方公共団体に対して、刑事加害者家族の5点のニーズに応じた具体的な支援制度を創設していくことが求められる。
- 第6 宣言第5項
市町村等の自治体で新たに「刑事加害者家族の困りごとに対応する専用相談窓口」を立ち上げることは、世論形成や予算の問題等から時間を要し、困難を極めることが予想されるところである。
しかしながら、民間団体の活動に市町村等の自治体がサポートする制度設計であれば我が国でも実施することは実現可能な方策ではないかと考える。
具体的には、今存する民間の刑事加害者家族支援団体に対して、国・地方公共団体が、(1)法令・条例等を成立させ、予算を確保し、経済的援助を行い、(2)新たな支援団体を立ち上げる際の助成をするなど、民間の活動に公的機関が支援・助成する枠組みである。
その上で、各ニーズに応じた、具体的な支援制度を創設し、現行の制度も刑事加害者家族支援を考慮した拡充が必要ではないだろうか。
イギリスで行われているPOPS(Partners of Prisoners Families and Support Group:受刑者とその家族のパートナー)による支援等は参考になると思われる。
また、弁護士は、民間の刑事加害者家族支援団体と協同して、このような枠組みを構築できるよう国及び地方公共団体に働きかけをしていくべきである。
- 第7 まとめ
当連合会は、刑事加害者家族の置かれた現状についての問題点を提起し、刑事加害者家族を支援する意義を再認識するよう各弁護士に求めるとともに、国及び地方公共団体に対し、刑事加害者家族への支援及び弁護人・付添人・対応弁護士への支援を求めるべく、本宣言をするものである。